054 閑話 <鍛治>


「ジン様、<調合><鍛治>小屋が完成したそうです」


ルナが報告してくれた。


「ようやくか!

ルナ、案内してくれ!」


俺はルナの後について、裏庭に出る。

裏庭の右端、屋敷からそれほど離れていない場所にあった。

建物は石造りで、頑丈そうだ。


しかし、入り口が2つある。


「なんか、入り口が2つあるんだが?」


「詳しいことは、職人にお聞きください。

説明のために待機させています」


職人を呼んできてもらい、説明を聞く。


「まず、建物だけど、鍛治の熱が伝わってしまうから、完全に2つに分けた。

向かって右側が<調合>部屋だ。左が<鍛治>部屋だな」


なるほど、暑いと、薬品や素材が変質してしまうからな。


「<調合>部屋から案内しよう」


部屋に入ると、周囲はすべて棚になっており、高さがそれぞれ違うようになっている。

部屋の中央にはテーブルが2つ置かれ、上には<調合>用の機材が乗っている。

基本的なものは用意してくれたらしい。


「周りの棚は、素材や出来た薬品の保管に使ってくれ。

基本的な器具は揃っているはずだ。


ここはこれ以上説明するものはないな。

ああ、入り口の横にある、その白い石に触れてみな。灯りがつくから」


俺が触れると、天井に吊るされたランタンのようなものに灯りが灯った。魔力灯のようだ。




「次は<鍛治>部屋だな」


俺たちは今度は左の部屋に入る。


「まずはさっきの部屋と同じように、灯の魔法具がついてる。

それから、その下にある、緑色の石に触れてみろ」


俺が触れると、外の音が聞こえなくなった。


「それは風魔法を使った、音を遮断する魔法具だ。

貴族街で鍛治の音なんかさせたら、苦情が酷いからな」


なるほど、騒音対策か。重要だな。


「それから、目玉はこれだ!

魔力炉だ。

ここの赤い魔石に魔力を注入すれば、この窯の中が過熱する。

鉄はもちろん、ミスリルまでなら溶かせる。

それ以上となったら、もっと大きくなるから、小屋程度じゃ無理だ。

これでも、最新式の魔力炉なんだぜ?


左右に棚があるから、何か置くのに使ってくれ。

それと、こっちも基本的な機材は揃えておいた。

槌や金床なんかだな」


薪で温度を上げるんじゃなくて魔力でやるのか、さすがファンタジー。

こちらでも基本的な機材が揃っていて何よりだ。

<調合>の設備は持っているが、<鍛治>のは持っていなかったのだ。


「以上で説明は終了だな。

何か質問はあるか?」


「そうですね、魔力炉は一度注入すると、どのくらい保ちますか?」


「満タンにまで入れれば、半日は持つはずだ。

温度を下げれば1日くらいいけるだろう」


「温度を変えれるんですね」


「おうよ、赤い魔石の横にレバーがついているだろう。

そのレバーが上にあるほど、温度が高くなる。

ただし、一番低くしても、手を突っ込んだら黒焦げだからな」


職人ジョークだろう。


「素晴らしい施設をありがとうございました。

大事に使わせてもらいます」


「おうよ。修理が必要になったら声かけてくれや。

じゃぁな」


職人さんはあっさりと出て行った。




「ジン様。ジン様?ジン様!」


「ん?なんだルナ、聞いてるよ?」


「もうすぐお昼です。

今から作業を始めたら、お食事が取れません」


「ちょっとだけ、、、「ダメです」」


そうですか。ダメですか。

仕方ない、昼食の後にしよう。



昼食の後、勇んで<鍛治>部屋にきた。

手には初級の鍛治の本を携えている。

内容も読み込んで、完璧だ。


俺はまず、魔力炉に魔力を注入する。

暖まる間に、部屋の片隅に置いてあった、鉄のインゴットを取り出す。

まずは、本に載っていたナイフを作るのだ。


しばらく待っていると、どんどん魔力炉の熱が高くなっていく。

本によると、熱すぎてもダメらしい。

魔力炉の横のレバーを少し下げる。


熱が安定したところで、中に鉄のインゴットを放り込む。

火箸のようなもので支えながら、赤くなっていくのを眺める。


まずは鉄を叩いて、大まかな形を整える。

ハンマーで叩くと、どんどん伸びていく。


叩いているうちに冷えてくるので、再度温める。


これを繰り返して、大きさや分厚さを整え、刃の側を細くなるように叩く。


本によると、ここで叩き方が悪いと、刃こぼれや切れ味に関わってくるとか。

とりあえず、最初の一本なので、大体の感じがつかめれば良い。

ある程度の形になったら、油につけ、冷やす。水だと蒸発して危ないのだ。


そのあと、研ぎ石で、刃の部分を研いで完成だ。


ただ、一つ忘れていた。

取っ手の部分を作ってない。

ちょうど火箸で挟んでいた場所なので、板状に残っている。

これは、初級の本には載ってなかった。

当たり前のことだからか、初心者に興味のありそうなことだけを載せたのか。。。


今後の課題はまだまだありそうだ。




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