037 閑話 <調合>


「今日はこれを受けようと思うんだが。。。」


俺は依頼書を二人に見せる


調合助手。<調合>スキル持ちであること。初級ポーションの制作経験があること。

半日銀貨1枚+成果報酬。


「これは、生産系の依頼ですね。

ご主人様は<調合>もされるのですか?」


俺は調合の器具を<インベントリ>に入れて、午前中の二人の居ない時に、外でやっていたので二人は知らないのだ。


「あぁ、初級ポーションくらいしか作れないが、この間リリア様の城の図書室でレシピを覚えてきてな。

一度作ってみたかったんだ」


「それですと、私たちは参加できませんね。

クレアさん、オーク狩りでも行きますか?」


「そうだな。

少しでも稼いでおこうか」


「ご主人様、それでよろしいでしょうか?」


「いや、今日は休日にしよう。

小遣いやるから、好きに過ごすといい」


俺は銀貨を1枚ずつ渡す。


「じゃぁ、俺は錬金術師のところに行ってくるから、晩飯は家で食おう」



俺は錬金術師のところへ急いだ。

早く調合をやりたかったのだ。

神様との約束で武術だけでなく、生産系のスキルも上げる必要があるが、それとは関係なく、調合には関心があった。

もしかしたら、ネクターやソーマなどの神薬もいずれ作れるようになるかもしれないのだ。

実際にはレシピすら残っていないので、現実的ではないのだが、夢は広がる。


錬金術師の家に着いた。

作業場が併設されているようで、間口は広い。


「ごめんくださーい、依頼を受けてきましたー」


「はいはい、おや、若い子だね。私はヨミだよ。

<調合>スキルは持っているのかい?」


錬金術師は品の良いお婆さんだった。

肩までの髪を紐でまとめていて、服は邪魔にならないように、スカートじゃなく、ズボンだ。

仕事へのこだわりを感じる。


「はい、初級ポーションなら作ったことがあります。

これです」


以前練習で作ったポーションを出す。

ヨミさんはちょっとだけ舐めて、頷く。


「うん、これなら大丈夫だね。

誰かに師事していたのかい?」


「いえ、独学です。

本でレシピを覚えて、流す魔力をいろいろ変えていたらできました」


「そうかい、勉強熱心だね。

最近の若いのは、ちょっと魔力の出力がおろそかだと、薬草が新鮮じゃないせいだとか、今日は調子悪いからやめるとか言い出して、辞めてしまうからね。

あんたなら最後までやってくれそうだね。


とりあえずお入り」


家に入ると、薬草の匂いがした。

左のほうのドアを開けると、その先は調合室のようでビーカーやフラスコなどが置いてあった。


「今日作ってもらいたいのは、初級ポーション20本、万能解毒薬20本だ。

初級ポーションはさっきのと同じで良い。

万能解毒薬のレシピはわかるかい?」


「はい、ただ、レシピも手順もわかりますが、通す魔力がどのくらいかわかりません」


「そうかい、万能解毒薬は途中と最後に魔力を通すんだけど、途中のは初級ポーションの半分くらい、最後は初級ポーションの倍くらいで良いよ。

とりあえず、やってごらん」


「はい、あ、これ薬草と毒消し草です。

他の依頼の時に集めておいたものです」


「おや、それならいくら失敗しても構わないよ。

じっくりやりな」


俺は早速<調合>に取り掛かる。

まずは初級ポーションだ。

これは薬草2種と魔石の粉を煮出して、上澄みに魔力を通せば良い。

何本分か同時に作れるので、1時間もあれば20本は作れる。


次が肝心の万能毒消薬だ。

これは薬草と毒消し草をすりつぶして水に溶かし、魔力を通す。

その後、魔石の粉を投入し、沸騰させる。そして沸騰している間に魔力を通す。

火を止めて温くなってきたら、不純物を濾して完了だ。


「こんな感じでどうでしょうか?」


ヨミさんは指に取って舐めると、

「うん、十分だね。後19本頼むね」

と、合格点をくれた。


全部作り終えるのに3時間かかった。

失敗したとかではなく、純粋に、沸騰や冷却に時間がかかったためだ。


俺が作業している横でヨミさんも作業していた。

レシピからして中級ポーションのようだ。

何種類かの薬草と香草と魔石の粉を混ぜて、魔力を流している。

込める魔力は少ないが、結構長い時間流している。

中級になると、パッとは作れないようだ。

ちなみに俺はサボっってみていたのではなく、沸騰を待っている間に見ていたので、サボりではない。


「じゃぁ、これが完了証明書だよ。

冒険者やめてうちで働かないかい?

あんたの腕ならこれだけで食っていけるよ?」


「老後はともかく、今は冒険しているのが楽しいんです。

お誘いは嬉しいのですが、今回の依頼も、自分がどのくらいの腕なのか確認する意味もありましたので」


「そうかい、なら仕方ないね。

死ぬんじゃないよ?」


「はい、ご心配ありがとうございます」



ギルドで終了確認を行っていると、銀貨5枚出てきた。


「あれ、多くないですか?」


「完了証明書に、成果報酬が銀貨4枚と書かれていましたので。

あの方がこれだけ出すとは、よほど気に入られたようですね」


「ええ、このまま働かないかと誘われました」


「そうですか。彼女がそういったのなら、本気なのでしょう。

彼女の元で錬金術師になるのも手ですよ?」


キャシーさんが冗談交じりに唆してきた。


「そのうち考えておきます」


俺は、大概の場合断る常套句でぼかした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る