078 ダンスで死にます?


やはり、俺の名がバレた。

貴族の間では、Sランク冒険者のジンと、貴族のお嬢様の身分の垣根を超えた熱愛、という事で話題になっている。

俺の顔は、黒目黒髪と珍しいので、それも広まっている。

おそらく、貴族のパーティなどに出席したら、その話で盛り上がるんだろう。俺以外の女性方が。


では、男性に興味を持たれないのかと言うと、そうでもない。

Sランク冒険者と言うのは、ツテを持っておきたい戦力なのだ。


今回の件で有名になるまでは、ギルドの協力もあって、顔バレはしてなかったのだが、やはり、お茶会の席での話が漏れたのか、王都のオーユゴック伯爵邸に、俺宛の手紙が多数届いている。

どれも俺と一度話したいと言うもので、茶会であったり、パーティへの招待であったりし。

リリア様に相談して、使用人に断りの手紙を代筆してもらい、サインだけしている。


リリア様にもお茶会やパーティのお呼びがかかっているが、こちらは厳選して参加するらしい。貴族の付き合いというものらしい。

もちろん、それそれの場では、俺との話がメインだ。毎回同じ話をしていると、愚痴っていた。




「リリア様、たまには観光に出かけませんか?

東の湖に景色の良い場所があると聞いたのですが」


「ええ、少し小高い丘があって、湖が一望できます。

今の季節ですと、少し暑いかもしれませんね。

日焼け止めの用意をしないと。。。」


「では、スケジュールはリリア様にお任せするので、決まったら教えてください」


「わかりましたわ。

馬車の手配などもやっておきます。

護衛を連れて行くことになりますが、構いませんか?」


「それは仕方ないですね。

リリア様は貴族ですから」





しばらくして、行く用意ができたと連絡が来た。

準備はリリア様がしてくれているので、俺は着の身着のままだ。

一応、装備はつけている。

他の荷物を持っていないと言う意味だ。(もちろん、<インベントリ>にはいくらでも入っているが。)


今回は馬車で半日ということで、日帰りが無理なので、幕舎を持って行くそうだ。

リリア様の寝所にもなる。

俺は別のテントだ。


俺たちは馬車の旅を楽しみながら、湖がどんなところかを聞いて行く。


「湖には魚などはいないのですか?」


「いますが、魔物も出ますので、泳ぐのには適してませんわ」


それは残念。リリア様の水着姿なら、金を払ってでも見たかったのだが。


「では、釣りもされないのですね」


「ええ、魔物相手だと、簡単に釣り糸を切られてしまいますので」


「丘の周辺は安全なのですか?」


「たまに野生の動物が出るくらいで、魔物は出ないそうです」


「なら、のんびり出来そうですね」



そんな話をしながら、進んでいくと、昼下がりに目的地に到着した。

兵士たちが、天幕を張って、休憩所を作って行く。


俺とリリア様は天幕の中から湖を見渡し、広い湖の景色を堪能した。


「綺麗ですね」


「そうですね、この湖は上流の方では冷たい湧き水になっていて、飲むと寿命が延びるという伝説があるそうですわ」


「いえ、綺麗なのは、リリア様です。

湖を見ている表情が美しい。そんな優しい顔もできたんですね」


「ほ、褒めても何も出ませんよ?」


リリア様は若干赤くなりながらも返事を返した。


「リリア様はもう少し、ご自身に自信を持たれた方が良いかと思います。

それだけ綺麗だと、夜会などでダンスの相手にも困らないでしょう?」


「ええ、困ったことはありませんが、今はジン様以外とのダンスには興味はありませんわ」


「私はダンスが踊れないので、ご期待には添えませんね」


「今度、ダンスの先生でも呼びましょうか?ジン様ならすぐに踊れるようになると思いもますよ?」


「俺を殺す気ですか?ダンスを踊る機会なんて、今後もありませんよ」


「そうですか。残念です」


リリア様は本当に残念そうな顔をしていた。

俺も踊れた方がいいんだろうか?

だけど、夜会や晩餐会なんて、参加する予定もないし、いらないよね。


俺たちは一泊し、翌朝の日の出を一緒に見てロービスに帰った。




クレア、マリア、何もなかったか?


「それが、貴族様からの手紙が、オーユゴック邸ではなく、直接こちらに送られてくるものがございまして」


「この家のこともバレたか。

どこかに引っ越すか?」


「それでもすぐにバレると思います。

どうせ引っ越すなら、オーユゴック邸(城)に引っ越す方が現実的です」


「とりあえず、来ている招待状に関しては、断りの手紙を書いてくれ。俺はサインだけする」


「承知しました」



クレア、お前の方はどうだ?


「はい、毎日オーユゴック邸(城)に行き、騎士達と模擬戦を中心に鍛えてもらっています」


「そうか、騎士団では、どのくらいの実力になった?」


「そうですね、小隊長には勝てるようになりました。

大隊長や団長にはコテンパンにされています」


「そうか、良い訓練を積んでいるようだな。重畳重畳」


「リリア様の夏休みの間は、しばらくこの生活が続くと思ってくれ」


「「はい」」

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