青いボールペン

 青いボールペンを見つけた。


 教室の掃除中、気だるい気持ちで雑巾掛けをしている時に見つけた。


 女子から口うるさく言われ、仕方なくバケツに水を汲み、カチカチの雑巾を水で濡らして一往復した時に見つけた。


 教室の隅っこ、それも陰になっているからしゃがまないと見えなかったのだろう。


 鮮やかで深みのある青さに僕は目を奪われた。


 すかさずポケットに入れ何事もなかったかのように雑巾掛けを続けるが、出っ張ったボールペンがポケットの中で主張して上手くしゃがめなかった。


 帰りの会。


 連絡事項を読み上げる先生には目もくれず、僕はポケットからこっそり出した青いボールペンを色んな角度から見つめていた。


 照明の当たり具合でキラキラが変わったり、ノックじゃなくて回すと芯が出てきたり、とても魅力的なそれはすぐに僕を虜にした。


 しかし、帰りの会で持ち主が青いボールペンがなくなったと言う。


 僕は反射的に青いボールペンを筆箱の中にしまい、その子を見る。


「もし見つけてくれた人は教えて下さい」


 その一言が頭の中でぐるぐると回り、ついに帰りの会は終わってしまった。


 友だちから帰ろうぜと声をかけられたが、用事があるから先に帰っててと嘘を付き、その子を横目に見ている。


 その子が帰り始めるとこっそり後を付ける。


 いつも通らない不馴れな道を見つからないように後ろからうしろから。


 ランドセルを背負ったその子の姿がとても名状しがたい何かに見えて、例えば叱られている時に自分が小さく見える現象に似ていたり。


 遠く見える同級生を見つめながら、ポケットにしまいこんだ青いボールペンを握りしめた。

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