11

「はい、と、いうわけでー」

 大槻は手を叩いた。「僕たちは今、雛町にある人気のネイルサロン、『3MEスリーエムイー』さんの前に来ていまーす」

「いえーい」

 本村はとびきりの無表情で片手を振った。頭の左右に、角が生えたように小さく立ち上がった寝癖。胸には、ペパーミント色のスカートとローラースケートを履き、栗毛を高く結んだメイリスを抱いていた。

「何これ。回ってる?」倉沢は言った。

「回ってねえ回ってねえ」池脇は言った。

「えと、わたくしですね、昨日、米山志保さんからの情報を頼りに、噂の多部愛理さんがこちらのお店に勤務しているということを突き止めましてね。即行予約入れたんですが、さすがは人気ネイリスト『あいり』さん。予約、一枠しか取れませんでしたー。はい拍手」

 大槻は軽快に述べた。本村と倉沢は音にならない拍手を起こした。

「で、代表で本村君」

「はい」

「付き添いで倉沢さん」

「え、なんで俺」

 倉沢は顔をしかめた。

「嫌ならいいんですよ。お帰りいただいても」

「え。いや————」

 倉沢は瞼を伏せた。「行きます。喜んで」

 大槻は満足そうににんまりと微笑んだ。「はい、で、俺とてつみちは聞き込みね」

「聞き込み? なんの?」倉沢は三度みたび口を挟んだ。

「いろいろあんだろ。『ジドリ』とか、『カンドリ』とか」池脇は言った。

「でも、それなら警察がとっくにやって————」

「はいはい、予約の時間になっちゃうから。もとむ、あとよろしくね」

「はあい」

 骨が浮き出た倉沢の背を、大槻が押し出した。本村は倉沢の制服のネクタイを引き、ビルのエントランスへ入っていった。

「ねえ、ねえ、それさ、これ終わってからじゃだめなの?」倉沢は足掻いていた。

「時間もったいないでしょ」にこやかに笑い、大槻は手を振った。

「捜査は迅速的確にな」池脇も言い放った。

 ビルの自動ドアが、二組の捜査班を虚しく分けた。

「……あいつさー」

 ネクタイを引かれ、後ろ向きに進みながら、倉沢はぼやいた。

「え?」

「池脇だよ」

「ああ。うん」

「すました顔してるけど、絶対探偵ごっこ大好きだよな」

「あー。リハビリ中なんだよ。池脇君」

 本村はエレベーターのボタンを押した。

「は?」

 倉沢は乱れたネクタイを直していた。

「人間リハビリ中。多分、流されようとしてる。積極的に」

 倉沢は手を止めて、気怠げな目を見開き、本村に向けた。

「あいつ、なんか訳あり?」

「僕もよく知らないけど。元々用心深いんだよ、多分。そういう人が、勇気を持って誰かを助けようとして、大怪我したら、『もう知らねえよ』って、いろんなことあきらめたり、放棄したりするようになるでしょ。で、思い直していざ何かと向き合おうとしても、どこまで本気になっていいのか、不安だし、サジ加減が分からなくなる。それに危機感覚えてるんだよ。放置しておくと、塞いでいく一方だし、頭で判断しながら、体が動かなくなるの、分かるから」

「ふーん。あいつ、顔もTシャツもバイオレンスな感じだし。そんなセンシティブなやつには見えないけど」

「倉沢君はないの? そういう、ぱっと見じゃ分かりにくい悩みとか」

「ない」

 倉沢は即答した。

「そう」

 本村は言った。

 二人は、降りてきた空のエレベーターに乗り込んだ。

「それ何?」

 倉沢は、本村が抱いている人形を横目で見た。

 同時に、ステルス性の観察眼を無意識で働かせていた。人形が着ているそれは、ぺらぺらの布地を不恰好に巻きつけただけのものではなく、オーダーメイドのようにぴたりと形造られ、襟や裾まで細やかに縫製されていた。玩具のようだが、安っぽさは感じない。

