033


翌日俺は、朝から伯爵邸(城)を訪れていた。

昨日約束した通り、蔵書を読ませてもらうためだ。


門番に用向きを伝えると、話が通っていたようで、中に案内された。

玄関からは案内がメイドさんに変わったが、そのまま図書室に案内された。


俺は書斎程度、本棚数個程度を想像していたが、まるで図書室だった。

学校の図書室のように、本棚が背中合わせに建てられ、分厚い本が並んでいた。


「あの、どこに何があるかはご存知ですか?」


とメイドさんに聞くと、詳しい人がいるとの事で、連れてきてくれるらしい。

俺は備え付けの椅子に座って待っていた。


「ジン様、お待たせしましたわ!」


なぜかリリア様が来た。


「あの、この部屋に詳しい方をお願いしたのですが。。。」


「ええ、私は小さい頃、よく篭っていたので、何があるかは一通り把握してますわ。

どんな本をお探しで?

あぁ、魔法の本でしたか。

それでしたら、こちらの棚の上の方がそうです」


どうやらリリア様が案内してくれるらしい。

とりあえずお礼を言って、本棚を見ると、「初心者のための魔法入門」とか「魔法大全」とか初心者用から上級者用まで揃っている。

とりあえず、簡単そうな所から取り出して読んでみる。


薄い冊子だったが、基本を丁寧に書かれていた。

それには、魔力を感じる事、魔力を操作する事、呪文を唱える事、魔法陣を想像する事、魔力を属性に変換する事、魔力を放出する事、が手順として書かれている。

俺が神様から教えてもらったのには、呪文と魔法陣のことはなかった。

実際、そんなもの無くても魔法が発動するので、イメージを補完するとかなんかそんな感じだろう。


知識の差を確認するには良かったが、使う上では特に役に立たない。

俺は、中級者用を飛ばして、上級者用と思われる本を手に取った。


呪文を省略する<無詠唱>という技術などが載っていたが、それもいらない。


後の方に、どんな魔法があるかの一覧があった。

魔法名と効果だけを見ていき、暗記する。呪文は読みすらしない。


lvが上がって、知力の数値が上がったせいか、簡単に覚えられる。

日本でこれだけ記憶力が良ければ、もっと良い大学に入れたろうに。


他にも何冊か読み、上級と言われる魔法は大体把握した。

おそらくどれも使えると思う。


それほど時間がかからなかったので、リリア様に、<調合>のレシピが無いか聞いてみると、驚いたことに本にまとめてあった。

<調合>できる術者が少ないこともあり、レシピや作り方自体は秘密では無いらしい。

むしろ、広めることによって、術者が増えればいいと考えているようだ。

俺にとってはありがたい。

下級ポーションだけでは不安だったのだ。


本には下級・中級・上級ポーションの作り方が載っており、万能解毒薬、ジャイアントスパイダーの麻痺毒の解毒法、解熱薬、風邪薬、果ては石鹸の作り方まで載っていた。

結構分厚い本だが、図解してあったりして、わかりやすかった。

知らない薬草などの名前もあったが、葉っぱの特徴と一緒に丸暗記した。


そうこうして居る内に、リリア様が、お昼の時間だと言ってきた。

そう言えば、一緒に食べる約束をしていたのだった。


リリア様は食事中も楽しそうで、昨日のケーキがいかに美味しかったかを熱演していた。

俺は自分が本を読んでいる間、リリア様が暇だったのでは無いかと聞いたところ、リリア様も本を読んでいたようで、久しぶりに本を読んだような事を言っていた。

ちなみに経済学の本だそうな。俺にはわからん。理系だし。


食後、伯爵様から部屋にきて欲しいと伝言を受けて、部屋に向かう。


「すまんな、食事中に」


「いえ、ちょうど食べ終わったところでしたし。

それで、ご用件は?」


「うむ、来月のことだが、リリアが学院に入学するのは知って居るな?」


「ええ、前回の依頼が受験でしたよね」


「そうだ。それで、来月入学の為に王都へ向かう。

その時に、前回のように護衛をしてもらいたいのだ」


「もう安全なのでは?」


「そのはずなんだが、わしの勘が、護衛をつけた方が良いと言っておる」


「勘なら仕方ないですね」


盗賊の心配もなく、魔物も強いのは出ないのに、なぜ護衛が?と思ったが、勘と言われてはどうしようも無い。


「期間と報酬は?」


「片道で10日程度。報酬は基本金貨5枚、戦闘が必要なら追加で10枚だ」


「わかりました。

立場は前回と同じということで?」


「うむ、それで良い」


「では、出発の日が決まりましたら、ご連絡ください」


「うむ、頼むぞ」


「あぁ、そうそう、お土産を忘れてました。

この間王都に行った時に買ったものです。


俺はワインの入った瓶を出した。


「なんでも、なかなか入荷しないワインらしいので、お土産になるかと思い、買ってまいりました」


「おぉ、これはグレンフィディックでは無いか。

あまり出回らないので、めったに飲めない酒だ。

うむ、良い土産をもらった」


王都への片道の護衛だ。

王都で何か依頼を受けてみてもいいかもしれない。

こないだ行ったカフェ以外の店も回ってみたいし。


その為にも、行くまでにCランクに上げよう。


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