023


宿に戻ってきた。

もう、夕方と言っていい時刻だ。


「ジン様、付き合わせてしまい申し訳ありません。

でも、気に入ったものが買えました。

ありがとうございました」


「いや、気に入ったものが見つかってよかったですね。

学院につけていくのですか?」


「半分はそうです。

残りの半分は、お姉さまや兄様へのお土産です。

皆、学院の卒業者ですので、王都にずっと居ましたが、領地に戻ってしまいましたので、少しでも王都を思い出せるようなものを、と思いまして」


「そうですか、喜んでもらえると良いですね」


無難な対応ができたと思う。

しかし、アクセサリー屋で3時間もかかるとは思ってなかった。

いろんな組み合わせを試して、特注だとどんなのが出来るかなど、その場にないものの話まで出てきた。

結局特注は諦めたようだけど。


俺も待っている間に、木製のヘアピンを2本買った。

クレアとマリアへのお土産だ。



部屋に戻ると2人とも居た。

聞くと、昼ご飯に屋台で食べただけで、あとは職人街でウィンドウショッピングをしていたらしい。


二人にヘアピンを見せると、クレアが首を傾げた。


「ご主人様、可愛いヘアピンだと思いますが、どなたに差し上げるつもりで?

ご主人様は王都に知り合いはおられませんよね?」


「何言っているんだ、お前たちの分だよ」


「えぇ!いけません!

奴隷にそのような高価なもの」


マリアは相変わらずだ。


「いいんだよ、可愛いの見つけたからね。

お前たちに付けてもらいたい」


「でも。。。」


「これは命令」


「はい、、、ありがとうございます」


遠慮していた割には嬉しそうで、クレアと髪型をいじりながらヘアピンのつけ方を相談している。鏡がないので、お互いに見せ合って、感想を聞くしかないのだ。

うん、買ってよかった。




2日経った。

リリアーナ様は昨日試験を受けて元気に帰ってきた。

どうやら、順調だったらしい。


試験は筆記と実技で、筆記でほとんどが決まるそうだが、特待生などを選別するために実技もあるらしい。

筆記は歴史、算術、魔法学などで、実技は魔法をまとに撃つだけだそうだ。

リリアーナ様は筆記は自信があるそうだが、実技は初級の水魔法なので、的を濡らして終わったらしい。


「さぁ、ジン様。買い物に行きましょう!」


「ぇ!?」


「買い物です!かいもの!」


「一昨日行ったのでは?」


「あれは商人街です。

今日は職人街に行きましょう!」


リリアーナ様は今日も元気だ。

きっと、昨日のテストで手応えがあったのだろう。


「はぁ、まぁお伴しますが、どこにいくか決めてるんでしょうか?」


「はい、今日は光の日ですので、職人街には市が立っているはずです。とりあえずそこを見に行こうと思います」


ちゃんと事前情報を仕入れていたらしい。


「しかし、一昨日も結構お金使ってましたが。。。大丈夫ですか?」


「もちろんです!お父様からお小遣いをもらってきましたから!」


貴族の小遣いこえー。


「リリアーナ様、馬車は?」


「今日は歩きです!

ちゃんとエスコートしてくださいね」


そう言って、俺の左手に手を絡めた。

胸が当たってるんですが、どうしようか。。。

指摘するのもなんだし、このまま放置するのも、リリアーナ様の立場上まずいような気がする。


「リリアーナ様、そう簡単に男性と腕を組むものでは。。。」


「大丈夫です!お父様の許可はとってあります」


「そ、そうですか。。。」


なんの許可をどうやって取ったのかは知らないが、俺と腕を組むのはアリらしい。

しかし、記憶のない前の世界も含めて、こんな状況は初めてのような気がする。

なんか、ふわっといい香りがするし、胸が当たってるし、、、俺は死ぬんじゃないだろうか。

<不老>じゃ防げないだろうしなぁ。



とにかく、職人街まで約1時間だ。

その間我慢すれば、あとは大丈夫だろう。

流石に人混みで腕組むとかないだろうし。


そう思っていた時期がありました。

しかし、腕を組んだまま歩くのがこれほどやばいとは。。。

歩くたびに揺れるのだ。どこがとは言わないが、腕に触れているものが。

軽く腕を組むだけなら、こんなにしっかりとした感触はないのだが、思いっきりくっついてきている。

しかも、さりげなく店を覗くような感じで、腕を離そうとすると、その度に余計に強く抱きしめるのだ。


「リリアーナ様、その、そろそろ手を。。。」


「リリアです!どうかリリアと呼んでください。家族は皆そう呼びます」


「いや、しかし、私は家族ではありませんし」


「いいえ、命の恩人です。家族でなくとも呼んでも大丈夫です!」


「しかし、伯爵のご令嬢ともあろうものが、、、」


「大丈夫です!お父様の許可は取ってあります」


「そ、そうですか。。。」


やはり何の許可を取ったのかがわからない。

引いてくれそうにないので、ひたすら無心に歩くことにした。



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