062 金庫番


俺は3日ほど、宿屋でゆっくりした。

食事のために下に降りはしたが、外出はしなかった。

ギルドや、伯爵の部下に見られていたら、面倒だからだ。


もし、街の外に安全で快適な家があったら、そこで過ごしてから帰ってきていただろう。


ともかく、そろそろ報告しようかと、冒険者ギルドにやってきた。


キャシーさんは人気者だ。列が長い。

しかし、依頼の内容が内容なので、事情を知っているキャシーさんが良いのだ。


「今日はどういった、、、あ、ジンさん、依頼は終わられたんでしょうか?」


「ええ、今日はその報告に来ました」


「了解しました。少しお待ちください」


他の受付嬢に後を任せて、応接室に案内してくれた。

ギルドマスターを呼んでくると、部屋を出て行って、数分で戻ってきた。


「やあ、仕事が早いね。

ゴブリンキングはどうだった?」


「ええ、ご要望のゴブリンキングとジェネラル2体です。

引き渡したいんですが、解体所でいいですか?」


「ああ、頼むよ」


俺たちは解体所に行き、ゴブリンキングとジェネラルを出した。


「他のゴブリンはいいのかい?

ゴブリンエリートとかいそうだけど」


「いや、他は狩ってません。

ゴブリンキングとジェネラルだけです」


「どうやったのかは聞かないけど、本当に依頼通り、キングとジェネラルだけを倒したんだね。

もしかして、領主様の思惑に気が付いているかい?」


「実際はどうか知りませんが、いい様に使われてる感じがしたのは事実です。

それにリスクと金額が釣り合いません。

倍は出してもいいはずです」


「確かにそうなんだけどねぇ。

伯爵本人じゃなくて、金庫番やってる人からの依頼でね。

これ以上は出せないって言われたらどうしようもなくてね。

だから、指名依頼にできずに通常依頼になったんだよ。


受けてくれる人がいなかったらどうするつもりだったのかね」


ギルドマスターとしては不本意な依頼らしい。

金額が少ないこともあるし、上手くすれば、他のゴブリン達の数を減らしてくれるかも、という考えもあるだろう。

しかし、冒険者は、金の為に危険を冒しているのだ。

だから割に合わない仕事は受けない。


100円やるから、首相殺してこいと言われてやる人がいるだろうか?

100億ならやる人もいるかもしれないが。

極端だが、そう言う事だ。


「王都に依頼を出したのは、金庫番が、俺がいると知ってて出したんでしょうか?」


「知っていただろうね。

君が受けるかどうかはともかくとして、いる事も、ドラゴンスレイヤーである事も知っていただろうね」


とりあえず、依頼の完了処理を頼む。

それと、俺は数日は木漏れ日亭でゆっくりしているから、何かあったら言ってくれ。


俺はとっととギルドから去った。





翌日、キャシーさんが俺を呼びにきた。

依頼の完了報告を依頼主の金庫番に報告したら、キングとジェネラル『だけ』を倒すのはおかしいと言い出したそうだ。

実際、騎士団と冒険者からは、森に入った者はいないと報告が上がっていたらしい。


まぁ、空跳んでりゃ分かんないわな。


とにかく一緒に説明してほしいと言うので、ギルドに行く事にした。

と言っても、4件隣なんだが。


応接室に入ると、貴族然としたハゲ頭がいた。


「ギルドマスター、呼ばれてきたんですが、どうしましたか?」


「貴様がジンとか言う冒険者か!

どうもこうもない!

ゴブリンキングを倒したと言うのに、ゴブリンが減ってないじゃないか!

普通のゴブリンを避けてゴブリンキングを倒せるわけがなかろう!?」


「問題外ですね。

俺の受けた依頼は、ゴブリンキングとゴブリンジェネラル2体の討伐です。

他のゴブリンが生きてようが死んでようが知りません。

それとも、正面からゴブリンをなぎ倒しながら、ゴブリンキングまで到達し、周りのゴブリンジェネラルも全部倒した上でようやく完遂した事になるのですか?」


「な!

ゴブリンキングだけを倒すすべがないのだから、他を倒しながら行くのは当然だろう。

いきなり、死体を出されて、はいそうですか、言えるわけがなかろう」


「じゃぁ、どうしろと?」


金庫番はニヤッと笑って言った。


「今から正面から突破して、ゴブリンキングを倒してもらおう」


「ゴブリンキングはすでに倒したから、もう居ないんじゃないですかね?

それと前の依頼はすでに完了処理しています。

今度のは新しい依頼という事でいいんですか?」


「バカなことを言うな!

前の依頼が達成不十分だと言っているのだ。

ならば引き続き対応するのが当然というものだろう」


「はぁ、これほどのバカが伯爵様の金庫番とは。


ねえ、ギルドマスター、昨日依頼完了処理しましたよね?」


「ああ、したな」


「なら、もう俺用事ありませんよね?」


「無いな」


「王都に帰ってもいいですか?」


「止める権限はないな」


金庫番が慌てて声を荒げる。


「まて!わしは完了したと認めておらんぞ!

勝手に進めるんじゃない!

そもそも、平民の分際で貴族に楯突くなど、、、」


「それまでにしてもらえますか。

あんたの話はうんざりです。

どうしてもと言うなら、伯爵様本人から抗議してもらってください。

俺は明日には王都に戻ります。

決めるなら早くしてくださいね?」


俺は応接室を出て、早々に木漏れ日亭に戻った。



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