第四十話 「火の魔法」
火の魔法を出そうとした俺の姿を、三人のエルフ達は楽しそうに眺めていた。
俺は隣に座るエレナに問いかけた。
「今やったように教わったんだよ。
でも、何度練習しても、いっこうに火は出てこないんだ」
「そっか。
シュンが魔法について何も知らないってことがよくわかったわ。
人間の種族でも、簡単な火の魔法ぐらいは使えることが多いんだけど、シュンみたいに全然できない人もいるのね」
「人間の種族でも、っていうことは、エルフ族は全員が魔法を使えるってこと?」
「そうよ。
だって、魔法はエルフが生み出して伝えてきたものですもの」
そうだったのか。
これは初めて知った知識だった。
「じゃあ、エレナは火以外にもいろんな魔法が使えるってこと?」
「ええ、そうよ。
火、水、風、土、この四つの精霊魔法を使いこなすわよ」
俺はまたしても新しい知識を得た。
魔法には四種類の精霊に属する魔法があるということ。
「火の魔法は一番使い勝手が良いし、みんな子供の頃に習うのよ。
魔法の基礎を学ぶにはちょうど良いわね。
シュンもまずは火の魔法を覚えるといいわよ」
「じゃあ、どうやったら出来るようになるか、教えてくれる?」
「ええ、いいわよ。
まず、心を落ち着けて、人差し指を上に向けて、指の先に意識を集中していてね」
エレナはそう言うと、俺の背中にその手を当てた。
「今から私が自分の魔力をシュンの体を通して流すから、その魔力の流れを感じてね」
魔力の流れを感じる?
簡単に言ってくれるけれど、魔法の使えない俺にそんなこと可能なのだろうか?
しかも、俺の体を通して流すって、そんなことができるんだ?
「さあ、行くわよ」
エレナがそう合図すると、俺の背中から右手の指先にかけて、何かモヤモヤしたものが流れていくのを感じた。
なんとも言葉では言い表せない感触。
何かが複雑に波を打つように、指の先から流れ出す。
そんな感覚をはっきりと感じ取った次の瞬間、指の先に小さな炎が灯った。
「うぉっ!
火が灯った!」
「どお?
魔力が流れる感覚、わかった?」
エレナからの魔力が止まるのを感じた時、指先の炎は消えていた。
「うんうん、感じたよ。
これが魔力なのか……
なんだか、複雑な波のような感じがしたよ」
「あら、シュンは感覚が鋭いわね。
たった一回でそこまで感じられるのって、すごいことだわ。
さっき感じた波と全く同じものを、魔力の波を流し出せば、シュンも火が出せるのよ」
さっきの波と全く同じもの、か……
かなり複雑なパターンだった。
それに、魔力を流すって、どうするのやら……あれ?
その時俺は、自分の体の中に魔力があることを感じ取れていた。
漠然とであるが、先程エレナから流されたものと同じようなものが、体中に存在する。
一度魔力とはどういうものかを体で感じたため、自分の体内の魔力に気がついたのだ。
次に、その体内の魔力を動かすことができるか、やってみる。
エレナの魔力が腕を通っていった時に感じた感触。
それを思い出して、自分の体内で再現してみる。
できた。
魔力を動かすことができた。
じゃあ、次はさっきの波と全く同じ波を、魔力で作ればいいんだな。
ええっと、どうだったっけ……
「あら、すごい集中力ね、シュン。
ねえ、聞いてる?
魔力を感じることができたとしても、そう簡単に出来るようにはならないわよ?
今みたいに、何度も魔力を流してもらって、やっと覚えられるものなんだから。
お姉さんが手伝ってあげるから……って、え?」
俺の指の先に、炎が灯っていた。
「え? え? え?」
エレナが狼狽している。
俺は先程エレナが流した魔力の波を完全に再現してみせ、その結果として指先に炎を出すことに成功した。
「やった!
できたよ!」
俺はエレナの方に顔を向けた。
意識が指先から離れた瞬間、炎が消える。
魔力の流れが乱れてしまったからだ。
「シュン……
たった一回で出来ちゃったの……?」
エレナは驚愕していた。
クーランディアとリングウェウも同様に驚きを隠せていなかった。
なぜ俺が一発で魔法を使えるようになったのか。
エレナが流した複雑な波を、俺が完璧に記憶していたからである。
俺は、この世界に来てから、驚異的な記憶力を得ていた。
もともと記憶力には自信があったのだが、それに磨きがかかったように、見たこと聞いたこと感じたこと、全て記憶して思い出すことができるようになっていた。
思えば、異世界に転移する時に授かる特殊能力、というやつかもしれない。
かくして、俺は初めて魔法を使えるようになったのだ。
「シュン!
あなた、すごいわよ!
たった一回見せただけでできちゃうなんて!
魔法が使えないなんて、使ったことないなんて、嘘だったんじゃないの?」
「いやいや、本当に初めてだよ。
エレナがわかりやすく教えてくれたからだよ。
本当にありがとう」
俺は、覚えたばかりの魔法を忘れないようにと、何度も指先に出しては消して、出しては消して、と繰り返していた。
子供の頃に新しいおもちゃを買ってもらった時の気持ちを思い出した。
自分が魔法を使えるようになったのが嬉しくて、俺は何度も何度も炎を出した。
「シュン、とっても嬉しそうね。
でも、あんまり魔力を使いすぎると、後が大変よ?
最初のうちは持っている魔力の量が少ないんだから。
体内の魔力を全部使い果たすと、気絶しちゃうこともあるんだからね?」
そういうことは、最初に言っておいて欲しかった。
この状態が、いわゆる魔力切れってやつか……
俺は、自分の視界が真っ暗になっていくのを感じつつ、意識がスーッと遠のくのを感じていた。
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