046
「それで、対処法ですが、悟られるのを覚悟で迂回するのも手ですが、それではこれからずっと怯えている必要があります。
なので、ここで全滅させたいと思います」
「最もだが、戦力が足りないぞ?」
「それですが、私が先行して、連中に<水魔法>を使います。
息ができない敵など、敵ではありません。
レジストされた場合だけ気をつければ良いでしょう」
「なるほど、それならなんとかなりそうだな」
「それでなんですが、ここで俺だけがいなくなると、警戒されますので、ある程度まで近づきます。
そこで、小用のようなふりをして外れて、まずは右側を叩きます。もしその間に左側の敵が襲撃してきたら、とにかく守ることだけを考えてください。
俺が右側を片付けたらすぐに向かいますので」
「了解したが、本当に一人で大丈夫か?
いくら魔法で奇襲するとは言え、相手は10人だぞ?」
「問題ありません、信用してください。
リリア様、作戦は頭に入りましたか?
リリア様が特に何かする必要はありませんが、パニックにだけはならないでください。
それと、作戦が失敗し場合、生き残っているものと、森に逃げてください。
マリア、判断はお前がしろ。
まぁ、今回は問題ないと思うが、いざという時だ」
「お任せください。
ただ、できれば無事に帰ってきてください」
「もちろんだ。
では行きましょう」
襲撃者の少し手前で俺が路を逸れようとした時に、それは起こった。
俺たちの周りを火が覆ったのだ。
油の匂いがするので、あらかじめ、周辺に油を撒いてあったのだろう。
俺たちの周囲10メートルくらいが炎を上げている。
出口は正面だけだ。
その出口に、敵は布陣し、矢を放ってくる。
俺が一番前なので剣で叩き落とすが、炎が迫っている。
「俺が突っ込みます。
リリア様たちはこのままここで我慢してください。
ある意味、ここが一番安全です」
俺はそう言ったそばから、ダッシュで前方に走る。
炎の矢や氷の礫などが飛んでくるが、全て叩き落とす。
敵の布陣をよく見ると、前に盾持ちが腰を落として構え、後ろから魔術師が魔法を放っている。
俺はそれを見て笑った。カモだ。
俺は体をひねり、剣を振り抜く。<飛剣>だ。
高さは人の首あたり。
盾職たちは腰を落としているので、頭上を抜けていくが、魔術師はそうは行かない。
全員、首が落ちた。
盾職たちは何が起こったのか分からなかったのか、俺の方だけを見ている。
そして俺は、ある程度近づくと、<水魔法>を使用した。
何人かが盾で弾いたが、残りは顔にへばりついて息ができなくなっている。
俺は弾いて無事だった数名を先に倒し、うずくまっている、他の盾職にもとどめをさす。
リリア様を呼び寄せ、炎の中から出させる。
皆汗まみれだ。
もうすこし時間がかかっていたら、酸欠で危なかったかもしれない。
「とりあえず、前方の20名ほどは倒しました。
後方に2人いますので、今から倒してきます。
全滅させないと、黒幕に報告されてしまいますからね」
俺は返事も聞かずに、炎の壁を回り込み、<気配隠蔽>を発動させ、街道を走っていく。
草原を走ると、気配は感じられなくても、草が倒れるので、何かが近づいてきているのがわかるのだ。
後ろの2名も結果がきになるのか、100メートルくらいまで近づいてきていた。
俺は後ろに回ると、<雷魔法>で意識を刈り取った。
<雷魔法>とは、そんな属性はない。<風魔法>と<水魔法>の複合魔法だ。
スタンガンのように気絶させれるし、攻撃魔法として放つと、速度が速く、避けにくい。
また、当たると、ダメージの他に、軽い麻痺の効果があるので、使えると便利だ。
俺が2人を引きずって戻ると、炎を壁はだいぶ弱まっていた。
炎の壁を避けて戻ると、皆に心配された。
「マリア、この二人を縛り上げろ。
それと、口の中を調べて、毒が仕込まれてないか、確認しろ。
伯爵様からは、以前の襲撃者は毒で自害したと聞いているからな」
「かしこまりました。
あ、奥歯に何か仕込まれています。
今外しますね。
はい、これです」
マリアが渡してきた小袋を見ると、薄い膜のようなもので液体を包んでおり、噛むだけで中身が出そうだ。
俺は2つともマジックバッグに入れるふりをして、<インベントリ>に入れた。
念の為、時間を停止させたかったからだ。乾燥してからじゃ効果はわからないし。
「とりあえず、昨日の襲撃者は全滅させたはずです。
次に襲撃があるとしたら、もうしばらく後になるでしょう。
それに次の街で馬車を買えれば、さらに安全になります。
この2人を尋問したら、街を目指しましょう。
アンジェさん、尋問をお願いしても?」
「もちろんだ。
我々を襲ったことを後悔させてやる」
アンジェさんが、尋問はテントでやるという事だったので、出してあげた。
リリア様に見えないところでやるらしい。
本気だな。
時々「ギャァぁぁ」とか「助けてぇぇ」などと聞こえるが無視だ無視。
リリア様は、オロオロしている。
分かっていても、拷も、いや尋問で痛めつけるのは気が気でないのだろう。
アンジェさんが尋問している間に、襲撃者の持ち物を確認したが、特に身元のわかるものは持っていなかった。
仕方ないので、襲撃者の死体は街道脇にまとめて、襲撃者の用意していた油で燃やした。
ちなみに、燃やしている最中に2体追加された。
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