空と建物の境界線に見えるモノ

 山と田んぼしかなかった。


 本当を言うと、山と田んぼと畑と小川と牛、寡黙な父と生真面目な母とお転婆な妹がいた。


 そんな生活が嫌だったことはない。


 SNSが蔓延る時代、画面を眺め東京でこういうイベントがあるだとか美味しい食べ物があるだとか見てもそう心に響くことはなかった。


 こちとら芸能人のイベント?なんかないしお洒落なカフェなんかないけど、町内会で集まって老若男女のカラオケ大会をやったりお母さんが作ってくれるお菓子を緑囲む自然の中で優雅に食べることができた。


 私にはそれで十分だった。


 ただ一つ誤算というかよく考えてなかったというか、よく考えればそうなんだけど、私の獣医になるという夢を考えれば一度村を出て大学に行かなきゃいけないことくらい簡単にわかることだった。


 初めて荷物をまとめて皆に見送られながら村を出たあの日はそれはそれはわんわんとないた。


 あれから4年経ち、私は無事卒業を迎えた。


 が、4年という時を都会で過ごした私にとって将来のあれこれを思い描くと地元ではなく都会で働く自分しか想像できなかった。


 結果、就職先は大学のある東京。


 地元で十分だと考えていた4年前の自分といまの自分ではもう違う生き物になってしまったのだろう。


 ビルに囲まれた青空を見ながら、山しかなかった地元に思いを馳せる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る