第3話 少し変わったいつもと変わらない寝床


 あのじじいが出て行ってからどれくらいたっただろう、まぁいつもの様にふらりと帰って来るだろう、二足歩行の生き物はいつもそうだ。


 確か前の寝床もそうだったな、あそこの人間達は色々と良かった、昼間は寝床から出て行って飯を取りに行き夜には帰ってきて飯を分けてくれる、私自身が狩りに出なくても人間が代わりにやってくれる、寝床も人間が用意してくれるのだから私もこうなる。


 代わりに撫でられたり抱き上げられて抱きしめられてもこれさえ許してしまえば毛繕いさえもやってくれる、私がする事は日がな一日ゴロゴロするだけだ。


 日の当たる場所でゴロゴロしているとあのじじいが帰ってきた、手に持っているのは食べ物だろう、匂いで解るぞ。


[猫ちゃんおやつじゃぞぉ]


 おぉくれるのか、小魚を干したものだなありがたく頂こう、しかしそんな腑抜けた顔で私を凝視しないで欲しいものだ… まぁ仕方ないか。


[はぁええのぉ~]


 このじじい翼をバサバサと動かし始めたぞ、まぁそんな事より今はこの小魚だ、こういう味も好きなのだ私は。


[かわええのぉ~]



―――――――



 あの後じじいにこねくり回された、もう外へは連れて行かれないだろう、なら少し歩き回ってみるかな。


[猫ちゃんやぁ何処へいくんじゃぁ?]


 捕まった、膝の上に乗せられた、腹を撫でられた、こういうのも悪くないか。


[はぁ… はぁ…]


 気持ち悪い顔だな、まぁ私はここでゆっくりしておこう、いつかは動けるようになるしな、そんな事を考えていたらコンコンと音が鳴る。


[失礼しますドーバギルド長、書類をお持ちしました]


[おぉ、そこに置いといてくれ今猫ちゃんを愛でるので忙しいんじゃ]


[あら、なつく猫とは珍しい、何か魔道具でも使ったのですか?]


[わしはそんなヒドイ事はせん!]


[そうでございますか]


 何か人間の女と話している、眼鏡という物を顔に付けているからきっと目が悪いのだろう、しかし真っ黒な物じゃないな、年寄りがつけてる透明な奴だ。


[そうじゃアナベル、ミーナ君は何時帰ってくるかのぉ?]


[先ほども申した通り薬草採取の依頼ですので夕方には戻るかと]


[待ち遠しいのぉ]


 この女よく見たら尻尾が生えてる、匂いは… 駄目だキツイ臭いで解らない、よく人間の女からする花の匂いを凝縮したような臭いだ。


[では書類はここに、後でよろしいので副ギルド長の所に行って祭りの計画を進めてくださいね」


[はぁ、あの地獄耳の所には行きたくないのじゃが]


[ロップ副ギルド長の事を地獄耳とは言わないでくださいよ]


[猫ちゃんもコワイおなごは嫌いでちゅよね~]


 どうしたじじい、顔を近づけるな。


[ではよろしくお願いしますねギルド長、失礼します]


 出てった、このじじいも連れて行って欲しかったが仕方ない、あ~人の言葉が話せたら… せめて何を言ってるのか解ればどう動けばいいのかわかるのにな。



―――――――



[それにしても毎日毎日書類にハンコを押すだけの生活は退屈じゃのぉ]


 ふぁあ、やる事も無いし寝るかなぁ…


[ん? 魔王復活に関する報告? もうそんな時期か… 時の流れは残酷じゃ、わしももうしわくちゃのじいさんになってしもうた]


 どうしたじじい悲しそうな声をだして、食いものでも食いそびれたか?


[久しぶりにダンジョンでも探索しに行きたいのぉ]


 悲しそうにしている時はとりあえず体にスリスリと擦り付けとけば機嫌が治るだろう、生まれてから4年、これで治らなかった人間は居ない… このじじい鳥なのか? 人間なのか?


[おぉ猫ちゃん、慰めてくれるのかの? モフモフが気持ちいいわい]


 おっ、機嫌が治った様だ、なら羽が生えた人間でいいのか、世界は広いと思っていたがこんなへんてこな奴もいるんだな。


[あぁ~この幸せが続けばいいんじゃがのぉ~]



―――――――



 はっ! いかんまた寝てた… やる事が無い時は寝るって癖治さなきゃなぁ。


 しかしじじいは何処だ? 寝る前までは居たんだが…


[ほぉ! あの猫ちゃんはトラというのか]


[はいギルド長、で何処にいます?]


 声が聞こえる、てか今何処に居るんだ私は。


[わしの椅子の上で寝とるはずじゃが… ほらおった]


「やぁトラ君、なかなかいい場所で寝てるじゃないか」


 聞いたことある声だなと思ったらボスか、とりあえず返事するか。


「どうもミーナさん、いい場所ですか、まぁ寝心地は良かったですよ?」


「ははははっそりゃそうだよ、なんせそこはこの街で一番偉い人の場所なんだから」


 ボスが何を言ってるのかよくわからないがこの場所は良い場所なのか。


[っでミーナ君、トラちゃんはなんて言ってるかの]


[あぁそうでしたね、聞いてみます]


「トラ君、このドーバさんが君の事気に入ってね、もしよかったら飼われてみない?」


「それはここに住んでも良いって事です?」


「ん~… まぁそういう事かな? どう?」


「ここの寝床はいい所です、なので元からここにやっかいになるつもりでした」


 そう言うとボスがまたじじいと話してる、お? なんだじじい、抱き着きたいのか? あぁ私の毛に顔を埋めたかったのか。


「にしても君って変わってるね」


「変わってるとは? 私はこんな生活が普通だと思ってるんですが」


「いやいや冗談はよしてくれよ、普通猫っていったらここまで無警戒じゃないし私達人間種にはなつかないよ」


「いやぁそう言われると返す言葉がございません」


「まっ私には関係ない事だからいいけど、行儀よくするんだよ、何かあったら私が怒られるんだから」


「わかりましたボス、ご迷惑はかけません」


 私がそういうとボスは満足そうに頷いた、そしてじじい顔を埋めるのをそろそろやめて欲しいのだが。


[いやぁ元からここに住むつもりとは本当に珍しい猫ちゃんじゃのぉ]


[そうですね、まぁトラ君は元々違うところに居たらしいので前の村か街ではこれが当たり前だったとかじゃないですか?]


[そうだったら今頃その場所は研究対象になっとるわい]


 ボスとじじいがまた話してる、まぁいいや私はこの場所に居てもいいってボスが言ってるしゆっくりさしてもらおう。


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