042


俺は、馬車に<水魔法>をかけ、火を消す。

そして、マリアを担いで馬車に入った。

そして戸を閉めると、マリアの状態を確認する。

腕の怪我が深刻だ。ほとんど炭化している。

他にも顔や背中にも火傷がある。


手持ちの中級ポーションでは間に合わない。

俺は<神聖魔法>を両手に纏った。

頭と腹のあたりに手を置き、細胞が《復活》するのをイメージする。自然治癒を促進するだけでは炭化した腕は治らない。

2本の腕が白く光り、マリアの体にも広がっていく。

呪文大全に載っていた、特級魔法のパーフェクトヒールだ。

十全に使いこなせれば、部位欠損も治ると載っていた。


俺はそのまま10分ほど魔力を込め続けた。

次第にマリアの呼吸が落ち着いてきて、目を覚ました。


「ご主人様、リリア様は?!」


「あぁ、無事だ。

マリア、痛いところはないか?

手の感覚はあるか?」


「あ、そう言えば、魔法を腕で防いだんでした。

でも、今は全く痛くないです」


「そうか、それは良かった。

外に出て、被害を確認するぞ」


俺たちが外に出ると、リリア様がオロオロとしていた。


「ジン様、マリアさんは。。。」


「リリア様、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。

この通り、無事ですので」


「良かった。私の盾になって魔法を浴びるんですもの。

火傷とか大丈夫なのですか?」


「はい、ご主人様に治していただきました」


「良かった」


俺はアンジェさんを探して声を掛ける。


「アンジェさん、お疲れ様です。

被害はどうですか?」


「あぁ、お疲れ様。

兵士が3人やられた。

あとは軽傷が5名だ」


「軽傷の方にはこれを」


俺は下級ポーションを5本渡す。


「助かる」



俺が左側からも襲撃があったことを伝えると、アンジェさんは驚きながらも、なるほど、と納得していた。

右側の襲撃者が徐々に押し込まれるように移動していたのだ。

馬車から護衛を引き離すのを目的としていたのだろう。


「左の敵は10名、うち7名を倒して、3名は取り逃がしました」


「そうか、こちらは半分が魔術師、半分が盾持ちだった。

完全に時間稼ぎと魔法とが前提の組み合わせだな。


右側が囮、左が本命で、目的はお嬢様の拉致か。

情報どおりだな。

思ったより人数が多くて焦ったな」


「リリア様にはどう伝えますか?」


「盗賊に襲われたとしておこう。

御館様からは、お嬢様にこの件に関して伝える許可がもらえなかった」


「了解しました」


アンジェさんは怪我人にポーションを配ると、怪我を負ってないものに、死体の片付けや、馬車や馬が無事かを確認させた。

敵の死体に関しては、自分の目で、何か情報が取れないか見て回っていたようだ。


「お嬢様、少し焦げ臭いですが、我慢していただけますでしょうか?

次の街で買い替えますので」


「贅沢は言えませんね。

亡くなった兵士たちには出来るだけのことはするように」


「では、すぐに、、、あ、いえ、木が倒れていたのを忘れていました。

今どかしますので、しばらくお待ちください」


通せんぼしていた横倒しになった木を思い出したらしい。


木の根元は斧で切った跡があった。


「アンジェさん、敵はどうやってここまで正確な時間を知ったのでしょうか?

この木を見る限り、斧で切られていますが、途中で斧の音など聞こえませんでした。

しかし、この道はそれなりに人が通るはず。

音が聞こえないほど前から道を封鎖していたとは思えません」


「確かにそうだな。

誰かに付けられていたか、見張りがいたか。。。」


「あまり考えたくはありませんが、兵士に《虫》がいる可能性がありますね」


「そうだな。だが今考えても仕方ないことだ。

兵士が疑心暗鬼になるだけだし、いると決まったわけでもないしな。

御館様には可能性だけ伝えておこう」


アンジェさんは兵士の一人を選んで、伯爵様への伝令を命じた。

口頭ではなく、文書だ。

口頭では、盗賊に襲われて、3名死亡、という内容だが、文書には襲撃者が誘拐しようとした、意図が見えることも記されている。

現状、これ以上できる事はない。

なので、すぐに出発することにした。

死んだ兵士の馬は連れて行くらしい。

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