032


3日後、リリア様からお茶のお誘いがきた。

特に急ぎの用事があるわけではないので、お昼過ぎに行くことにした。


「お久しぶりです、リリア様」


「ごきげんよう、ジン様。

今日は来ていただいてありがとうございます」


城に来たあと、裏庭の一部にある、東屋のようなところに通された。

少し高く造られていて、柱が4つ、屋根は円錐形だ。

色は白一色で、くすみも無い。手入れが行き届いているようだ。


メイドさんがお茶を淹れてくれる。

ついでにケーキも出してきた。

俺が持ってきたやつだ。


「まぁ、見たことのないケーキですね」


「えぇ、前と同じく、王都で買ったやつです」


「まだあったんですのね。

ちょっとお待ちくださいな、お母様を呼んできます」


王都の新作ケーキだと聞いた途端に、奥様を呼びに行った。

メイドさんに行かせれば良かったのではないだろうか。


なんにせよ、しばらく待っていると、奥様とお嬢様2人がやってきた。


「また王都のケーキを持ってきたくれたとか。

ありがとうございます。

お茶をご一緒させていただいても、よろしいですか?」


「もちろんです。

ケーキはホールで持ってきたので、皆さんの分もありますよ」


やはりケーキが目的らしい。

女性というのはいつでも甘いものに目がないらしい。

リリア様も自分だけが食べると後が怖いのではないかと、邪推してしまう。


ケーキを食べながらしばらく雑談すると、リリア様が問いかけてきた。


「ジン様、冒険者の方は順調ですか?

今日見る限りではお元気そうですが」


「ええ、今は奴隷二人のレベル上げに行かせていますが、Cランクに上がったら、もっと稼ぎのいい依頼を受けるつもりです。

家も買ってしまったので、稼がないと」


「家を買ったんですの?

どちらに買われたんですの?」


「職人街の近くで、一本裏通りに入ったところです。

以前はBランク冒険者が所有していた家だそうですが、なかなか快適です」


「失礼ですが、冒険者というのはそんなに儲かる仕事なのでしょうか?」


「いえ、ランクが上の方でないと、家を買うのは難しいでしょうね。

私はもともとある程度お金を持っていたので買えましたが」


「そうでしたね、奴隷も購入されたようですし。

どこかの商会のご子息ですの?」


「いえ、生まれも育ちも田舎です。

寒くなると雪が降る、北のほうです」


「あら、記憶喪失だったのでは?」


「えーっと、たまたま思い出したのです。

えぇ、本当にたまたまで。。。」


「まぁ、いいですわ。

お母様、ジン様は記憶喪失ということに『なっています』わ」


「それは大変ですね。

なら詳しいことは聞かない方が良いのかしら。

リリアと会った時はどんな感じでしたの?」


奥様が突っ込まないと言いつつ、軽く突っ込んできた。


「私を助けていただいた時は、平民のような格好をしておりましたわ。

特にお金を持っている感じもしませんでしたが。

マジックバッグはこの街に来た時に買われたんですよね」


なぜか俺がこの街でマジックバッグを買ったことを知っていた。

貴族だし、交友関係を調べたのかもしれない。


「えぇ、私は<アイテムボックス>持ちですので。

マジックボックスは奴隷のために買ったようなものですね」


「まぁ、<時空魔法>の使い手ですか。

それなら、宮廷魔術師も目指せますね。

きっと引く手数多ですよ」


「いえ、冒険者として、自由を満喫したいので。

いずれは旅にも出てみたいと考えています」


「ジン様はどんな女性が好みですの?

リリアのようなお転婆かしら、お淑やかなのかしら?」


お嬢様が爆弾をブッこんできた。

この場で必要な話題じゃないだろうに。


「特に好みというのはありませんが、そうですね、リリア様のようなお綺麗な方だと良いですね」


さりげなくリリア様の顔を立てたら、リリア様は真っ赤になって、手で頬を挟んでグネグネとダンスを踊っていた。

器用なことだ。


「そうだ、リリア様、以前おっしゃられていた、魔法書に関してなのですが、伯爵様にお願いしてもらっても良いでしょうか?」


「あぁ、それなら今からでも構いませんよ。

特に制限しているわけでもありませんし。

特にお父様の許可は必要ありませんわ」


「それでは明日の朝、もう一度伺ってもよろしいでしょうか?」


「もちろんですわ。

ただ、お昼はご一緒してくださいね」


「ぜひ、お願いします」


それからも、他愛のない雑談をして、明日再度訪れることを確認して帰った。




「今日は訓練を休んで悪かったな。

明日も伯爵家に行って、蔵書を読ませてもらう予定だ。

お前たちも午後は好きにしていい。

小遣いを渡しておこう」


俺は銀貨1枚ずつ渡した。

何か欲しいものがあったら言うといい。遠慮はするなよ。


多分言わないんだろうな、と思いながら夜がふけていった。

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