005
歩きの兵士に合わせたのか、馬車はゆっくりと走る。
道中、リリアーナ様はオーユゴック家が王国の西部に広い領地を持ち、王家とも繋がりが強い事を教えてくれた。
なんでも、王国建国当初からの名家で、戦争で武勲を上げたとか。それで今でも質実剛健の気質を受け継いでいるとか。
まあ、本人の言う事なので贔屓目も入ってるとは思うけど。
俺は自分のことを記憶喪失で、森で気がついたばかりだと説明した。リリアーナ様は表面上は大変でしたねと、心配してくれたが、恐らく信じてない。記憶がないのは間違い無いんだが。
そんな事を話していると、日が沈む頃になって大きな街が見えてきた。10メートルはある城壁越しに、城の尖塔のようなものが見える。門も数メートルはあり、大きな馬車でも通れそうだ。
門に差し掛かると、門兵が誰何するが、リリアーナ様が馬車から顔を出すと、
「お嬢様お帰りなさい」
と門を通してくれた。兵士の亡骸を門兵に引き継ぎ、途中でオーガの襲撃に会い亡くなったことを伝える。
街に入ると、人通りも多く、活気があった。民家からは炊事の煙が上がり、酒場からは陽気な声が聞こえてくる。なかなか感じの良い雰囲気だ。
見える範囲の物を片っ端から<鑑定>し、何か得るものがないか調べる。民家は殆どが木造で、酒場などは石造り。服は木綿か麻で、チュニックやワンピースが多い。
身体lvは3-5くらい。
一度、鎧を着た、冒険者とおぼしき人を鑑定すると、lv15だった。
俺は体の表面を無魔法で覆っているが、鑑定された時のため、魔法が通過するときに無魔法が誤情報を与えるようにしている。
その情報を身体lv15、剣lv2と水魔法lv2に設定し直した。年齢は21だ。種族は人族。魔法適性は水と地と時空。時空は<インベントリ>を誤魔化すために、アイテムボックスが使えるという事にしておきたかったために表示することにした。
この世界は人族以外にもドワーフ族やエルフ族なども存在しており、特に差別もないと言う。混血も珍しくないらしい。ただ、王侯貴族は、純血を重んじるので混血は少ない。
暫く馬車で走っていると、徐々に街の中心部に近づいてきた。街の中心は城があるのですぐ分かる。
リリアーナ様が高位貴族を名乗り、城に近づく、、、城に近い屋敷であってくれ。。。
願いは虚しく、城に入っていく。
門を通ると正面に噴水があり、そこを迂回するように道がある。道の左右には低木が植えられており、視界を遮っている。
石畳を進むとロータリーがあり、城の入り口の前に馬車を着けるようになっている。入り口の左右に兵士が一人づつ。その前にメイドが二人。
なぜメイドだと分かるかと言うと、メイド服を着ているからだ。
秋葉原にいるようなエセメイド服ではなく、本格的なやつだ。黒の詰襟のエプロンドレスだろう。メイドというより、侍女と言う方がしっくりくるかもしれない。
馬車が止まると、二人ともお辞儀し、
「おかえりなさいませ、お嬢様」
と出迎える。
リリアーナ様が先に降り、その後にナタリーさんが続く。俺が降りると、全員の視線が刺さる。
「お嬢様、こちらの方は?」
「命の恩人です。失礼のないように。
ジン様、私は父に今回の事を報告しなければいけないので別行動になりますが、客室をご用意しますのでお寛ぎください」
正直、街まで送ってもらったので、その辺の宿屋に放り出して貰って構わないのだが、言い出しにくい。
取り敢えずメイドについて行くが、さすが城、部屋までが長い。メイドさんに聞くと、部屋の位置を覚えるのは、メイドのスキルより前の常識らしい。メイドすげー。
「こちらでお待ちください。すぐにお飲物をお持ちします」
部屋に入ると、だいたい6畳が2部屋くらいの広さがあり、奥にはダブルベッド、手前にはソファーとローボードが置いてある。
床は濃い赤の絨毯が敷かれ、天井には灯りがついている。ロウソクのような揺らめきが無いので、魔法具だろう。
先程のメイドさんが、ドアの脇にある緑色の突起に手をかざした時に付いたので、間違い無いと思う。
暫くソファーに座っていると、メイドさんがワゴンを押してきた。上には紅茶を淹れるのであろう、カップなどが積んである。
「どうぞ、当領の特産品の紅茶になります」
「有難うございます」
俺は紅茶に詳しく無いので、良し悪しはわからないと思っていたが、普通に美味しい。紅茶は独特の渋みがあると聞いた気がするが、これはほのかに甘い。特産品になるだけのことはある。
メイドさんはワゴンを壁際に移動させると、扉の脇に立った。
「あの、落ち着かないんですが。。。」
「私の事は木石とでもお考えください。何かご用事があれば、なんなりとお申し付けください」
昔の貴族は常にメイドが付きまとい、トイレまで手伝わせていたと聞くが、さすが城に住んでるだけのことはある。
このメイドさん、トイレ、付いてこないよね?
好奇心に負けてトイレに案内して貰ったが、扉から先は入って来なかった。よくよく思い出してみると、女性がドレスだと、一人では出来ないから手伝わせてたような気がする。
トイレの場所がわかって良かったと言うことにしておこう。
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