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宿屋で寛いでいると、アンジェさんが呼びに来た。

リリアーナ様がお茶に呼んでいるらしい。


3人でリリアーナ様の部屋、と言っても隣だが、に入っていく。


「帰ってこられましたのね、どこかにお出かけでしたの?」


どことなく不満そうだ。

何か悪いことでもしただろうか?


「えぇ、装備を買い替えに行ってきました」


「そうですか、冒険者ですものね。

でも、私の従者としているのですから、声くらいかけてくださいましな。

兵士だけでは格好がつきませんわ。貴方方がついて来て下さらないと外出もできません」


「それは申し訳ありません。昨日、警護は不要だと聞いていましたので。

これからでも外出しますか?」


「いえ、気が削がれましたわ。明日にします。

明日の予定は開けておいてくださいませ。


とりあえずお茶にしましょう」


ソファーに座るのは俺だけのようだ。

クレアとマリアは、壁際に立っている。

身内だけならともかく、貴族と同じテーブルには付けないという事らしい。



「リリアーナ様は宿に泊まっていますが、王都に屋敷とかは持たないのですか?

伯爵といえば、上級貴族ですよね?」


「以前は持っていましたが、余りにも使わないので売ってしまいましたわ」


「では、学院に通う際も宿からですか?」


「いえ、寄宿舎がありますの。

元々学院は貴族を対象としていたので、下級貴族でも大丈夫なように寄宿舎が用意されてますのよ。

現在は貴族でない一般の人でも入学できますが、奨学金が取れるレベルでないとダメみたいですわ。

小さい頃から教育を受けている商人の子息などですわね。

貴族の方も、有力な商人とのコネが出来るので、歓迎しているとか」


「貴族がほとんどなら、メイドなど従者を連れていてもおかしくないと思うのですが?」

俺はオーユゴック伯爵が、メイドを連れて行く訳にはいかない、と言っていたのを思い出して聞いてみる。


「そうですわね。

昔は大丈夫だったみたいですが、十年ほど前に学院長が変わってから、貴族でも簡単な身の回りのことくらいできないでどうする、と言われて、禁止になったようですわ。

一人で着替えも出来なければ、笑われてしまいますものね」


「なるほど。

それで、今回は試験のために来たと聞いているのですが、どんな予定なのでしょうか」


「明後日試験で、2日後に発表ですわ」


「一旦領地に戻るのですよね?」


「ええ、両親に結果を報告しなければいけませんし、入学は二ヶ月後ですし」


「お勉強の方は大丈夫なのですか?」


「嫌なことを聞きますのね。

貴族だとハードルが低くなってますので、合格は問題ないとお墨付きをいただいていますわ。

私は女ですので、特進コースには入れないと思いますが」


特進コースとは、おそらく上位の成績のものを集めた優等生クラスだろう。

エリート街道まっしぐらだ。


「リリアーナ様、今更聞くのもなんですが、女性が学業を修めて何か出来ることがあるのでしょうか?

私が見聞きした限りでは、家を継ぐのも、上級官僚になるのも男性のように聞いていますが」


「そうですわね。

入学する女性はほとんどが花嫁修業ですわ。

貴族としての礼儀作法、ダンス、家事や裁縫などですわね。

そのせいか、貴族女性には編み物や手芸を趣味としている方が多いんですよ。


あとは、出会いの場ですね。

女性同士で仲良くなっていたら、情報を共有したりして、いざという時に備えれますし。

まぁ、ほとんどはお茶会の相手探しですが。


他にも、下級貴族の方からしたら、もし上級貴族の目に止まって、側室にでもしてもらえれば御の字でしょう」


「リリアーナ様は通う必要ないのでは?」


「先日も言った通り、古代語魔法の研究がしたいのですわ。

学院の図書館にはたくさんの古文書があると聞きますし、2年間で全部読んで見せますわ!

。。。あと、家事も多少は、、、ジン様にお食事を作って差し上げるというのも、、、


いえ、なんでもありません。

明日はテスト前の気晴らしですわ。

今更少し勉強したところで、結果には影響ありませんし。


ということで、明日はエスコートしてくださいな」


「えぇ!?

私は王都は初めてなんですけど?」


「それで結構ですわ。

一緒に街を散策しましょう。

兵士には少し離れて警備するように言っておきます」






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