053 プリン
服を買った後は、お昼にすることにした。
「リリア様、どこか良い店をご存知ですか?」
「いえ、私も王都はそれほど回った事がありませんので」
「御者さん、どこか良いところは知りませんか?」
「そうですね、お昼となると、庶民の店しか知りませんが、カフェなら、最近流行りの店を何件か知っております」
以前行った店を話して、それ以外の店にお願いする。
連れて行かれたのは、商人街の一本裏通りにある、こじんまりとした、可愛いカフェだった。
こんな店を知っているとは、御者の人も侮れない。
「軽食と食後にデザートをお願いします」
メニューも置いてないので、お任せで頼んでみた。
出てきたのはサンドイッチで、中の肉はワイバーンのものを使っているとか。
最近、ワイバーンの肉が出回ったので、作ってみたとのこと。
ワイバーンの時期限定商品ですね、と店員さんはにっこりと微笑んだ。
ワイバーンの肉か、、、身に覚えがありすぎる。
それはそうと、リリア様、なぜ店員さんを睨んでるのだろうか?
特に失礼なことはされてないと思うんだが。
「リリア様、どうかされましたか?」
「いいえ、なんでもありませんわ。
さぁ、いただきましょう」
リリア様は小さな口で啄ばむように食べる。
俺はガブッといったが、ワイバーン肉の肉汁がやばい。
かかっているソースも少し酸味があり、肉によく合っている。
二人とも食べ終わった頃に、デザートを持ってきてくれた。
俺の目にはプリンが見える。
俺はこの世界でプリンは見た事がなかった。だから無いものだと思っていたのだが。
「これは?」
「はい、プリンと言いまして、卵をベースに一度蒸してから冷やしたものになります」
やっぱりプリンだった。
他で見た事がないということは、この店の秘伝なのだろうか。
「美味しですね、この店でしか売ってないのですか?」
「いえ、レシピは手に入るはずですので、作ろうと思えば他の店でも作れると思います。
ですが、蒸すときの温度調節にコツがありまして、つきっきりでないとダメなんです。
なので、他の店では、手軽に作れる焼き菓子を主に出しています。
うちは、小さな店ですので、それほど沢山作る必要もありませんし、限定で作っています」
なるほど。
そういえば、茶碗蒸しも似たようなことを聞いた気がする。
職人の技だね。
プリンにはリリア様も満足したようで、満面の笑みだった。
デジカメないかな?普段見れない笑顔だ。
「プリンの持ち帰りはできますか?」
「申し訳ありません、何せ限定品ですので、他のお客様にもお出ししたいので、持ち帰りはご遠慮いただいています」
「そうですか、仕方ないですね。
リリア様、そういうことですので、また今度食べにきましょう」
「そ、そうですね。ま、また今度。。。(デートに誘われちゃいました!)」
「それでは、午後はどうしましょうか?
もう帰りますか?」
「せっかくのデートを勿体無い、、、いえ、時間は有意義に使うものですわ。
好きな作家の新刊が出たと聞いたので、それを買いに行きましょう」
「本ですか、いいですね。俺も買いたい本がありますし」
「リリア様、本当にそんなに買うんですか?」
「もちろんです、何かおかしいですか?」
「いえ、おかしくはないですが、量が多くないですか?」
俺は20冊くらい重ねた本を見ながら確認した。
好きな作家の本の新刊だといっていたので、1冊かせいぜい2冊だと思っていたら、この量である。
なんでも好きな作家が30人ほどいるのだとか。
王都でないと販売していない本などもあり、まとめ買いするらしい。
俺は古本コーナーで、鍛治の初歩、鍛治と道具、ナイフを作ろう、の3冊を購入した。
「ジン様は古本のコーナーにいらしたようですが、良い本はありましたか?」
「ええ、鍛治の基本が書いてある本がありました。
今度、鍛治小屋が出来ることですし、先にある程度勉強しておこうかと」
「勉強家ですのね。
私も何か趣味を作った方が良いのでしょうか?」
「趣味とは出会いですからね。
趣味を見つけようとしている間は見つかりません。
ある日、ふとした興味から趣味に発展するのです」
「なるほど」
「ただ、色々とチャレンジするのも大切ですよ。
まず、最初の出会いがなければ興味すら抱く可能性がないのですから」
「そういえば、学院で、手芸などのサークルがあるとか。
一度行ってみようかしら」
「それは良い考えです。
興味が持てなければやめれば良いのですから」
「ちょっと本を探すのに時間をかけてしまいましたね。
今日はこの辺にしておきましょうか」
「そうですね、遅くなると皆心配しますし」
「今日はお付き合いありがとうございました」
「いえ、楽しかったですよ。また誘ってください」
これは嘘ではない。
二人で買い物するのも、食事をするのも楽しかった。
リリア様も王都を満喫してもらえたと思う。
帰ったら、早速今日買った服に着替えて見せよう。
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