045


俺たちは、アンジェさんを先頭に森を抜けるべく、急いでいた。

リリア様の足は定期的に<水魔法>で治している。


神経を張り詰めて、警戒しているのだが、一向に襲ってくる気配がない。

俺の<魔力感知>にも引っかからないので、100メートル以上離れているのだろう。



夕方も過ぎて、もう夜になると言う頃に、森の端についた。


「ジン様、襲撃がありませんでしたね」


「そうですね。野営中を襲う気なのかもしれません。

夜警を頑張らないといけませんね」


「お嬢様、テントもありませんので、その辺に寝ていただくことになりますが。。。」


アンジェさんが申し訳なさそうに言う。


「状況的にわがままも言えません。

休めるだけ良しとしましょう」


「あー、それですが、俺たちのテントがありますので、それを使ってください」


「え、でもそんな荷物、、、あ、マジックバッグをお持ちでしたね。

私は助かりますが、お借りしてもよろしいのですか?」


「ええ、マリア、お前は直衛として、リリア様と一緒に寝ろ。

アンジェさん、俺、クレアで交代で見張りをする。


マリア、薪と毛布を3枚出してくれ」


俺はマリアが出した薪に火をつけ、焚き火を熾した。


「敵に場所を教えるようなものですが、どのみち把握されているでしょうし、明るい方がマシでしょう。


それと、マリア、桶を出してくれ」


マリアがたらい位の桶を出してくる。

俺は<水魔法>と<火魔法>の合成魔法で、お湯を出す。


「リリア様、汗をかいたでしょう、これで体を拭いてください。

マリア、頼む」


「かしこまりました。

リリア様、テントに入りましょう」


リリア様は申し訳なさそうな顔をしながら、テントに入っていった。


しばらくすると、マリアが出てきて、少し離れたところにお湯を捨てていた。

俺はその桶に、追加でお湯を入れ、3人にも交互に体を拭くように言う。

皆、警戒中なのを分かっているのか、顔を洗うだけだ。

それでも気持ちよさそうにしていたので、相当汗をかいたのだろう。


マリアが、焚き火の上に鍋をおき、干し肉と野菜を入れてスープを作る。

瓶詰めした出汁を使うようだ。


「今日のは俺たちが街で買った物しか使ってないので、毒の心配はありません。


それと、リリア様以外は、お腹いっぱいまで食べないでください。

眠くなって、非常時に対応できなくなります。


逆に、リリア様はしっかりと食べてください。

明日動けないでは足手まといになります」


リリア様が申し訳なさそうにしていたので、あえて厳しく言った。

中途半端に曖昧にすると、リリア様も徹夜して、明日ろくに動けないことも考えられる。


「、、、はい。。。」


リリア様はしょげていたが、ここはハッキリさせておかないといけない。

俺たちは護衛なのだから、リリア様とは役割が違うのだ。

リリア様の役割はできるだけ早く歩いて、次の街まで着くこと。

俺たちの役割は、リリア様を無事に連れて行くことだ。


通常の生活であれば、リリア様の、自分だけ優遇されるのに気が引ける、と言うのは健気と言えるが、緊急時の現在、それは甘えにつながる。

ハッキリ言えば、邪魔な感情だ。


「見張りの順番はクレア、俺、アンジェさん、の順番で行こうかと思います。

アンジェさんは一番襲われる可能性の高い、早朝ですが、大丈夫ですか?」


「もちろんだ。

本当なら私一人で、徹夜でと言いたいところだが、まだ何日もあるからな。

甘えさせてもらおう」



その晩、襲撃はなかった。


「どう思いますか?」


俺はアンんジェさんに聞いた。


「我々が疲れるか、油断するかを待っているのではないだろうか。

まだ2晩はチャンスがあるのだからな」


なるほど、確かにその方が堅実だろう。

だけど、それならそれでやりようがある。


俺は<魔力感知>の範囲を広げる。

すると、後方の森の中に2人。前方2キロメートルくらいに20人ほどの集団がいた。

俺は目に魔力をまとわせ、視力を強化する。

<魔力感知>で感じた付近で、農民のような格好をした男たちが街道の脇に伏せていた。


「アンジェさん、2キロメートルくらい先に20人くらいいます。

村人みたいな格好をしていますので、野盗の可能性もありますが。

注意してください」


「了解した。

だが、よく分かったな。何かのスキルか?

いや、人のスキルを詮索するのは良くないな。

すまなかった忘れてくれ」


「いえ、問題ないですよ?

<身体強化>の魔法を目だけに集中させることで、視力をより強化したのです。

全身分を集めるのですから、相当強化されますよ」


「なるほど、<身体強化>にそんな使い方があるのか。

勉強になった」

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