013



翌日、2人の着替えと足りない物を買いに行った。

2人が昨日買ってきたのは、『俺が』旅するのに『快適』になるものばかりで、必需品ではなかったのだ。


クレアは傭兵時代に遠征や野営などの知識があるはずだが、傭兵というのは、個人でなるのは珍しく、旅団毎に後方支援用の人員も含めて存在する。

極端に言えば、戦闘要員は戦闘だけしていればよかったのだ。

他の準備や料理などは後方支援部隊がやってくれる。


なので、クレアは旅に必要なものに関してそれほど知識がなかった。

マリアはともかく、クレアは分かっているだろうと、2人だけで送り出したのが間違いだった様だ。




「ご主人様、それは新品の、、、あ、それは値段の高いもので、、、」


マリアが、俺が服を選ぶたびに、自分には古着で十分だと止めようとする。

しかし、メイド服の替えも含めて必需品である。異論は認めない。


クレアにも色々買ったが、こちらは前回購入した時で諦めたのか、素直に感謝された。




必要なもののほとんどの物は、おそらく伯爵家の馬車に積んであると思うが、リリアーナ様と俺達が一緒に寝るわけにもいかないので、テントなども用意した。

以前、買い物をした時にもテントを買ったのだが、小さいものだったので、今回少し大きいものに買い替えた。

他にも予備の毛布や水筒など、余裕を持って購入し、<アイテムボックス>に収納した。

もちろん、食料や装備も予備を買ってある。10日の旅程で壊れるとは思えないが、既に神様貯金を使い込んでいるので、『自分で稼いだ分だけで生活する』のを諦めて、貯金を使うのを前提に見繕った。




翌日、日の出前に伯爵邸に向かうと、メイドが馬車の準備をしていた。

同行するのは騎士が一人と兵士10名のようだ。

皆馬に乗っている。馬車は2台、荷物用だろう。


女騎士に声を掛けて挨拶をする。


「お久しぶりです。冒険者のジンです。今回は従者として参加します」


「あぁ、久しぶりだな。先日は助かった。あの時の無礼は許してほしい。

遅くなったが、自己紹介しよう。私はアンジェだ。オーユゴック騎士団で小隊長をしている」


騎士さんは、以前オーガから助けた騎士だった。

女性なのでよくリリアーナ様の護衛に連れ回されるそうだ。


「すいませんが、こちらのクレア用に馬を用意して頂けませんか?従者では通らないので」


クレアは体が大きいのと、大剣を持っているので、従者としては不適なのだ。





南門につき、リリアーナ様が降りると、皆に挨拶をする。俺たちもリリアーナ様の後ろで控える。


「みなさん、リリアーナ・フォン・オーユゴックです。

王都までの道のり、護衛をよろしくお願いします」


冒険者のリーダーらしき男が挨拶する。


「俺は青い鬣のカイルです。Cランクです。こちらはメンバーのアラン、イリス、ウルルです」

「私たちは雷光の戦乙女、Dランクです」

「俺たちは青春の幻影、Eランクだ」


馬車に入ると、早速出発した。




馬車の中で、改めて挨拶を交わすと、マリアを指して俺にお礼を言ってきた。


「ジン様、私のわがままで、急な依頼になってしまいましたのに、依頼を受けていただいてありがとうございます。

メイドまで用意してただいて、お気遣いさせてしまい、申し訳ありません。

ですが、実際とてもありがたいです。私は野営など一人では出来ませんので」


「誤解がない様に先に言っておきますが、この子マリアはメイド服を着ていますし、メイド業もできますが、立派な戦闘要員です。

普段は冒険者として、私とともに戦っているのですが、今回はメイドとして働いてもらいます。

いざという時の保険が俺たちの役目ですが、その時はマリアが最終防衛線になります」


「なるほど、ジン様専用の戦闘メイドというわけですね。

マリア様、王都までよろしくお願いします」


戦闘メイドという職業があるのかは知らないが、なにやら納得したらしい。


「お嬢様、どうかマリアと呼び捨てにしてください。

私はジン様の奴隷ですので」


「私もクレア、と呼び捨てでお願いします。

私は奴隷で戦闘専門ですので、マリアほど役には立ちませんが」


「わかりました、マリアさんとクレアさん、お二人とも道中、よろしくお願いします」




野営ではマリアが大活躍だった。

リリアーナ様の世話から料理まで、なんでもこなす。トイレの時は布を持って隠すし、馬車の中で体を拭くのを手伝ったり。<メイド>スキルは伊達ではないという事だ。

俺はなんの役にも立っていない。料理なんて、焼肉のたれで野菜炒めを作る程度だ。焼肉のたれがないこの世界では、ただの役立たずだ。カップ麺ないかな?



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