022


買い物が終わると、リリアーナ様はバンさんに服屋に行くように指示する。


「次は服を買いに行きましょう!」


「え、えぇ」


女性の服選びは長い。

洋の東西変わらず長いそうなので、この世界でも長いのだろう。

これは覚悟を決めねば。



服屋に着くと、店の外観は薄い茶色に塗られ、店先に植物などが植えられ、瀟洒な感じだ。


「学院の制服をお願いします」


「かしこまりました。デザインの方はどうしましょうか?」


「デザインが選べるのですか?」


「はい、貴族様が多いので、差別化を図りたい方が多くて、学院側も許可を出したそうです。

こちらが、学院指定の基本的なデザインです。

色の変更や突飛なものはできませんが、袖に刺繍を入れたり、ネクタイに家紋を入れたりする方がおられます。

人によってはスカートの丈を短くする方もおられます。

はしたないと学院で注意を受けるそうですが、禁止はされていないそうです」


「中に着るブラウスも変更できるのですか?」


「えぇ、そちらの方が自由が利きまして、、、」


。。。途中から話についていけなくなった。下着の話までするのはやめてほしい。。。




ちょうど昼時だったので、どこかの店に入って、軽食でも取ろうと話していたが、どこも満杯だった。


「困りましたね。どうしましょうか?」


「それでしたら、屋台というところで食べてみたいですわ。

いつも馬車で素通りするだけでしたので、一度食べてみたかったんですの」


箱入りお嬢様らしい発想だ。


「わかりました、少し向こうに屋台がありましたので、そちらで食べましょう」


屋台でオーク肉の串焼きを2本買って、1本をリリアーナ様に渡した。


「たれはこぼれますので、袖や服につけないようにお気をつけください」


「大丈夫ですわ!私は子供ではありません!」


という側から、たれが袖に付きそうだ。

普通は串を横に持って、豪快にかぶりつくので、たれは袖にまでたれない。

だが、リリアーナ様は縦に持って、左手で口元を隠しながら啄ばむように食べている。

串を縦に持ったら、当然たれは串を伝い、指へ、そして袖口へ。

俺はハンカチを取り出し、手を拭いてやる。


リリアーナ様も気づいたようだ。


「こ、これは!その!わざとですわ!

あなたが気づくかどうかのテストですわ!

き、気づかなかったわけではありませんわ!」


真っ赤になって、苦しい言い訳を重ねる。

まぁ、俺的にはなんでもいいのだが、ツンデレか?デレてないが。


「そうですか。それで私は合格ですか?」


「えぇ、、、きゅ、及第点を差し上げますわ」


食べ終わるまで顔が真っ赤だった。


俺は串焼き1本では足りなかったので、追加したが、リリアーナ様は十分だったようで、果実水を飲んでいた。

串焼き屋の隣で出している飲み物屋で、なんと、氷を入れてくれるサービスをやっていた。

通常、飲み物は常温で出される。氷を作れるのは限られているので、高価だからだ。

しかし、店主が氷魔法が使えるらしく、飲み物としては割高だが、十分価値があると思う。




次は武器屋だそうだ。


「学院で勉強するのは、花嫁修行ですよね?武器がいるのですか?」


「はい。花嫁修行の一環で、護身術というのがありますわ。

誘拐など、いざという時に身を守るのと、同じくいざという時に自害するために短剣術を習います。

辱めを受けるくらいなら、死を選ぶのが貴族というものですわ」


貴族も命がけのようだ。


どんな剣を選ぶのかと思ったら、刃先が短く、鍔が小さく、直刀で尖っている、いわゆるダガーというものを選んだ。

自殺するときは喉を刺して死ぬので、尖ったものでないとダメらしい。

また、小さくないと、懐剣として持ち歩けないので、自然と小さいものになるそうだ。




次はアクセサリー屋だ。

ある意味、今日の桶狭間とも言える。

アクセサリーを見る女性は長い。服よりも長い。

しかも散々身につけてみたりした挙句に、何も買わないことも多い。

リリアーナ様はどうだろうか。


「さすが王都ですね。品揃えが素晴らしいです」


品揃えが多いらしい。長いのかなぁ。。。


店員さんが近づいてきて、用向きを聞いてくる。


「学生服の下に付けれるようなアクセサリーが欲しいのですが」


「それでしたら、こちらのコーナーになります。

学院では大きな装飾品は禁止される場合がありますが、小さなものは特に禁止されておりません。

髪留め、ペンダント、イヤリングに腕輪、ティアラや指輪なども取り揃えてございます」


「最近の流行りはどんなのがありますか?」


「それでしたら、こちらのイヤリングです。

従来のイヤリングはピアスと申しまして、耳に穴を開けて針を通す必要がありました。

しかし、こちらのイヤリングは耳たぶに引っ掛けるようにして飾るので、穴を開ける必要がありません。

引っ掛ける関係上、大きな宝石などはつけれませんが、どのみち大きな宝石などが付いたイヤリングは学院では認められませんので、問題になりません。

さらに、こちらのペンダントを、同じ石か同じデザインのものをセットでつけるのも流行りです」


「あまり華美なのはちょっと。。。」


「それでしたら、こちらの銀細工などはいかがでしょうか。

世界樹の葉を模したものや、ブルークリスタルフラワーを模したものなどがございます。

もちろん、同様のデザインのイヤリングもあります」


「イヤリング以外だと何がありますか?」


「イヤリング以外でしたら、こちらの腕輪などいかがでしょうか。

輪が二つで一つの腕輪となっていまして、歩くたびにシャランと音がして存在感を出します。

ただ、授業中に音がするとまずいですので、その間は紐で止めるなどします」


「音がするのはちょっと。。。」


「それならこちらを。。。」


。。。長い。。。。。。


。。。帰っていいかな。。。


「ジン様、これなんかどうでしょうか?」


やめて、意見求めるのやめて。


「うん、似合ってるよ」


「そ、そうですか。

ではこれにします。

お会計を」


「ありがとうございます。

ペンダントとイヤリングのセットで銀貨60枚になります」


60万円。貴族の装飾品としては安いのかな?

いや、なんかおかしい。毒されてきたか?





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