071 結婚運び?
「マリア、よく我慢したな」
俺はマリアの頭を撫でながら褒めていた。
先日のリリア様誘拐の際に、勝手に先走らなかった事だ。
誘拐も視野に入れて警戒していたので、あらじめマリアに指示を出しておいたのだ。
誘拐される時は一緒に誘拐されるように。
誘拐された後も、リリア様の純潔が危ない場合以外は流れに身をまかせる事。
勝手に暴れて、逃げ出さない事だ。
誘拐を事件にしてからでないと、犯罪として認められない。
なので、実際に誘拐されて、衛兵に突き出す必要がある。
その辺を言い含めておいたのだ。
結果的にうまくいって、バカの処刑も確定した。
これでリリア様も学院で絡まれることもないだろう。
「ジン様、お時間よろしいでしょうか?」
ルナが部屋に入ってきて聞いてきた。
「構わないが、時間のかかる事か?」
「いいえ、ただの確認ですので、すぐ終わります」
「ならなんだ?」
「はい、ジン様はお嬢様と結婚されるのでしょうか?」
「は?なんの話だ?」
「使用人の間で噂になっておりまして。
先日の誘拐事件の折に、結婚運びで、お嬢様を連れ帰ってきたと」
「結婚運び?」
「はい、膝と脇の下に手を入れて抱えて運ぶ事です」
「ああ、お姫様抱っこか。確かにしたな」
「なので、結婚するのか?という話になります」
「つながりが見えないんだが?」
「結婚運びとは、結婚する際に、神の前で誓い合った後、結婚運びで皆様の周りを回られることからついた呼び方です。
なので、結婚運びをして、それを拒絶しなかったという事は、結婚を了承したという証になります」
「げっ」
「げっ、ではありません。
当家の使用人だけでなく、貴族街の多くの使用人および貴族様ご本人が見たと申しております。
今頃は、学院や王宮で騒がれているのではないでしょうか?
結婚運びで貴族街を走り回ったら、俺たち結婚しますと、吹聴して回っているようなものです。
なので、結婚するつもりかと尋ねました」
「結婚運びという言い方を知らなかったな。
その、結婚運びをしたら結婚しないといけないのか?」
「庶民なら当人同士で問題なければ、結婚しなくても構いません。
ですが、貴族ですと、周りが結婚するもんだと勝手に判断しますので、このままではお嬢様は他にお輿入れできません」
なんと、俺は知らない間にプロポーズして、しかも了承された間柄になっていたらしい。
リリア様はあの後、何も言われなかったけど、知らなかったとか?
そういえば、赤くなっていたような気がするが、誘拐されて、助けられたんだから、頬が赤くなることくらいあるよね?
ちょっと苦しいか。
つまり、リリア様も満更でもないと。
うーん、俺<不老>だから、結婚とかまずいんだけど。
冒険者の方は、適当な時期を見て、新規に冒険者カードを作ろうと考えていた。
だけど、このままでは、リリア様は結婚もできずに歳をとることになる。
流石に後味が悪い。
もういっそ、今死んだことにして、バイバイするか?
うーん、そこまでの事でもないような気がするし。
俺がずっと若いのも言われるだろうし。
いっそ、エルフの血でも入ってることにするか?
一人で考えてても結論は出ないな。
リリア様とも話をしないと。
「ルナ、リリア様を呼んでくれ」
リリア様が部屋に来た。
俯いて、泣いているようだ。
「リリア様、こちらにお座りください」
ソファーを指して誘導する。
「はい。。。」
リリア様は消え入りそうな声で応えた。
「リリア様、なんの話かはわかりますか?」
「すいません、ジン様。
ジン様にそんなつもりが無かったのは分かっていたのですが、すぐに動けなくて。
ジン様も急にこんなこと言われたら、混乱しますよね?
私のことは気にしなくて良いので、お二人を連れて旅に出てください。
こんな事になったら、ジン様が王都にいると、色々うるさいでしょうし」
「状況は分かっているようですね。
俺は、結婚運びというものを知りませんでした。
なので、プロポーズをしたという認識はありません」
「そうですよね。分かってましたが。。。うぅ。。。」
リリア様がまた泣き出した。
「リリア様はこの結婚話をどう思っていますか?
俺の事情は忘れて、その部分だけを考えてください」
「わ、私は、その、嬉しかったです。
ジン様、お慕いしております」
リリア様が真っ赤になって告白してきた。
俺も何か返さなくてはいけない。
とりあえず、リリア様の心情的には結婚は有りのようだ。
とすると、俺の問題か。
「リリア様、一旦保留しましょう。
これは伯爵様も交えて話す必要があります」
「え、お断りになられませんの?」
「断られたいんですか?」
「い、いえ、ジン様が良いのでしたら、私は嬉しいですが」
「実際に結婚するかどうかは置いといて、どのみち伯爵様の意向が優先されます。
なので、ここでどうこう言っても始まりません」
「プロポーズはしていただけないんですね。。。うぅ。。。」
リリア様が泣き止まない。
仕方なく、隣に座り、肩を抱いてやった。
リリア様は俺の胸に顔を埋めて、泣いていた。
「ジン様、そろそろ、ご夕食の。。。おや。。。
申し訳ありませんでした。
後2時間ほど遅らすように伝えます」
「ま、待て、そういうんじゃない。飯はすぐ食いに行くから!」
俺はまだぐずっているリリア様を支えながら、食堂に向かうのだった。
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