014


3日目に問題が起こった。


山の谷間を抜けているときに、盗賊が襲ってきたのだ。

片方は川で、もう片方は森になっている。見通しの悪い森側から襲ってきた。

30人ほどだ。武器は剣や斧、棍棒というのもいる。


アンジェさんが叫ぶ。

「馬車を守れ!

馬車を中心に半円状に広がれ!」


冒険者『7人』が馬車の前に集まる。


「青春の幻影はどうした!?」


そう、青春の幻影の冒険者がいないのだ。

俺の位置からはよく見えないが、3人がいないらしい。


「へっへっ、貴族のお嬢ちゃんよぉ〜、諦めな。

お嬢ちゃんは結構可愛いらしいから、ついでに可愛がってやるからな。

そこの女騎士は部下の相手してもらうぜ〜」


「なぜお嬢様が乗っていることを知っている!?」


「ふん、聞いたからに決まってるだろう。おい、出てこい」


盗賊たちの後ろから、3人の冒険者が現れる。

青春の幻影の冒険者だ。


「グルだったのか」


「へん、俺たちみたいな低レベルの冒険者じゃ、ろくな稼ぎにならないんでね。

悪いとは思ったが、あんたたちには俺たちの為に犠牲になってもらう」


青春の幻影のリーダーが吐き捨てると、アンジェさんは激昂した。


「貴様ら、冒険者として誇りがないのか!

盗賊に依頼主を売るなど許されるはずがない!」


「分かってもらおうなんて思ってないさ。

それにあんたたちが死んだら、俺たちはなんとか逃げれたって報告するだけさ。

依頼は失敗扱いになるけど、こっちの方が何倍も稼げるしな。


「お前たち、絶対に許さん!」


それと同時に矢が飛んでくる。

アンジェさんの右太ももに刺さった。


「ぐっ」


次々と矢が飛んできて、兵士や冒険者に刺さる。


「魔法で弓兵を狙え!

右の方の木の上だ!」


だが、魔法は通常、矢よりも射程が短い。

今の位置では届かないだろう。


「リリアーナ様、どうしますか?」


「今の人数では無理そうですね。お願いできますか?」


「了解です。マリア、ここでリリアーナ様を守っていてくれ。

リリアーナ様、矢が飛んできていますので、馬車から出ないでください」



「クレア、ボスを潰せ!そうすれば、あとは雑魚だ!」


俺はクレアにボスを倒すことを命じると、右の弓兵のいる方向に向かった。

弓兵のいると思しき場所は、馬車から約30メートル。

初級魔法だと20メートルくらいまで近づかないといけない。


近づく俺を脅威だと思ったのか、矢が全部俺に向かってくる。

俺は矢を見てから、剣で叩き落とす。

10メートルを切ると、弓を捨てて、地面に降りてくる。獲物は皆ショートソードだ。


地面に降りてさえいれば、剣だけで問題ない。

右から順に切り捨てる。


「あが。。。」「ゲホ。。。」「うお。。。」


あっという間だ。


後ろではクレアが無双している。

ボスは倒したらしく、兵士や冒険者も追撃に移っているようだ。

俺は馬車に戻ってリリアーナ様に確認を取る。


「リリアーナ様、盗賊が逃げていきます。追いますか?」


「そこまでする事はないでしょう。次の街に着いたら、父上に手紙を書きます。

騎士団を派遣してくださるでしょう」


「了解しました。


アンジェさん!深追い厳禁です!

適当なところで切り上げてください!」


「了解した!」



暫くすると、兵士や冒険者たちも戻ってきた。


「お前たち、青春の幻影に関して何か知らないか?」


アンジェさんが冒険者たちに尋ねる。


「俺たちは旅しながら冒険者やってるので。。。」


「私たちも似たようなもんです」


「そうか。

リリアーナ様、盗賊を何人か取り逃がしましたが、アジトを見つけて殲滅しますか?」


「そこまでする事はないでしょう。

それは騎士団の仕事です。

次の街で父上に手紙を書きます。良いように手配してくれるでしょう」


「は、かしこまりました。


おい、盗賊の死体を燃やしたら出発するぞ。

装備を剥ぎ取るなら早くしろ」


冒険者たちに、暗に剥ぎ取った装備はお前たちのものだと知らせる。

冒険者たちは喜んで鎧や武器を剥ぎ取っては、地面に開けた穴に放り込んでいく。

<火魔法>で火をつけて終了だ。


全員、大した怪我もなく(矢が刺さったものもいるが軽傷)、アンジェさんの太ももが一番ひどかった。


「アンジェさん、こちらを」


俺はマジックバッグから初級ポーションを取り出して差し出した。


「助かる」


アンジェさんは、礼を言ってからポーションを半分傷口にかけ、残りを飲み込んだ。

傷口はみるみる治り、ズボンが破けたのを除けば、傷があったことも分からなくなった。


「王都に着いたらポーション代も請求してくれ。

タダでもらうわけにいかん」


俺が練習用に作ったやつだから、原価はほとんど掛かってないのだが、販売されている初級ポーションをそこそこの値段がする。


初級ポーションを作るには、薬草と魔石の粉が少し必要だ。

俺の場合は全部自分で揃えたが、材料として買い求めたら、1本分で大銅貨2枚程度。初級ポーションの価格は銀貨5枚だ。ほとんどが技術料と言って良い。

これは、ポーションを作る際に、薬草と魔石の粉を煮詰めて、最後に魔力を注ぐのが手順だ。

魔力を注ぐ時に、<光魔法>または<神聖魔法>の魔力が必要になる。さらに、一定以下でも以上でも効能が発揮されないので、ある程度<魔力操作>を持ってなくてはならない。


どちらかだけならそこそこ人はいるのだが、両方というのは珍しい。

<光魔法>はいかに強力な攻撃魔法が使えるか、<神聖魔法>はいかに強力な治癒魔法が使えるかに重点を置いているので、全力で魔法を使うばかりで、コントロールできる人が少ないせいだ。

そのため、ポーション作りは神殿か錬金術士がほぼ独占しているのだ。


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