041
リリア様が王都に行く日になった。
「ジン様、王都までよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
今回は冒険者は雇わず、騎士と兵士だけで行くらしい。
兵士が20人ほど並んでいる。
馬車は2台なので、リリア様用のが1台に、荷物用が1台だろう。
全員が馬に乗るらしい。
リリア様が家族とお別れをしている間に、アンジェさんと話をする。
「アンジェさん、今回の話は聞いてますか?」
「もちろんだ。その為に冒険者を雇わず、兵士だけにしたんだからな」
「そうですか、なら良いのです。
今回はそちらを重点的に警戒しますので」
「うむ、途中の魔物は任せろ。
魔物にかかりきりになっている間が一番危ない」
「承知しています」
「うむ。お嬢様も用意できたようだし、出発しようか」
リリア様が馬車に乗ったのを確認して、俺たちも馬車に乗る。
クレアは外で馬だ。
両手剣を持って馬車の中に入られたら、邪魔で仕方ないし、マリアのマジックバッグに入れてしまうと、いざという時にすぐに取り出せない。
なので、兵士の格好をしてもらっている。
出発して4日目、まだ森の中を走っている途中だ。
突然森の中から、弓矢が放たれた。
兵士の一人が落馬する。
アンジェさんが、「振り切るぞ、走れ!」と言って、走り出そうとした。
しかし、少し先で、木が横倒しになっており、進めなくなっていた。
「チッ、全員馬車を守れ。
弓兵がいるぞ、打ち出す場所を確認しろ!
盾を持っているものは前にで構えろ!」
アンジェさんが指揮をとるが、相手が何者なのかも、何人かもわからない。
盗賊のように堂々と出てきてくれれば楽なのに。
俺は<魔力感知>で周囲を伺う。
右の森に20人、左の森に10人。右の後方から3人がおってくる。
後ろの3人が弓兵だろう。
アンジェさんに伝えようとしたら、右の森の者たちが一斉に魔法を放ってきた。
狙いは半分が兵士、それも盾を持っていない者に、残り半分が馬車に飛んできた。
馬車に来たのは<火魔法>ばかりだ。狙ってるとしか思えない。
兵士たちは、右の襲撃者に突撃している。
対魔法使いとしては、接近して戦うのがセオリーだ。
でないと、一方的にマトになるだけだからだ。
だが、馬車に打ち込まれる<火魔法>は止まらない。
馬車に火がつき始めた。
このままでは蒸し焼きにされる。
「リリア様、このままでは馬車ごと丸焼きになります。
危険ですが、外に出ましょう」
「わかりました。護衛は頼みますよ?」
リリア様は冗談を言うかのように、笑顔だった。
「お任せください。怪我ひとつ負わせません」
なぜかリリア様が赤くなっていた。
「そう言うことを平然と言うから。。。」
「何か?」
「いえ、何でもありません、馬車を出ましょう」
馬車の出口は右側だ。
つまり、魔法の飛んでくる方向に出るしかない。
俺が先に出て、剣を構える。
リリア様が出てくると、魔法が一斉にリリア様に向かった。
俺は剣に魔力を通し、魔法を切っていく。
魔法には大体、核のようなものがあり、そこを魔力を纏った剣で切れば魔法は消滅する。
しかし、これは簡単なことではない。
核は目に見えないからだ。
俺は<魔力感知>を近距離に限定して使うことで、精度を上げ、核を把握している。核の部分だけ、少し魔力が濃いのだ。
しかし、この状況はまずい。
兵士たちは右側の襲撃者に掛かりっきりになっているが、左側にもいるのだ。
そう考えていたら、後ろから忍び寄ってくる気配を感じた。
「マリア、リリア様を魔法から守れ!
俺は後ろの方を片付ける」
俺は馬車の反対側に向かう。
襲撃者は気づかれてるとは思ってなかったのか、動揺が走る。
俺は目一杯左に腰を回し、剣の溜めを作る。
そして、一気に振り抜く。<飛剣>だ。
久々に使ったが、襲撃者のうち、前にでていた7人が倒れていた。
「キャァ!」
残りの連中も倒してしまおうと、追おうとしたら、後ろから悲鳴が聞こえてきた。
何が起きたのかと、馬車を迂回する。
右側から撃たれている<火魔法>をマリアが体で受け止めている。
あちこち焦げており、おそらく火傷もひどいだろう。
その時に、左の森の中から、笛の音が聞こえた。
そうすると、襲撃者たちは一斉に逃げ出した。
退却の合図だったのだろう。
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