080 結婚運びデート (1)


リリア様は大変おかんむりだ。


昨日の子爵のアピールに対して、『縁ある者』と名乗ったのがダメらしい。

リリア様的にははっきりと『婚約者』と言い切って欲しかったようだ。


しかし、俺にも言い分はある。

リリア様との婚約は、事実婚ならぬ、事実婚約だ。状況的に婚約する以外になく、俺の心境的にまだ婚約者という心算ができてないのだ。


それに、俺の<不老>も大きな理由だ。

これは貴族に限らない。俺と結婚しても友達に変わりはないだろうから、そういう話とは無縁でいられないだろう。




さて、俺の事情は置いといて、リリア様の機嫌が悪いのは何とかしなくてはならない。

プレゼントが良いか、デートが良いか。俺にはそれくらいしか思いつかない。プレゼントは先日ネックレスとイヤリングのセットを渡したばかりなので、デートか。

ただのデートでは、機嫌を直してくれないだろう。何か一工夫しなければ。


、、、よし、あれにしよう。大変恥ずかしいが、リリア様には満足してもらえるのではないだろうか。




「リリア様、ちょっとよろしいでしょうか?」


返事がない。

やはり怒って居るようだ。


「リリア様、明日デートでもどうかと思ったのですが、お忙しいようでしたら、他の方をお誘いして、、、」


バン、と扉が開いた。


「ダメですわ!他の方と出かけるなんて!」


「では、明日俺とデートしましょう」


「どうしてもというなら、して差し上げますわ」


「どうしても、明日デートがしたいです」


「そ、それなら仕方ありませんね。ちゃんとエスコートしてくださいな。約束ですよ?」


「もちろんです。リリア様に満足していただけるようにします」




俺は、部屋に戻ると、ルナを呼んだ。


「ルナ、今はやりのカフェや、レストランはあるか?

明日、リリア様とデートなんだが、どこにしようか悩んでる」


「リリア様のご機嫌とりですか。大変ですね。

カフェに関しては、以前行かれた場所がいまだに流行してまして、そこがよろしいかと存じます。

レストランに関しては、お嬢様のご機嫌をとるのであれば、ある程度高級なところでないとダメでしょう。ジン様も準礼装くらいで臨むのがよろしいかと」


準礼装クラスの店か、結構ハードルが高いな。

マナーとか知らないし。ナイフやフォークは外側から使うんだっけ?


「それで、店なんだが、、、良さそうなところを予約してくれないか。

流石に高級店は予約が必要だろう」


「無論、予約は必須です。

今から予約して間に合うかはわかりませんが、すぐに行ってまいりましょう。

貴族街の中にある、カップルオススメの店でいかがでしょうか。

貴族の恋人たちがよく利用する店で、お嬢様もご存知のはずです。

そこなら、恋人を誘ってるとアピールできるでしょう」


「よし、そこを予約してくれ。良いワインも、、、リリア様はお酒は飲めるのか?」


「嗜むくらいはされるかと思いますが、ほとんど飲まれません。

というか、飲む機会がなかったというのが正しいかもしれません。

ワインよりもジュースを好まれるので」


「そうか。ならジュースで頼む。一応、飲む場合に備えて、ワインも確保してくれ」


「かしこまりました。

すぐに行ってまいります」




翌日、リリア様は凝ったドレスを来て現れた。

かなり気合が入ってる。


俺も気合い入れないと、今日の予定に尻込みしそうだ。


「ジン様、馬車はまだですの?」


「今日は馬車は要りません。私がお運びしますので」


「???」


「では、失礼します」


俺は、リリア様をお姫様抱っこした。


「じ、ジン様何を?!」


「結婚運びですが、何か?」


リリア様は真っ赤になって、何も答えれないようだ。


「今日はこのままデートをします。

寄りたい店があったら言ってくださいね」


「あ、あの、結婚運びは、その、、、」


「婚約の証なのでしょう?

俺たちは婚約して居るので、問題ないはずです」


「そ、それはそうですが、、、このままで街を回るんですの?!」


「もちろんです。皆に、俺たちが婚約して居ることを見せつけてやりましょう。

そうすれば、先日のような不愉快なことは起きないでしょう」


そう、俺は一日中、移動は全てお姫様抱っこで運ぶつもりだ。


注目は集めるだろうし、非常に恥ずかしいが、リリア様は満足してくれるだろう。




俺たちはお姫様抱っこのまま、屋敷を出て、貴族街を歩いていく。

当然使用人や貴族の方々も目にする。

以前、走った時と違って、ゆっくり歩いて居るので、目にする人も多い。


「きゃー、結婚運びよ。こんな堂々とされるなんて!」


「あの方、リリアーナ様じゃない。じゃぁ、あの男性が婚約者のジン様ね!」


「羨ましいわ、私もあんな風に運ばれたいわ!」

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