072 婚約


しばらくは、リリア様は学院で大変だったらしい。

プロポーズされた訳でもなく、しかし、周りからはそのように取られている。

対処には非常に気を使ったらしい。変な言質を与えるとろくな事にならないので。


そうやって、日々を過ごしていると、伯爵様が王都にこられた。


「ふむ、館を使ってなかった時期があったから、多少ガタがきてると思っていたが、大丈夫なようだな。

早速だが、リリアとジン殿を呼んでくれ」


「御館様、お嬢様は学院に通われています。

ジン様はギルドにお出かけになられております」


「そうか、二人とも帰ってきたら、わしの所に顔を出すように伝えてくれ」


「承知しました。

お部屋に関してですが、主寝室をお嬢様が使われておりまして。。。」


「構わん、客用の部屋を準備してくれ」




俺はその頃、そろそろ仕事でもするかと、ギルドに来ていた。


「アイリスさん、何か良い仕事はありませんか?」


「現状ではジンさんにお任せするような仕事はありませんね。

下級の仕事を受けられるのでしたら、そちらの掲示板からお選びください」


どうやら、難しい案件はないらしい。

確かに、そんなのばかり起きてたら、世界は崩壊しているよね。


依頼ボードを見ると、あまり面白そうなものがない。


仕方なく、ギルドをでて、カフェに向かった。

プリンを出す店だ。


「またいらしてくださり有難うございます。

今日は何にしましょうか?」


「サンドイッチとプリンをお願いします」


「申し訳ありません、プリンは完売となっております」


「じゃぁ、サンドイッチだけで」


俺は小腹を満たして、商人街を歩く。

屋台で買い食いしながら、歩いていくと、リリア様の馬車が通りかかった。


俺は邪魔にならないように、横に避けていたが、馬車が止まって、リリア様が声をかけてきた。


「ジン様、ご一緒しませんか?

屋敷に戻られるのでしょう?」


俺はお言葉に甘えて乗せてもらう事にした。




屋敷に着くと、雰囲気が違う。

緊張感があるのだ。


ルナが出迎えてくれるが、耳元で囁く。

「御館様がこられています」


なんと、伯爵様ご本人が来られたらしい。

これは相手をするしかない。


応接間に案内され、リリア様と二人で部屋に入る。


「二人とも壮健なようで何よりだ。

まずは座れ、話もできん」


俺たちが座ると、早速本題を切り出してきた。


「ジン殿、リリアを結婚運びで貴族街中を走り回ったそうだな。

すでに多くの貴族が知っており、オーユゴックまで聞こえてきたぞ。

ジン殿はリリアと結婚する意思があるとみて良いのだな?」


「それなんですが、結婚運びという習慣を知らなかったために起きた事で、私としては、出来るだけ早く屋敷につける方法をとっただけです」


「それは、リリアとは結婚する気がないということか」


「いえ、リリア様は綺麗ですし、優しい方ですし、問題ありません。

問題があるのは私の方です。


私にはエルフの血が入っているのか、寿命が長いです。

おそらく、ある程度若い状態で、リリア様の死を見届ける事になるでしょう」


「なんと、そんな事があるのか。


リリアはどう考えている?」


「はい、ジン様と一緒になれるのは嬉しいです」


「リリアはこの縁談に賛成という事でいいのだな?

ジン殿は平民ゆえに、貴族籍からも外れる事になるぞ?」


「はい、それに関しては覚悟ができております。

学院を卒業次第、ジン様の旅に同行させていただこうかと考えております」


「え、同行するのですか?

冒険者ですので、結構危ないですよ?

命の危険と引き換えにお金をもらう職業ですので」


「ええ、理解しているつもりです。

今から、1年ちょっと有ります。


学科を体術から剣術に変更して、ジン様のお役に立ってみせます!」


そこまで言われたら仕方ない。


「わかりました。

リリア様を娶りましょう。

ですが、リリア様は庶民の生活ができますか?

こう言ってはなんですが、食事から家事全般、掃除など、やるべき事は多岐に渡ります。

お嬢様育ちのリリア様に耐えれるとは。。。」


「そのくらい覚悟の上ですわ。

ジン様の役に立つように頑張ります!」


本当に大変さが分かっているのか疑問だが、やる気はあるらしい。


「伯爵様、リリア様の決意は固いようです。

私としては、このまま結婚しても良いかと思っていますが、貴族籍の方はどうなりますか?」


「リリア本人は貴族籍のままだ」


「わかりました。では結婚することを前提に話をしましょう。

まず、この結婚に反対の貴族はいますか?」


「いる事にはいるが、小物だから放っておいても構わん」


「それでは、今までお嬢様に言い寄ってきていた人達の扱いは?」


「婚約を前面に出せば、大抵は引いてくれるだろう」


「なら問題ないですね。

学院を卒業時に結婚という事でいかがでしょうか?

もちろん、その間にリリア様の気が変わらなければ、ですが。


「それで問題ない。

住む場所はどうする?」



「ロービスに家を一件購入しています。

3−4人は住める場所ですので、寝室の確保はできるかと」


「なるほど、ならば、根拠地はロービスという事で良いか?」


「いえ、それに関しては、落ち着いたら旅に出るので、しばらく家を空ける事になります。

リリア様は、その時の戦闘技術を見てからですね。

十分でなければ、家で待っていてもらう事になります」


「そうか、そこまで考えているのならわしからいう事はない。

リリアを幸せにしてやってくれ」


「努力します」




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