083 武闘大会 (1)


俺は、伯爵様に呼び出されていた。


「わざわざ来てもらってすまんな。

実は一つ依頼をしたい」


「依頼ですか。

ギルドを通すなら高くなりますよ?」


Sランクになってから、指名依頼の額が跳ね上がったのだ。

ちょっとした事でも、数百万スートになるのだ。


「うむ、今回の依頼は非公式なものになる。

受ける気はあるかね?」


「非公式はいまさらな気もしますが、内容を聞かないことにはなんとも言えませんね」


「それもそうだな。

依頼主はワシではなく、国、つまり陛下と言うことになる。

このことは内密にな。

それで、依頼内容は、『自主的に武闘大会に参加すること』だ」


「武闘大会ですか?

聴きなれませんが、毎年やっているのですか?」


「いや、5年に1度、各国の代表を1名出し合って、リーグ戦を行う。

今年はザパンニ王国で開催されることになっている。

参加国は、ザパンニ王国以外は、北のアズール帝国、南のべスク王国、西のイングリッド教国、東のヤパンニ王国の4国だ。


昔の戦争が終結するとともに、友好の証として、会場を各国で持ち回りで開催しておる。

しかし、各国の代表を出すと言うことは、その国の国力を表す。

各国は自国の最大戦力を出し、本気で勝ちにくる。なので、最高戦力のSランクを出してくる。


そこでお主だ。

依頼で出場したSランクが勝っても、冒険者は国に縛られんので、自国の戦力が優秀だと言えん。

しかし、自主的に参加したとなれば、その国と縁のある冒険者となり、自国の戦力だと喧伝できる。

さらには、活躍すれば、貴族になることも可能だぞ?」


なるほど、国の代表を戦わせて、戦争の代わりにしようと言うのか。

そこに自国に帰属意識を持っているSランク冒険者が参加し、勝利するのが必要だと。


「この国には他にもSランクがいると聞いたことがあるのですが?」


「うむ。前回出場したSランクがおったのだが、先日引退してな。

なんとか、今回の武闘大会まで引退を伸ばせないかと腐心したのだが、意思が固くてな。

なんでも、孫が生まれたので、危険な冒険者は引退するとかでな。故郷が田舎なので、呼び出すにも時間がかかりすぎて間に合わん」


なるほど、元Sランクとなれば、余生を過ごすくらいの金は持っているだろうし、自分の意思を優先するだろうな。


俺が参加を求められている理由はわかったが、ちょっと困る。

不老を隠すために、冒険者資格自体は定期的に新規発行すれば、別人で通るが、大きな舞台で名をあげたら、流石に気づく者もいるだろう。

それさえ無ければ、受けてもいいんだが。。。


「それは顔を隠しても参加できますか?」


「流石にそれは無理だ。国の代表だからな。

お主が目立つのを避けたがっているのは知っているが、ここは曲げてお願いしたい」


伯爵様に、いや、義父親になるのだから、ドゴール様の方が良いか。

ドゴール様に頭を下げられてしまった。


「少し考えさせてもらっても良いですか?」


「うむ、10日くらいなら待てる。

それ以上となると、別人を探す時間がなくなるからな」


「私が出場しなかった場合は、誰が出場することになるのですか?」


「騎士団から誰か出すことになるだろう。


だが、問題はそこではない。

Sランクが国に縁があると言うが大事なのだ。

Sランクは国が許可を出して初めてなれる。しかし、そのSランクが武闘大会に参加しない、つまり、国を見限ったと見られ、立場上、非常にまずいのだ。

今の所、当国で認めた、現役のSランクはお主だけだからな」


「有名どころのAランク冒険者をSランクに認定すれば良いのでは?」


「功績を挙げていないAランクを武闘大会のためにSランクにしたとなれば、それはそれでバカにされてしまう。

それくらいなら、冒険者なしで大会に臨んだ方がマシだ」


「そうですか。。。数日考えさせていただきますね」


「うむ。良い返事を期待しておる」




俺はどうしようか悩んでいた。


参加するのも簡単、勝つのもおそらく簡単だろう。

だが、名声を得ると言うことは、顔を知られるのと同義である。

申請すれば簡単に新規発行できる冒険者カードと違い、人の記憶は長いこと残る。

ほとぼりが冷めるまで待つにも何年もかかるだろう。


別に金はあるので、10年ほど田舎で生活していたもいいのだが、大会に出たら、恐らく国が放って置いてくれないだろう。なんらかの形で、国に仕えるかして、抱え込もうとするだろう。

今のSランクでも懸念材料ではあるが、大会で活躍してしまったら、まず確実に起きる未来しか見えない。


では、大会でわざと負けて、活躍しなかったらどうなるだろうか。


恐らく他国のSランクに見破られて、国に恥をかかせるだろう。

『仕方なしに出場して、やる気のなかったSランクを出場させた』と言って。


つまり、参加するなら、勝利も活躍も必須。そして顔バレも必須だと言うことだ。

それに、その後にも面倒な仕事が増えるだろう。仕事に限らず、貴族社会と関わることが増えるに違いない。


俺だけの問題なら、すぐに他国の田舎に行って、10年ほど潜んでから、新規に冒険者登録すると言う手も使える。

しかし、ここでリリア様の問題が出てくる。


リリア様と結婚したからと行って、俺が貴族になるわけではないが、伯爵家とは縁ができる。その俺が国を見限った(武闘大会に参加しない)となったら、オーユゴック伯爵家の株を下げることになる。


つまり、俺に与えられた選択肢は、顔バレを諦めて出場し活躍するか、リリア様を捨てて、ほとぼりが冷めるまで田舎で隠居するかの2択になる。




俺は悩んだ末、結論を出した。


「ドゴール様、決めました。出場します」


「おお、出場してくれるか。ありがたい。わしの面目もたつと言うものだ」


「しかし、条件があります。

私は参加し、活躍します。

しかし、その褒美と称して、国に帰属させる、例えば貴族にするなど、の行為を行わないことです」


「貴族に興味がないのか?リリアの為にも貴族になってくれると嬉しいのだが」


「先日も申し上げた通り、貴族になっても、リリア様が苦痛に感じられるだけでしょう。

それに、私も貴族に興味はありませんし」


「わかった。その条件を飲もう。

報酬は金貨50枚、優勝したらさらに100枚だ」


「了解しました」





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