「メイリスだよ」

 本村は言った。「ほんとは『カレンドール』っていうんだけど。3MEのサイトの愛理さんの紹介欄に、『着せ替え人形が好き』って書いてあったから、何か会話の糸口になればいいなって」

「それがお前らのやり口か」

「え?」



 3MEはヌーディーピンクでまとめられた落ち着いた雰囲気のサロンだった。

 本村たちが受付の前で待っていると、多部愛理はすぐにやって来た。ストロベリーブロンドのショートヘアをした、快活そうなスタッフだった。志保に見せてもらった写真の頃の面影はあるが、当時よりも存分に垢抜けている。

 愛理は施術用のブースに二人を案内した。壁の埋め込み式の棚には、玩具のコンパクトやカップケーキ型のキャンドル、毛先がアプリコットオレンジで染まった、プラチナブロンドのカレンドールなどの小物がふんだんに飾られていた。

「かわいいですね」

 立ち尽くして棚をぽうっと眺めながら、本村は言った。緊張もしていないようすで、倉沢はメインのソファに堂々と腰かけていた。

「あ、そうなんです。ここ、私のワークスペースなんで、結構自由に。お二人とも高校生ですか?」

 かわいらしい声音と、丁寧な口調で、愛理は言った。

「そうです。ネイルサロンに来るの、初めてで」

 言いながら、本村は仕方なく予備のソファに座った。

「そうなんですね。本日はご来店ありがとうございます。もう、デザインとかはお決まりですか?」

「青のワンカラー。ちょっと黒っぽくて、マットな感じで」

 倉沢はつらつらと答えた。

「では、一緒にお色味から選んでいきましょうか」

 倉沢は取り出された見本をしげしげと眺めはじめた。その隙に、本村は第二班の大槻に手早くメッセージを送った。

『お店かわいい』『あいりさんやさしい』『倉沢さん暴走』

 施術が始まると、愛理は自分と倉沢の手に丁寧に消毒をした。それから、専用のやすりで爪の形を整え始めた。少しして、唐突に愛理は言った。

「お人形、かわいいですね」

「ありがとうございます。メイリスっていいます。後ろに飾ってある人形も、カレンドールですよね?」本村はたずねた。

「そうなんです。一緒ですね。私も、『カレン』じゃなくて『あいり』って名前つけてるんですよ」

「てことは、あの子は愛理さんの分身ですか?」

「私の、未来の、分身なんですよ。着たい服とか、したい髪型とか、欲しいものとか。先にあいりちゃんで叶えてあげて、それを眺めるんですよ。モチベ上がりますよ」

「へぇー。でも、カレンドールにあんなグラデーションのウィッグありましたっけ?」

「あれ、私の手作りなんですよ」

「え、すごい」

「別のメーカーのとか、ハンドメイド作家さんのとかもネットで売ってるんですけど、イメージ通りのがなかなか見つからなくて。私、細かい作業好きなんで、自分で作った方が早いかなって。意外と簡単ですよ。メイリスちゃんは、髪色変えたりしないんですか?」

「メイリスは、シルキーブルネット一筋なので」

「そうなんですねぇ。確かに、すごく似合ってますもんね」

 施術に集中しながらも、愛理は軽快なテンポで会話した。それから、金属のツールで倉沢の爪の生え際を押し上げ始めた。

 自身の指先に施される、初めての光景と感覚に、倉沢は僅かにおののいた。それから、棚の上を見上げて言った。「あの、横のも、今欲しいものってことですか?」

 人形のあいりの隣には、カレンドールとは別のブランドのものと思われる、華奢な造りをした人形が置かれていた。服装はチョコレートブラウンのスーツ。髪は短く、やわらかなグレージュだった。

