070 パララッチ追放


「あの建物だな」


建物というのも憚れるようなバラック小屋だ。

いつ倒れてもおかしくない。


「衛兵の皆さんには、建物の陰に隠れて、俺と中にいる人物の会話を聞いていてもらいたい。

俺が会話を誘導し、自分たちが犯人だと断言できる発言をさせるので、そのあとに捕縛をお願いしたい」


「断言できる発言の後で良いのですね?」


「はい、そうでないと違法取締りになるでしょう?」


納得してくれたようで、扉の左右に座って隠れる。


俺はバラック小屋をノックした。


「おい、パララッチ、いるのは分かっている。出てこい」


返事がないので、扉を開けて中を確認した。

パララッチと思われる、貴族服を着たのが一人と、2人の男性、それに冒険者と思しき者が3名いた。


「パララッチ、リリア様の誘拐の件で話を聞きに来た。

リリア様を解放してもらおう」


隅に縛られて転がされている、リリア様とマリアを指差す。


「なんだお前!

関係ない奴が出しゃばってくるんじゃねぇよ。

それと俺を呼び捨てにするな!」


「俺はリリア様の護衛だ。大人しく返してもらえないなら、実力で返して貰う」


「なんだ、平民か。

おい、お前たち、やっちまえ。殺しても、その辺捨てとけばバレないだろう」


部屋にいた冒険者風の3人が飛びかかってきた。


3人とも腹を殴ったら、苦悶の表情を浮かべる。


「おい、お前たち、あそこにいるパララッチとの関係は?

痛い目見る前に吐いた方が楽だぞ?」


「俺たちは雇われただけだ!

女2人さらってきたら金貨がもらえるって聞いて」


「そっちの2人も同じか?」


「ああ、そうだ」


「パララッチ、こいつらはこんな事言っているが、何か言う事はあるか?」


「俺は侯爵家の次男だぞ!

平民ごときが偉そうな事言うな!


この女は俺のことを叩きやがったから、お仕置きするだけだ!

分かったら、さっさと出て行け!」


「リリア様をさらったのは認めるんだな?」


「ふん、女の一人や二人さらって何が悪い?

全部親父が揉み消してくれるさ」


「ああ、もうそこまでで良い。

誘拐の言質はとった。


衛兵さん、よろしくお願いします」


衛兵二人が部屋に入ってきた。


「な、なんで衛兵が!」


「誘拐の現行犯で逮捕します」


パララッチと取り巻きが抵抗しようとしたので、腹を殴って、動けなくした。

俺の腕じゃ、腹を殴って気絶させるなんて出来ないから、痛いだけなんだよね。


全員を縄で縛った上で、一人が応援を呼びに走っていった。


「俺は侯爵家の次男だぞ!

俺にこんなことしても良いと思ってるのか?!

親父が黙ってないぞ!」


「パララッチ、お前の悪行もここまでだ。

侯爵家がこれ以上、お前を助けてくれるとは思わないことだ」


衛兵が増援を呼んできたので、全員の連行を任せる。


「衛兵さん、そこのパパラッチは侯爵家の次男ですが、遠慮する事はありません。

婦女暴行は重罪です。今回ばかりは侯爵家も庇えないでしょう」


俺は縄を解いた2人に声をかけた。


「大丈夫でしたか?」


リリア様が、俺に抱きつき、「もうダメかと思いました」と泣いていた。


「あんなバカに純潔を奪われた上で晒し者にされるなど、我慢できません。

純潔を奪われた後、自由になった時に自害しようと思っていました」


「無事だったのだから良かったじゃないですか。

帰ったら、メアリー殿下にお話ししてもらえますか?

侯爵家が本当にあのバカを庇うと面倒なので」


「もちろんですわ!

あんなのが貴族だなんて、バカにしてますわ!」


安心して元気が出たのか、バカの行動に怒りをあらわにしている。


では、戻りましょうか。

馬車はないので、歩きで申し訳ありませんが。


「ちょっとお待ちくださいまし。

足が震えて歩けなくって、、、」


「じゃぁ、ちょっと失礼しますね」


俺はリリア様をお姫様抱っこした。


「ちょっと走りますので、舌噛まないでくださいね」


俺はマリアを連れて走り出した。

マリアの速度に合わせたので、人より早い程度だが、街中の馬車よりは早い。


屋敷に戻ると、メアリー殿下がいらっしゃった。

俺はリリア様をソファーに座らせると、殿下に、「お嬢様を救出してきました」とだけ告げた。


「よくやってくれました。

犯人は誰でしたの?」


「パララッチです。侯爵家の」


「あのバカですか。

貴族の子女を傷物にしようなど、どれほどの重罪かわかってないようですわね。

今までは平民相手で、侯爵家の名前で黙らせてきたんでしょうが、今回はそうはいきませんわ。

今からお父様に会って、事後処理をお願いしてきますわ」


メアリー殿下は優秀らしい。

リリア様の無事を確認したら、自分の役割をちゃんと理解して動いてくれた。


これでパララッチは終わるだろう。

おそらく物理的に。




結局、パララッチは侯爵家から追放され、今までの罪状も軒並み判明した。

侯爵家も今までの犯罪をかばった罪で罰金刑になり、パララッチ本人は処刑された。



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