059 お茶会


今日はリリア様の休日だ。

昨日、リリア様から、メアリー殿下が来れられるので、失礼の無いようにと注意された。


昼を過ぎると、メアリー殿下が馬車でやってきた。

屋敷の前で出迎える。なんでも、自分より上の人が来るときは、屋敷の前まで迎えに出るのが通例なのだという。


「リリア様、お出迎えありがとうございます。

今日はよろしくお願いしますね」


「はい、メアリー殿下、今日は楽しんでいってくださいませ」


二人が簡単に挨拶を交わすと、裏庭に向かう。

例の東屋だ。

俺は出迎えだけでて、部屋に戻っていたが、ルナが迎えにきた。


「ジン様、お嬢様がお呼びです。

ぜひ、お茶会に参加して欲しいと」


「うーん、せっかく友達と一緒なんだから、二人でお茶してる方が良いと思うんだが」


「なんでも、メアリー殿下がドラゴン退治の話を聞きたがっているとか」


「なるほど、それなら仕方がないな」


俺は納得し、準礼装に着替えた。

正直、王女殿下とのお茶会に、どんな格好で出れば良いのかわからない。

とりあえず、持っている中で、一番良いのを着て行く事にした。


「王女殿下、覚えておいでかわかりませんが、冒険者のジンにございます。

今日は、同席を賜り、ありがとうございます」


「まあ、丁寧な挨拶をありがとうございます。

ジン様は強いだけでなく、礼儀作法も心得ておりますのね。

私の事はメアリーと呼んでくださいな」


「それではメアリー殿下、今日は私のドラゴン退治の話を聞きたいとのことでしたが」


「ええ、王宮ではその話で持ちきりですもの。

お父様、いえ、陛下も話を聞いてみたいと言っていましたわ」


「それほど話すこともないのですが。。。」


「ぜひ聞かせてくださいな」


「分かりました。

事の始まりはギルドで依頼を受注したことからです。

依頼の内容は、ドラゴンが住み着いたという噂があるので、確認して欲しいというものです。

場所は、王都から見て北西の森の奥です」


「まあ、結構近いですのね」


「はい、それで確認を急いだようです。

それで、北西の森に急ぎ、森の中をどんどんと奥に入って行きました。

<魔力感知>で周辺の魔物を避けて、北西に向かうと、巨大な気配を感じました。


これはドラゴンに間違いないと、ドラゴンが飛び立つのをしばらく待ったのですが、全然巣から出てきません。

仕方なく、山を登ったのですが、この山が急峻で、崖を登るような感じです」


「まぁ、ドラゴンがいるのがわかれば、依頼完了なのではなくて?」


「確かにそうなんですが、ドラゴンを視認したわけではないので、対象がドラゴンなのかが確認できてませんので、そのまま報告すると、何か強い魔物がいた、というだけの報告になってしまいます。

それでは、調査依頼を果たせないと、覗くだけ覗いたら、逃げるつもりでいました」


俺は倒す気満々だったのだが、ここは話を変えておく。


「そこで、ロッククライミングを始めたのですが、途中で、ドラゴンも気づいたらしく、巣から飛び出してきました。

その時点で、ドラゴンが風竜なのが確認できたので、依頼は完了なのですが、ドラゴンが逃がしてくれるわけなく、俺は崖の途中で、両手両足を壁にへばりつかせたまま、戦うことにまりました」


「それでは戦えないのではないですか?」


「私は風魔法が使えますので、下に降りて、森に入ってしまえば逃げ切れると思っていたのです。

ですが、風竜は動けない私にブレスを吐きかけてきました」


「ドラゴンのブレスですか。有名ですが、それほど強力ですの?」


「はい、全力で障壁を貼ったのですが、危うく、崖から落ちかけました」


「その後、ブレスは障壁で防ぎ、風の刃で首を切り裂くというのを繰り返し、魔力が枯渇する寸前になんとか倒すことができました」


「ドラゴンの鱗は硬いと聞きますが、風の刃で傷つくものなんですの?」


「それは頑張ったとしか言えませんね。

通じてなければ、私は美味しくいただかれていたでしょう」


俺が少し混ぜっ返すと、メアリー殿下が少し顔を青くしていた。

ちょっと盛りすぎたかもしれない。


「そんなに危険なのですね。ドラゴンが災害級と言われるのがわかるような気がしますわ。

それで、その後、どうされたんですの?」


「そのまま登って、巣を確認しました。ドラゴンは光り物が好きだと聞いた覚えがあるので、何か財宝でもあるかと思いまして」


「そうですわね。ドラゴンの素材も大変高く売れると聞きますが、財宝もまた莫大な財産になると聞きますものね」


「そうなんですが、巣には何もありませんでした」


「何も、ですか?」


「ええ、何も、です。

よく考えれば、最近住み始めた場所に財宝が溜まっているわけがないのは、当然なのですが。

まさか、元の巣から財宝を運んでくるわけでもないでしょうから」


「確かにそうですわね。

財宝をちまちまと運んでいるドラゴンがいたら、思わず笑ってしまいそうですわ」


「そんな感じでドラゴンを倒して、先日素材をオークションで売却したところです」


「なるほど、よく生きてましたね。

そんなのを続けていたら、命がいくつあっても足りませんわよ?」


「ええ、私もドラゴンと戦うつもりはなかったので、かなり焦りました。

まさか、崖の途中で襲われるとは思っていませんでしたので。


調査依頼だから受けましたが、討伐なら受けなかったでしょう」


討伐でも受けたと思うが、ここは黙っておこう。


「ドラゴンの話を聞いてから、リリアがどれだけ心配したかを熱心に語ってくれましたわ」


「メアリー殿下、それは、その辺で。。。」


リリア様が途中で口を挟む。


「そうですわね。二人の秘密でしたわね。

すいません、話してしまうところでしわ」


「何か私に言えないことですか?」


「ええ、『あなたには』、言えないことですね」


何か俺に言えない話があるらしい。

貴族的なものだろうか。

なんにせよ、こういった話は聞かないに越したことはない。


しばらく雑談をして、俺は途中で失礼した。


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