「ああ。それは」

 一度、振り返ってから、平気な顔で愛理は話した。「今っていうか、ずっと昔から欲しいものなんですけど。これだけは、努力じゃどうにもならないんですよね」

「名前、あるんですか?」本村はたずねた。

「ひろむ君、です」自慢のパートナーを紹介するように、愛理は含み笑いで答えた。

 その後も愛理はてきぱきと施術を進めていった。爪の土台が整ったところで、倉沢の指先を拭き取りながら、何気なく愛理はたずねた。

「今日、初回でご指名頂いたみたいなんですけど、どなたかのご紹介ですか?」

「はい。志保さんの紹介で」

 本村は言った。

「え?」

 愛理は、つまずくことのなかった円滑対応と、施術を行う自身の手を止めた。

「米山志保さんです。同じ高校だったって、聞きました」

「そう、ですけど……。なんで知ってるんだろ。私がここで働いてること」

 愛理は不審がる表情を浮かべながら、施術を再開した。

「三柴さんから聞いたのかもしれないですね」

 言って、本村はひろむ君人形を見た。

 愛理は慌てるようすも、恥ずかしがるようすもなかった。

「……お客様、三柴先輩のお知り合いなんですか?」

「いえ。三柴さんとは面識はなくて。越水さんによくしてもらってるんですよ」

「ああ、なるほど。さすがは越水先輩。交友関係広いなぁ」

 愛理は透明なジェルを筆に取り、倉沢の爪に丁寧に塗布していった。

「すごく大変だったみたいですね、三柴さん」メイリスと共に興味深げに施術を見つめながら、本村は言った。

「そうですねぇ……」積極的ではないようすで、愛理は返した。

「三柴さんと会いました? 事件のあと」

「いえ。連絡して、いろいろ話はしましたけど、直接は……。忙しいんじゃないですかね」

「そうですよね」

「誰が殺したと思います?」

 塗り替えられる自身の指先を見つめながら、倉沢は言った。

「え?」

 また、作業を停止し、愛理は指先から倉沢の顔に視線を移した。

「例の看護師さん、誰に殺されたと思いますか?」

 倉沢は視線を上げずに聞き直した。

「越水さんがですね、どうしても自分の手で犯人捕まえたいって言うんですよ」

 本村は言った。「三柴さんのこと、ほっとけないらしいです。僕たちが、三柴さん犯人説を唱えたら、志保さんにはばっさり切り捨てられました。『ばっかじゃない』って。愛理さんはどう思いますか?」

 少し考えてから、愛理は淡々と施術を再開した。片方の爪をすべて塗り終えると、倉沢に、青い光を放つ硬化装置の中に手をくぐらせるよううながした。

 もう片方の手に取り掛かり始めると、ようやく愛理は話し出した。

「やったのは、多分、三柴先輩ですよ」

「どうしてそう思うんですか?」

 驚きも見せずに、本村はたずねた。

「彼氏が、一番怪しいからじゃないですかね」

「でも、その三柴って人にはアリバイがあるらしいですよ」倉沢が言った。

「ああ。バーの店員さんが証言してくれてってやつですか? でもそのバー、私も行ったことあるんですけど、半個室席があるんですよね」

「そうなんですか?」本村は言った。

「そうですよ。席はカーテンで仕切られてて、薄暗いし、ほとんど友だちみたいな常連さんの出入りも多いですし。入店と退店のときに顔見てたとしても、その間のことなんて、全部は分からないんじゃないですかね」

「でも、一緒にいた志保さんが言うには、三柴さんは長時間席を外してはいないって————」

「嘘ついてるってことじゃ、ないですか?」

 手を止めずに、平然と愛理は言った。

「共犯ってことですか?」

「そういうのじゃなくて、なんていうか————」

 愛らしいヘアカラーにも、ブースのデコレーションにも似合わない深刻そうな表情を浮かべて、愛理は考えていた。そして言った。

「三柴先輩の過ちを、隠蔽しようとしてるんですよ」

 愛理はダークブルーのカラーリングに取り掛かった。

「先輩たちから聞いてないんですか? 三柴先輩の、歴代の彼女のこと」

「はい、聞いてます」あっさりと、本村は答えた。

「こないだの看護師さんを入れたら、もう、六人ですよ」

「はい、聞いてます」

「最初の彼女が亡くなったとき————その時は、私たち、まだ高校生だったんですけど————。私は、陸上部だった三柴先輩の練習をグラウンドで見てたんですよ。昼休憩が来たとき、先輩は、彼女に一秒でも早く会いたいって言って、一番にグラウンドを出ていって————」

