052 衣食住は保証します


数日が過ぎた。


今日はリリア様の初めての休日だ。


「さぁ、ジン様、お出かけしますわよ!」


今日もリリア様は元気だ。


「マリア、今日は俺がいるから、お前は休んでろ。

クレア、マリアの腕が鈍ってないか、少し揉んでやってくれ」


俺は二人に指示を出すと、屋敷から支給された服を着て、リリア様と馬車に乗った。

リリア様はお洒落をしていて、軽く化粧もしているようだ。

ここは褒めておくべきだろう。


「リリア様、今日は可愛い服を着てますね。

化粧もされて、大変お綺麗ですよ」


「そ、そうかしら。

この間、お母様から届いた服を着てみたんですが。

似合ってますか?」


「ええ、もちろんです。

さすが奥様ですね。リリア様の良いところをよく分かっておられます」


リリア様は少し赤い顔をしてはにかんでいた。

しかし、実際リリア様は綺麗だと思う。

最初に会った時も思ったが、小顔だし、目鼻立ちもくっきりしている。

輝く銀髪をしており、しっとりとした感じだ。

よく手入れをされているようだ。


「それで、今日はどちらに向かわれるので?」


「服屋ですわ!」


「リリア様は結構服をお持ちだったように記憶していますが?」


「何を言ってますの?

ジン様の服を買いに行きますのよ。


屋敷で用意した服も悪いものではありませんが、ジン様にはもっと似合った服があるはずですわ。

今日はそれを探しに行きますの」


「俺の服ですか?

これで十分だと思うのですが」


「ダメですわ。

当家は伯爵家です。

客人のジン様にはそれなりの格好をしてもらいませんと、格好がつきませんわ。

貴族は見栄を張ってこそ、貴族なのです。

借金をしてでも見栄をはる家もあるんですのよ」


俺にはよく分からないが、貴族ってだけで、金がかかるものらしい。

貴族も大変だな。



馬車が服屋についたようだ。

俺たちは馬車から降り、店に入る。


「いらっしゃいませー。

どんな服をお求めでしょうか?」


「この方の服を見繕ってもらえますこと?

少しカジュアルな感じのものと、準礼装くらいのをお願いしますわ」


「かしこまりました。


男性向けの服は2階になりますので、ご案内しますね。

お嬢様はどうなされますか?」


「わ、私は殿方の着替えを見るなんて、、、」


「リリア様、俺はセンスがないんで、選んでもらわないと、良し悪しがわかりません。

着替えはどうせ、別室でしょうし、一緒に上に上がりましょう」


「そ、そうですわね。

ジン様の服は私が選んで差し上げますわ」


どうも、俺が着替えるシーンを想像して、尻込みしたらしい。

別に見られても構わないんだが、多分、更衣室くらいはあるだろう。


「それでは、これなどはいかがでしょうか。

お客様は黒目黒髪なので、濃い色がお似合いかと思います。


こちらが黒の上下を基調に金糸でアクセントをつけてあります」


「うーん、それでは黒づくめになってしまいますわ。

礼装はそう言った色合いでも良いですが、普段着としてはもう少し明るい方が良いですわ」


「それではこちらはいかがでしょうか?

濃い青をベースに、少し薄い青をあしらって、明るく見えるようになっております。

もしくは、こちらの茶色もお似合いかと思います。

上が茶色のジャケットで、下が紺色です。ベルトに白いものをつけると良いアクセントになります」


「どちらも良いですが、いっそ明るい色というのはどうでしょうか」


「それでしたら、こちらはいかがでしょうか。

淡い青色に紺色で刺繍が入っており、上着を着なくても十分華やかですし、ズボンの色も合わせやすいかと思います」


どれも良い生地で作られた逸品だというのは分かるのだが、良し悪しが分からない。

俺にはセンスというものがないだろう。

先ほどはリリア様を誘うために、自分にセンスがないと言ったが、本当に無いようだ。


「この淡い青色は良いですね。

これに合うズボンはありますか?」


「はい、こちらなどいかがでしょう。

薄い茶色でポケットが付いています。濃い茶色のベルトを合わせるといい感じになるかと思います」


「そうですね。それで行きましょう。

次は準礼装を見せていただけるかしら?」


「はい、男性の準礼装となりますと、黒が一般的になります。

礼装ではありませんので、モーニングである必要はありませんが、やはり、黒が良いかと思います。

カジュアルな服の方でも申し上げましたが、黒目黒髪ですので、濃い茶色などよりも黒の方が似合うかと」


「そうですね。

何着か見せてもらえるかしら」


「はい、既製品ですと、こちらの3つになります。

全て黒を基調に、金糸や刺繍、ボタンなどで特徴を出しております。

特にこちらの金糸と刺繍の両方入っているのが、オススメです」


「うーん、どれも良いデザインですが、ピンとこないですね。

デザインからお願いできますか?」


「もちろんでございます。

当商会のお抱えのデザイナーがデザインさせていただきます。

体のサイズを測らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。もちろんです」


俺は途中から聞いてなかったので、状況がよく分かってない。

ただ、体のサイズを測ることだけは分かった。


「それでは、カジュアルの方が金貨1枚と大銀貨3枚になります。

準礼装の方はデザインによって変わりますので、その時にご説明させていただきます」


「はい、ではこれで」


リリア様がお金を払ってしまう。


「リリア様、自分の服は自分で買いますから。。。」


俺にも男としてのメンツがある。


「ふふふ、ジン様、衣食住は保証する、と言いましたよ」


「確かにそうですが。。。」


結局、リリア様に払ってもらうことになった。


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