079 お祭り


「ジン様、お祭りに行きませんこと?」


「お祭りですか?

この時期にやってるんですか?」


「ええ、豊穣祭とは違って、縁日のようなものですわ。

魔法で夜空を照らして、いろんな幻想的な風景を見せてもらえるんですよ。

ロービスの魔法使いはこの祭のために、デザインをするとか。


出来の良い作りをしているものには懸賞金が出るとか」


なるほど、花火大会のようなものか。


「ほう、それは楽しそうですね。

近くでやってるんですか?」


「以前行った、湖の湖畔ですわ。

当日はロービスから無料の辻馬車を出して、参加を呼びかけてますわ。


民衆からも人気の高いお祭りで、屋台なども立つんですのよ」


「それは素敵ですね。

では、縁日デートと行きましょうか」


「で、デート、、、そうですわね、デートに行きましょう」




祭は、前日から騎士団が出動して、貴族用のスペースを確保しているとか。

一般用のスペースには屋台などが並ぶ。


俺たちも貴族用のスペースにテントを構え、祭が始まるのを待つ。


「マリア、屋台で何か買ってきてくれないか。

もちろん、お前達の分もだ。


結構長い間祭をやるようだから、何か食べておきたい」


「了解しました。

有名どころですと、唐揚げ、ポテトフライ、かき氷、りんご飴などがございますが?」


「そうだな、唐揚げとポテトフライ、それからジュースをピッチャーで買ってきてくれ。

何か珍しいものがあれば、それも頼む」


「かしこまりました、しばらくお待ちを」


祭といえば、唐揚げとポテトフライだろう。

食べ過ぎると、気持ち悪くなるが。。。



「お待たせいたしました。

唐揚げとポテトフライにジュースになります。

あと、飴細工を見つけましたので、買ってまいりました。


こちらが、ドラゴンを模したもので、こちらはレインリーフを模したものになります。

どちらも、色ごとに違う果汁の飴を使っているそうで、いろんな味が楽しめるとか」


「ご苦労様。

ところで、唐揚げとポテトフライの量が尋常じゃないんだが、誰が食うんだ?」


「夕食がわりに食べられるのでしたら、このくらい必要だと考えて購入してまいりました。

多かったでしょうか?」


「多いな。騎士達にも振舞ってやってくれ」


「はい」



そんな話をしていると、祭が始まった。

夜空に、花火のような、色とりどりの、円形の光が現れると同時に、拡声魔法で、祭の開催が宣言される。


ドラゴンを模したものは、細かい部分まで動きがあり、躍動感に溢れていた。

レインリーフを模したものは、種の状態から、花が咲くまでの過程を表現していた。

有名な物語の、騎士と魔物の戦いの風景を、劇風にしたものもあった。


それぞれ、音響なども入っており、大変見ごたえのあるものだった。

最後も花火のような円形の光と同時に、終了の宣言がされる。


祭自体は徹夜で行われるらしい。

皆、酒を飲んで、先ほどまでの作品の品評をしている。


騒ぎを起こすものもいて、兵士が忙しそうに走り回っている。

まあ、貴族用のスペースは関係ないが。。。



「これはリリアーナ様、相変わらずお美しい。

これは、うちの長男でキリクと申します。

我が子爵家、歴代でも最高の逸材と言われておりましてな、リリアーナ様とも懇意にさせていただければと。。。」


「リリアーナ様、キリク・フォン・キンバークと申します。

ぜひ、一度我が家のパーティにご紹介いたしたく」


おいおい、俺の婚約者だぞ?

周知の事実だぞ?

それとも、そんな事も知らない田舎者なんだろうか?

これは存在を主張しておかなければ。


「失礼、私はSランク冒険者のジンと申します。

リリアーナ様とは懇意にさせて頂いて居る者です」


「貴様、貴族同士の話に割り込むとは何様だ!

Sランク冒険者など、ただの平民ではないか!

いますぐに土下座して謝れば許してやる」


自分の立場が分かっていない、馬鹿者の方だったらしい。

それに、これにはリリア様も黙っていない。


「キリク様、ごきげんよう」


「おお、リリアーナ様、話す声も鳥のさえずりのように美しい。

私に声をお聞かせいただけるとは、光栄の、、、」


「キリク様!

こちらは私の『婚約者』のジン様です。

婚約者への侮辱は私への侮辱も同然です!

あなたも貴族ならわきまえてくださいな」


「こ、婚約者ですと!?

こんな若造が?リリアーナ様、こんな者よりも、次期子爵家当主の私の方が、お嬢様にふさわしいかと、、、」


「キリク様!

何度も言わせないでください。

この方は私の婚約者です。

お父様もお母様もすでに認めて居る、公認の婚約者です。

これ以上、無礼を続けられるなら当家への侮辱と見なします。

その辺、よく考えて発言くださいな」


リリア様は相当怒って居るらしい。

家の名前だしてきたよ。


「ううん、キリク、この話はそこまでにしなさい。

リリアーナ様、今日はこの辺で失礼します。

愚息の失礼はなかったことにしていただければ幸いです」


父親は状況が分かって居るらしい。



貴族がマナーを守って居ると言った俺の感想を返して欲しい。

まさか、俺とリリア様の婚約を知らない奴が、オーユゴック領にいたとは思わなかった。


「ジン様、ご不快な気分にさせて申し訳ありませんでした」


リリア様が謝ってくれるが、この位ならなんでもない。

多少酒が入っていたのと、無知だったのの二重奏だっただけだ。


無知とは恐ろしいね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る