「うわもう怪しい」

 倉沢は軽い蔑みをあらわにした。

「私は他の部員の人たちとグラウンドに残ったんですけど、少しして、三柴先輩の彼女がお弁当持って一人で現れて、『あれ、三柴君は?』って言うんですよ。行き違いになったんだろうって、みんな笑ってて。でも、グラウンドに出るための校舎裏の玄関は、その日、修理があるとかで使えなかったんですよ。先輩の彼女がいた演劇部のホールの裏口も、距離的にはグラウンドと近かったですけど、ずっと鍵がかかってて、来賓用の玄関や通用口も、防犯対策で封鎖されてて————。なんで、どんなに遠回りでも、その日、校舎とグラウンドを行き来するには、正門側のメインの生徒玄関を使うしかなかったんです。生徒玄関からグラウンドまでは、校舎の東側を回るのが一番早くて。西側から、わざわざ大回りしてグラウンドに行く人なんて、誰もいないんですよ。だから、行き違いなんてありえないなって、私思ったんです。それでしばらく待ってたら、三柴先輩、息切らしながら戻ってきたんですよ。裸足で」

「裸足で?」

 倉沢は眉をひそめた。

「そうですよ。行くときは、スパイク履いたままだったのに。スパイク脱いで、演劇ホールに裏口から侵入して、彼女を事故に見せかけて殺せるように、舞台のセットに細工してきたあとだったんですよ、きっと。スパイク履いたままだと、ピンの跡、床についちゃうんで」

「うーん。でもスパイクって、地面に触れると傷みますし、長時間履くものじゃないですからね」本村は唇をひねった。「校舎に向かう途中で、単純に楽になりたくて脱いだ可能性も————」

「うちの学校、校舎の周りにベンチスペースがあるんですけど、私、事件のあと、その時間そこにいた子たちに聞いてみたんです。そしたら、先輩と彼女が一緒にお昼を食べてるところを見た人はいても、それよりも前に、三柴先輩が一人で校舎脇を通っていくのを見た人は、誰もいないって————」

「でも、演劇ホールの裏口には鍵がかかってたんですよね?」

 倉沢は言った。「その先輩が侵入するのはむずくないですか?」

「米山先輩と越水先輩は、生徒会の委員だったんですよ? いつも二人一緒に、いろんな部署掛け持ちして、他の先輩や先生方も、二人のことすごく頼りにしてたから、もう生徒会の実権握ってるみたいに我がもの顔で振る舞ってて。三柴先輩に頼まれたなら、二人が鍵を持ち出すなんて簡単なことだったと思います」

