044


俺はリリア様のところに戻り、状況を説明する。


「厩が焼き払われていました。

馬は事前に殺されていたらしく、逃げたものもありません。

また、油の匂いがしましたので、放火は間違い無いでしょう。

馬車にも火が移っており、消化できない以上、燃えてしまうでしょう」


「そう、、、ですか。

兵士といい、馬車といい、敵は本格的に戦力を削りにきてますね。

アンジェ、次に冒険者を雇って、馬車を買える街までどのくらいかかりますか?」


「はい、馬車で急いで1日のところにあります。

ですが、馬車がないので、歩きですと、3日はかかるでしょう」


実際はリリア様の足に合わせるので、もっとかかると思う。


「3日間、実質襲い放題ですか。

私たちだけでは厳しいですね。

敵の人数予想は?」


「はい、前回襲ってきたのが全員だと仮定してですが、20名ほどかと思います」


リリア様は聡明なお方だ。

現状では守りきれないのがわかっているだろう。


俺も正面から、俺だけを狙ってくるのなら、対処できる。

しかし、リリア様を守りながらとなると、手が足りない。囲まれるとどうしようもないからだ。

馬車さえあれば、敵のくる方向を限定できるので、なんとかなるのだが。


「まぁ、なんとかしましょう。

それよりも、早く村を出ましょう。

村ごと焼き払われると余計な被害が出ます」


「なんとかなるのですか?!」


「えぇ、考えはあります。

アンジェさん、クレア、マリアは、敵が襲ってきたら、リリア様の直衛を。

俺が攻めに回って、殲滅します。

もしもボスらしき者を見つけたら、それだけ生かしておく感じで。


ただ、矢での奇襲だけは防げません。

歩く際は、リリア様を囲むように歩きましょう」


「わかりました。

でも、ジン様も危険なことはしないでくださいね」


「何を言っているんですか?

一番危ないのはリリア様ですよ?

私は敵を倒すだけです」


ちょっとおどけて見ると、リリア様の顔を少し緩んだ。

緊張でガチガチだったので、おどけた甲斐があったというものだ。


「アンジェさん、この森はどこまで続きますか?」


「歩いてなら、今日中には抜けれると思う」


「なら、それまでが勝負ですね。

平原なら20人の集団を見逃すとは思えませんし」


「あぁ、それなら早く出た方が良いな。

しかし、食料が、、、馬車と一緒に燃えてしまったのでな。

村から多少は買い付けれるだろうが。。。」


「それには及びません。

俺たち3人が王都に行けるだけの食料は持ってきています。

3日くらいなら5人でも大丈夫でしょう。


マリア、大丈夫だな?」


「はい。

保存食は十分にあります。

ただ、野菜が足りないかと思います」


「それは仕方ないな。


そう言う事で、食料はなんとかなります。

それよりも今日の襲撃をなんとかしのぎましょう」



俺たちは馬車を確認したが、完全に燃えてしまっていて、使えるものは残ってなかった。

予想の範囲内とはいえ、リリア様とアンジェさんの荷物がなくなってしまった。


俺たちは今日中に森を抜けるべく、足早に村を出た。

リリア様の歩幅に合わせて、周囲を囲むように進む。

リリア様は緊張しているのか、足早だ。

これでは途中でバテてしまう。


「アンジェさん、弓を警戒するためにも、止まらずに歩き続ける方が望ましいです。

少しペースを落として、休憩を挟まずに行きませんか?」


「それもそうだな。お嬢様、少しペースを落とします」


リリア様は気が焦っているのか、もっと急ぎたそうな顔をしていたが、アンジェさんの意見を受け入れたようだ。


2時間ほど歩くと、リリア様の歩調が乱れ出した。

疲れたのかとも思ったのだが、違うようだ。足を踏み込むたびに顔をしかめている。


「リリア様、どうされましたか?

足を気にされているようですが」


「えぇ、豆が出来てしまったみたいでして」


「なるほど、普段歩かない方によくある事ですね。

足を見せていただけますか?」


リリアさんは恥ずかしげに靴と靴下を脱いで足を出してくる。

予想通り、豆が出来て、潰れかけている。


俺は右手に<水魔法>の魔力を集め、足に当てる。

すると、豆がみるみると治っていく。


「まぁ、痛くなくなりましたわ」


「反対側の足も出してください」


反対側も同じように治した。


「歩いていると、また同じようになりますので、早めに言ってください。

早い方が治療が楽ですので」


「えぇ、ごめんなさい。

自分のせいで遅くなるが申し訳なくて」


「治療のために止まる方が時間がかかりますよ。

豆のできるあたりに布を巻いておきました。多少はマシでしょう」



俺たちはそのまま歩き続けた。


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