043


翌朝起きると、騒然としていた。


野営の見張りが一人死体で見つかったらしい。

男はトイレに行くと言って出たきり戻ってこなかったが、一緒に見張りをしていた兵士は、見張りを外れるわけにもいかず、朝になって捜索したら死体が見つかったという事だ。


「お嬢様、朝から申し訳ありません。

昨晩、一人の兵士が何者かに殺されました。

昨日の盗賊の残党かもしれません。

今日は少し無理してでも、急いで次の村まで向かいたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


「わかりました。

アンジェに任せます」


リリア様の許可を取ったアンジェさんは、兵士の準備を急がせる。

俺はリリア様から見えない場所を選んで、アンジェさんに話しかけた。


「アンジェさん、証拠を消したと見るべきでしょうか?

それともこちらの戦力を少しずつ削っていると考えるべきでしょうか?」


「証拠隠滅が一番可能性が高い。

戦力を削るなら、一人ではなく、見張りや近くで寝ていたものも襲うはずだからな。


だが、死んだ兵士だが、古くから支えている、信用できる者なのだ。

あれが信用できないとなると、他のどの兵士も信用できなくなる。だから断言できん」


「なら、《虫》から目を逸らさせるために、証拠隠滅の為と誤認するように、誰でも良いから一人殺した、という可能性は?」


「無いとは言えないが、迂遠だな。

まだ、信用できる者の数を減らして、疑心暗鬼に陥らせると言った方が信憑性がある。


襲撃者の戦力はまだ半分は残っているはずだ。

どこかで夜襲を仕掛けてくる可能性もある。


今の所、どれも可能性にすぎん。

警戒を密にすることと、出来るだけ村などで泊まる事くらいか。

なんにせよ、王都への到着は少し遅れそうだな」


「王都への到着を遅らせるのが狙いという可能性は?」


「無いな。

お嬢様が学院に入学するにも余裕を持ったスケジュールを組んでいる。

我々が帰るのが遅くなっても、この程度の戦力が減ったところで、伯爵家の戦力は問題ない」


「ならどうしようも無いですね。

リリア様にはこのまま盗賊の仕業で通すのですか?」


「あぁ、無闇に怖がらせても意味がないしな」


「わかりました。俺の方でも何かできないか考えてみましょう」


その日の夜は、少し遅めに村に着いた。

リリア様と俺たちは村長宅でもてなされることになった。クレアもこっちだ。

アンジェさんは食事だけ一緒にして、あとは兵士と一緒に夜警するらしい。



夜中にアンジェさんが村長宅に駆け込んできた。


「お嬢様、夜分に申し訳ありません。

兵士が全員毒殺されました!」


リリア様はまだ寝たままだ。

マリアが同じ部屋で寝ているはずなので、すぐに起きてくるだろう。


それよりも、問題はアンジェさんの方だ。

毒殺?どういうことだろうか。


「アンジェさん、それだけでは分かりません。

詳しく話してください」


「はい、先ほどまで夜警をしていたのですが、一緒に夜警をしていた者が急に倒れて、死んでしまったのです。

そこで、他の者を起こそうとしたのですが、全員死んでいたのです」


「毒殺と断定した理由は?」


「全員、首のあたりに紫色のまだら模様が浮いていました。

デルボネの毒の特徴です」


「アンジェさんが無事だという事は、夜食に含まれてたんでしょうが、、、

これで《虫》の線は無くなりましたね」


「はい。

ですが、問題は、これからの護衛です。

昨日の襲撃者の残りに襲われたら、私たちだけでは防ぎきれません」



リリア様が寝巻きにガウンで出てきた。


「何事ですか。こんな夜中に」


「はい、実は。。。」


アンジェさんは、リリア様の誘拐計画や、昨日の襲撃者がその手のものらしい事など、今まで隠していたことも全て話した。

リリア様はすぐに状況を察し、何か深く考え込んでいるようだ。


「アンジェ、兵士は全員死んだのですね?」


「はい、全員の顔を確認したので、間違いありません」


「《虫》ごと殺した可能性は?」


「可能性だけならありますが、それなら、昨日一人殺した時にすればよかった話です。

なので、可能性は低いと考えます」


「わかりました。

では、明日にでも、村の人に手伝ってもらって、埋葬を。

今日はアンジェも私と同じ部屋で寝なさい」


「なら、俺が夜警がわりに起きていよう。

十分寝たしな。寝不足のアンジェさんよりはマシだろう」


俺は実は眠かったりしたが、自分が寝ずの番をするのが一番合理的なので、提案した。


「ジン様、申し訳ありませんが、よろしくお願いします」



その時、村の端から火の手が上がった。


「リリア様はここにいてください。

アンジェさん、マリア、クレア、ここでリリア様の警護を。

俺は様子を見てくる」


俺は急いで火の元に向かった。

なぜなら、馬や馬車のある場所だったからだ。


俺が馬房に着いた時には、馬房が全焼していた。

油の匂いがして、馬は、焼け死んだというより、その前に殺されていたようだ。

兵士の毒殺といい、手際が良すぎる。


村人が集まってきて、消火しようとするが、油で燃えているので、全く消える気配がない。

俺も、<水魔法>で消火しようとしたが、手加減した初級魔法では消せなかった。

全力でやれば消せただろうが、馬も馬車もすでに炎の中だ。今更強引に消しても意味がない。


俺はリリア様のところに戻り、馬と馬車が焼かれたことを伝えた。


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