 愛理はまた、倉沢の爪に透明なジェルをのせ始めた。

 筆先は訳ないようになめらかに動くが、愛理の顔は、息さえ止めたように真剣そのものだった。その、強い眼力と軽い筆遣いをくずさぬまま、愛理は言った。

「さっき、米山先輩が私のこと紹介してくれたって言ってましたけど、ほんとですか?」

「え?」本村は発した。

「神様入店してとか、クレーム入れてとか、頼まれたんじゃないんですか?」

「そんなこと、頼まれてません」

 真剣な口調で、本村は言った。

「私が三柴先輩のこと犯人扱いしてたとか、別に告げ口してもいいですよ。私、ここクビになっても、一人でやってく自信あるんで」

「そんなつもりないです。ほんとに。僕ら、志保さんたちのスパイじゃないんで。メイリスに誓ってほんとです」

 本村はメイリスを軽く抱き上げた。ほんの一瞬のインスピレーションのために、完璧に身仕舞いされた人形。不変を譲らない瞳が、偽りなど不要と宣う。

 愛理はそれを見なかった。

 手早く、丁寧に、黙々と筆を動かしている。少し間を置いたあとで、愛理は口を開いた。

「私、嫌いなんですよね。あの二人」

「志保さんと、越水さんですか?」本村は言った。

「昔、二人に呼び出されたことがあるんですよ。先輩の彼女が亡くなる、少し前のことなんですけど。『広睦にべたべたしないで!』『泊先輩の気持ち考えな!』って。あ、泊先輩っていうのは、三柴先輩の彼女のことなんですけど。米山先輩、もう、鬼みたいな顔で。普段はクールぶってますけど、裏ではすごく感情的なんですよ。越水先輩も、私のこと守るふりして、なんだかんだ米山先輩の尻に敷かれちゃって。『志保はこういうやつだから』『多部ちゃん、彼氏が欲しいなら、俺が他のやつ紹介しようか?』って。最低って思いました。いつもリーダー気取ってるくせに、所詮この程度のやつなんだって。三柴先輩の親代わりのつもりなんだか知りませんけど、二人して、いつも先輩のこと干渉して————。でも、みんな表の顔しか知らないから、どうせこの二人が生徒会長と副会長になるんだろうって思ってたら、ほんとにそうなりました。超萎えました。もう十年以上前のことですけど、いまだにあれが二人の本性なんだって思ってるんです、私」

 言葉の節々にチリチリと憤りを焚きつけながら、自らそれを吹き消すように、冷静に愛理は語った。

「愛理さんは、今も三柴さんのことが好きなんですか?」本村はたずねた。

「私ですか? いえ————」愛理は少し驚いた顔をした。「好きですけど、どうこうなりたいとかは……」

「でもあの人形、飾ってありますし」本村は人形のひろむを指した。

「志保さんも、愛理さんがまだ三柴さんのこと追っかけてるみたいな言い方してましたよ」倉沢は言った。

「え? 米山先輩、まだそんな風に思ってるんですか? うざーい。ネチネチし過ぎ」

 愛理は呆れた笑みを作った。「そりゃ、三柴先輩は優しいし、かまってくれるから、甘えたりもしますけど。でも、今はもうそんな気ないです。私、脈のない人に執着して振り回されるの、時間の無駄だと思ってるんで。三柴先輩は、お兄さんみたいな存在です」

「でも、三柴さんのこと殺人犯だって疑ってもいるんですよね?」

 倉沢は言った。「それでよく一緒にいられますね」

「疑ってるからこそですよ」

 愛理は断言した。

「私は、米山先輩と越水先輩みたいに、三柴先輩の罪を隠そうとか思ってません。怪しいから見捨てようとかも思ってません。ずっと考え続けてるんですよ。どうするのが、先輩にとっても、私にとっても、一番いい形なのか————」

 言って、愛理は接客向きの、とびきりの笑顔を見せた。

「三柴先輩の選ぶ人って、すごいんですよ」

「ああ、ミスキャンパスとか、どこだかのお嬢様だって————」本村は思い返していた。

「それだけじゃなくて————。なんていうか、先輩が選ぶ人って、非現実的なんですよ。外見や肩書きだけじゃなくて、ほんとに才能もあって、敵を作らない、誰からも愛される人。それでいて、ミステリアスで、どこか悲愴感もあったりして————」

 愛理は、メイリスの方へ目を向けた。「お客様は、その子のことが好きなんですよね?」

「好きですね」迷いなく、本村は答えた。

「分かります。私も、二次元のキャラクター、好きなんで。でも、もしも現実に、その子が完璧なリアルになったような、自分の理想通りの人が現れたとして————きっと生身の人間になってしまったら、自分の理想とはズレた発言をするし、予期してない行動も取ると思うんです。自分の想像の、範囲外のこと————。その時、お客様は————」

 倉沢は硬化装置から片手を取り出した。

 人目をひく艶やかな青は、理想通りの、物静かで奥ゆかしい青へと変わっている。

 愛理は言った。

「その子のこと、どこまで愛してあげられるんですか?」

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