024


何とか、職人街と思しきところまで来た。

リリア様は途中ずっとしゃべり続け、俺は伯爵家についてだいぶ詳しくなってしまった。

伯爵と奥方の馴れ初めとか聞いても良かったのだろうか?

あと、俺たちの後ろ100mくらいを見覚えのある兵士が2人付いてきていた。護衛だろう、多分。


「ジン様、あちらに綺麗な指輪が!」

「ジン様、あちらにはネックレスが!」

「ジン様、あれは大きな熊さんです!」


職人街は多種多様な職人が出店しているようで、普通にアクセサリーを売っているところもあれば、服や靴を売っているところもあった。

珍しいところでは、ぬいぐるみやお面もあり、日本でならお祭りのような雰囲気だ。


だが日本と違うのは、ぬいぐるみの値段である。ぬいぐるみに金貨ってなに?

聞いたところによると、人形の中に詰めるものによって、金額が大きく変わるそうだ。日本のように綿が簡単に使える訳ではないので、安いものだと、中に古着などを詰めたりするらしい。

高級なものは、中に羽毛を詰めるのでとても高価になるそうだ。


リリア様も流石にぬいぐるみは持っておらず、木の人形で遊んでいたそうだ。


俺は、50cmくらいの大きなぬいぐるみを指して、触ってみてもいいか?、と店主に聞いたら、汚さないでくれよ、と言いながら、許可してくれた。

触ってみると、均一な手触りで、布を詰めたとは思えない。

羽毛を使った高級品だろうか?


「これは羽毛ですか?」


「あぁ、わかるかい?鳥の羽じゃなくて、長毛ヤギの毛を使ってるんだ。

鳥の羽だと真ん中の硬い部分が気になるからな。

こだわりの一品さ」


「いくらですか?」


「普段は金貨5枚で出してるんだが、可愛い子連れてるみたいだし、金貨4枚と大銀貨5枚でいいよ」


「じゃぁ、それと、そこの同じ柄の小さいぬいぐるみと合わせて金貨5枚でどうでしょうか?」


「仕方ねぇな、それでいいよ。このまま持っていくかい?」


「いえ、包んでもらえますか?」


「おうよ」


店主は布袋を出して詰め込む。


「ジン様、あの、そのぬいぐるみどうされるんですか?」


「リリア様へのプレゼントですよ。

学院の合格記念です」


「なっ。。。」


リリア様は顔を真っ赤にして固まってしまった。

ありゃ、高すぎたかな?

でも、貴族だしこのくらいの贈り物でないと。。。


「ほらよ、あっちに飲み物売ってる店があるから、お嬢ちゃんに飲ませてやんな」


「ありがとうございます。良い買い物ができました」


ぬいぐるみの入った袋を抱えながら、リリア様の背中を押して、飲み物の店に向かい、果実水を買った。


「リリア様、飲み物をどうぞ」

「リリア様?」

「リリア様?」


5分ほど呼びかけて、ようやく再起動したらしい。


「お飲み物です」


「ありがとうございます。


じゃなくて、何であんな高価なぬいぐるみを買ったんですか!?」


「リリア様の入学祝いだと言ったと思いますが?」


「私が聞きたいのはそういうことではありません!

あんなに高いの買ったら、今回の報酬が半減するじゃないんですか!」


「私の報酬をどう使おうが自由ですよ。

リリア様に似合うと思ったから買ったのです。


あぁ、もう買ってしまいましたから、受け取らないとかはなしですよ?」


「そ、そんなつもりで誘った訳じゃないのに、、、」


「気に入りませんでしたか?」


「そんなはずありません!」


リリア様は叫ぶと同時に真っ赤になった。


「ジン様はずるいです」



そのあとは、出店を見る雰囲気でもなかったので、引き返して宿に戻った。

宿に戻ると、アンジェさんに、ぬいぐるみの入った袋を渡して、リリア様のお買い物です、と言って渡した。


部屋に入って、クレアとマリアに今日どんなことがあったか話を聞いていると、隣から嬌声が聞こえてきた。

『お嬢様、どうしたんですか?これ!』

『すごく大きなぬいぐるみじゃないですか!』

『それにこれ、中が布じゃないですよ!羽ですか?!』

『高かったのでは?!』


うん、アンジェさんが興奮してる。


『えぇ!ジン様からのプレゼントですか!』


なんか、クレアとマリアの視線が痛い。


「どうした二人とも?」


俺は何もわからない風を装って聞いた。


「いや、何でもない」

「いえ、何でもありません」


「はぁ、お前たちにもお土産がある」


俺はアイテムボックスから木の箱を取り出した。


「ほら、2人にだ。開けてみろ」


マリアが恐る恐る受け取って、中を開ける。

すると、中からは手鏡が出てきた。


「わぁ、鏡です!

ご主人様、いただいてもよろしいのでしょうか?」


「もちろんだ、お前たちに買ってきたんだからな」


「ありがとうございます。大切にします!」


買っておいてよかった。

でないと、しばらくは針のむしろだっただろう。



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