004


太陽に向かって歩く。森は鬱蒼と茂り、鳥の鳴き声が聞こえる。木々の間を涼しい風が吹いている。太陽は高くまで昇り、影を落とす。先程ゴブリンが出てきたのが嘘の様だ。


俺は目につくものを片っ端から<鑑定>しながら歩いていた。


<鑑定>

木の葉、木の幹、木の根、雑草、スズナ草、オギス草、、、


知らないのも多かったが、殆どは木だ。

<鑑定>はその名の通り、物の情報を知るスキルだ。色々なものを詳しく知ろうとしていると、偶に取得する事がある。生産職が良く取得している。

俺の場合は、スキルの存在を知っていたのと、<魔力操作>が使える事、見れる内容に想像がついていたので比較的簡単に取得できた。

魔力の消費は僅かで、lvが上がるとより詳しくわかる様になる。まあ、今はlv1だが。

lvが高くなって、人を<鑑定>すると、スリーサイズまで分かるらしい。


暫く穏やかな時間を過ごしていたが、前方から、金属のぶつかる音が聞こえてきた。


カキン、ガッ、ドスッ


ガォガォ

魔物の咆哮だ。声の太さからして、大型種だ。人の声もするが、よく聞こえない。


俺は慌てて先を急いだ。


少し進むと、街道があり、馬車が横倒しになっていた。馬車の周りには騎士らしき格好をしたのと、兵士が5人戦っている。魔物はオーガの様だ。5体に囲まれている。

オーガはCランク冒険者がパーティで倒す魔物で、1対1で戦う相手ではない。実際兵士は皆怪我を負っており、防戦一方だった。

足元には5人の兵士が倒れており、状況は悪い。


俺はゴブリンの時を思い出し、気分が悪くなりながらも声をかけた。


「助けはいるか?」


同時に森の中から街道に出る。


「助かる。頼む!」

騎士の中でも、ひときわ目立つ鎧をつけた男が声を返してきた。身長も高く、ムキムキだ。


俺はまず、水の魔法で頭くらいの球状のものを5つ作る。それをオーガにめがけて放り投げ、顔を覆う様にした。


オーガは息ができなくなって、棍棒を放り出して、顔をかきむしっている。


「一体ずつ倒していけ!」


兵士達は今が好機とばかりに攻撃を仕掛ける。剣を振って遊んでる時に分かったが、体が軽い。それも、前の世界では振れそうも無い剣が簡単にふれる。

俺はオーガの首を狙って全力で振り抜く。周りの見えてないオーガは防御も出来ずに喉を切り裂かれる。


兵士が苦戦していたのが何だったのかと言いたいほど簡単に倒せた。


直ぐに2体目にかかる。オーガはもがいているだけなので、簡単に攻撃が当たる。腕を切りつけ、腹を割く。オーガが腹を抱えると、首が空いたので、喉を切り裂く。


3体目も同じ様に倒すと、兵士も2体倒した様で、弛緩した雰囲気が漂う。


兵士達は、オーガ達の息がないのを確認してから、馬車の前に並び、俺に剣を向け、

「お前は何者だ」

と聞いてきた。


「旅のものだ、苦戦している様なので手伝わせてもらった」


「助けて貰ったのは感謝するが、誰ともわからんやつを近づける訳にはいかん。お前の名前は?」


「ジンだ。この先の街で冒険者登録する予定だ」

もちろん、名前は本名ではない。神様から記憶を制限されているため、本名は知らない。この世界で生きるための名前として、神様から聞かれてつけた名前だ。ちなみにVRMMOでよく使っていたハンドルネームだ。


「助けて貰って言えることではないが、済まないが、立ち去ってもらえないか?身分を証明できない以上、信用できない」


「わかった。近くの街はこっちでいいのか?」

馬車が向いていた方向を指す。


「あぁ、早く行け」


「お待ちなさい」


横転した馬車から15才くらいの女性が顔を出している。横転した馬車から顔を出しているので、胸から上しか見えない。銀髪碧眼で、ローブの様な服を着ている。かなりの美人だ。

俺がボーッと見とれていると、


「私は、オーユゴック伯爵家の3女、リリアーナ・フォン・オーユゴックです。危ないところを助けて頂きありがとうございました。

貴族の端くれとして、恩は返さなくてはなりません。

旅先と言うこともあり、十分な持ち合わせがありません。

幸い次の街はオーユゴック家の納める地。十分な御礼ができるでしょう。

次の街までご同行願えますか?」


「願っても無いお誘いですが、よろしいので?」

先程の隊長とおぼしい騎士に目をむける。

「お嬢様、身元の分からぬ者を、それも平民を同行させるなど、、、」

「ライノス、黙りなさい。私が決めたことです。平民相手だろうが恩には変わりありません。私を恩知らずにさせたいのですか」

「いえ、そう言うわけでは、、、」


リリアーナ様は倒れた馬車から這い出てくると、兵士に馬車を起こして出発の用意をする様に命じた。

馬車から這い出す時の格好がギャップ萌えという感じだったが、貴族を笑うわけにもいかない。俺はポーカーフェイスで頑張る。


兵士達の亡骸は馬に乗せて運ぶそうだ。街から近いから出来る事らしい。普通は遺品だけ取り分けて、燃やしてしまうそうだ。放置するとアンデッドになる可能性があるかららしい。さすが異世界。



馬車の用意ができると、兵士の亡骸を馬に乗せ始めた。兵士が馬の轡を持って歩く様だ。


「ジン様こちらへ。アンジェ、一緒に乗りなさい」

リリアーナ様は女性兵士に馬車に乗る様に指示する。生き残り唯一の女性だ。メイドは元々連れてきていないらしい。


「申し訳ありません。ですが、私も貴族の子女として、密室で男性と二人きりになるわけにはいかないので」

「お気になさらず。私は大丈夫です」

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