003
夜が明けた。
いつの間にか寝ていたらしい。
焚き火は消えて炭になっている。動物対策にわざわざ魔法まで覚えて、火をつけたのに、火を絶やすとは失敗だ。何もなくて良かった。
魔力の循環は途切れていた。まあ、最初だし仕方ない。そのうち寝てる間もできる様になるだろう。
<インベントリ>から取り出した竹筒に水魔法で飲み水を作り入れ、保存食を齧って準備を終える。水を作っても大して魔力が減った感じはしない。<ステータス>にはHPやらMPという項目は無い。感覚で知るしかない。
魔力を循環させながら、昨日と同じく太陽に向かって歩く。多分南だろう。
暫く歩き、
そろそろ昼時になる頃、少し先で、ガサガサと気がかき分けられる音がした。
止まって見ていると、何かが飛び出してきた。
身長は低く、膝は曲がり、ガリガリ。目はこれでもかと言うくらい大きい。頭髪は無く、体は暗い緑色をしている。手には棍棒、と言うには細い、太い枝くらいの棒を持っている。
ゴブリンだ。
ファンタジーに欠かせない、みんな大好きな雑魚モンスターだ。
この世界でも弱いが、繁殖力旺盛で群れを作る特性がある。
俺はゴブリンだと分かった瞬間、剣を抜いて切りかかっていた。剣を抜いたまま横薙ぎで振り抜く。高さ的に丁度喉を切り裂いた。
ゴブリンは血を吹き出しながら仰向けに倒れこんだ。
ムッとした血の匂いが充満し、むせるほど濃くなっていく。
俺は近くの木に手をつき、吐いた。
「おえぇ、、、」
ただでさえ醜悪なゴブリンが、血を吹き出して死んでいるのを見て、我慢できなかった。
何も考えずに剣を振ったが、生き物を殺すことを甘く見ていた。充満する血の匂いも吐き気を助長する。
「おえぇぇ」
魔法が使えるのに浮かれて、ゲームの様な気分になっていた。ゲームでなら匂いもしないし、死体も直ぐに消える。グロいのはホラー系くらいだ。
青い顔をしながら、その場から逃げる様に走り去る。
暫く走ると息が切れ、木に背をもたれさせて座り込む。
「そりゃそうだな。現実だもんな」
魔物とはいえ、生き物を殺す覚悟もないまま殺したのだ。現代日本人が耐えれるわけがない。
ゴブリンを殺した感触が右手に残っている。震える右手を左手で抑える。
「でもlv上げるなら殺さないといけないんだよな」
スキルレベルはスキルを使っていけば自然と上がる。しかし、身体lvは生物を殺さないと上がらない。
lvが上がるとは、生物の宿している魔素を取り込んで、生命としての格が上がると言われている。魔物は魔素を大量に含んでいるので、効率的にlvが上げられるのだ。
俺は上を見上げて、木の葉を眺めながらこの後どうするか考える。
身体lvを上げるなら、魔物を倒すのは必須。
だけど、神様からの依頼はスキルレベルだけじゃ無く、身体lvも対象だ。
いっそのこと、街に着いたら街から出ないで、スキルレベルだけ、上げるか?幸い当座の資金は神様から貰っている。
冒険者ギルドで登録して、街中の依頼だけ受けてればいい。贅沢は出来ないが、生きていくだけなら十分だ。
神様との約束は守れないが、生き物を殺せないなら、仕方ないんじゃないだろうか。
だが既に一度殺してしまっている。魔物は人に危害を与える害獣だ。この世界では、魔物を倒して褒められはすれども、非難されることはない。むしろ、倒す力があるなら。倒すことを推奨されるほどだ。
「つまり、俺の覚悟だけの問題か」
自分で自分を情けなく思いながら呟く。
一歩進めばまた現れるかもしれない。いや、進まなくても現れるかもしれない。自分がそう言う世界に来てしまったことを噛み締めながら空を見上げる。
木々の隙間から青い空が見える。
「ふぅ」
暫くして、深呼吸をして立ち上がる。その瞳には覚悟の光があった。
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