3 しんそうへん

■マップ village02_02


私が部屋に入ると、さっき私が見たときと全く同じ場所に、彼はいた。


むらびとC『なんだ また おまえか』

むらびとA『そうです また わたしです』


私は村人Cの明らかな嫌味にも屈せず、部屋の中に入っていく。


むらびとC『もう おまえに はなすことはない』

むらびとA『ざんねんですが わたしには あります』

むらびとC『おれには ないんだよ かえれよ』

むらびとA『あやしいですね

      なにか やましいことでも あるんじゃ ないですか?』

むらびとC『なんだと?』


あえて挑発を入れてみる。

効果は覿面だった。

彼は見事に挑発に乗ってきた。


むらびとC『おれが なにを したっていうんだ?』

むらびとA『それは あなたが いちばん わかっているのでは

      ないですか?』

むらびとC『なんだと? なにが言いたいんだ?』


何が言いたいのかと問われたので、私は正直に答える。


むらびとA『あなたが やどやを ころしたんじゃないかと

      いいたんですよ』

むらびとC『あ? なんだって?』

むらびとA『なんどでも いいましょうか

      あなたが やどやを ころしたんですよね?』

むらびとC『そんなわけ ねーだろ ころすぞ?』

むらびとA『それは きょうはくですか?

      いちど さつじんを おかしているひとが いうと

      わらえないですね』

むらびとC『そこまで いうんだったら どうやって おれが ころしたのか

      そのほうほうを おしえて くれよ』


挑発合戦は私の勝ちのようだ。

村人Cは私を威圧することをやめ、説明を求めてきた。

こうなったらこっちのもんだ。


むらびとA『いいですよ せつめい しましょう』

むらびとC『そもそも おれは じけんのことなんか

      なにひとつ しらないけどな』

むらびとA『そのまえに ひとつ ききたいんですが』

むらびとC『なんだ?』


私は、この謎を説明するための最も大事なファクターを口にした。


むらびとA『あなた むらびとB ですよね?』

むらびとC『は? なに いってるんだ?』

むらびとA『だって グラフィックが おなじ じゃないですか』

むらびとC『そ そんなの ぐうぜんだろ!』


そう、ドット絵で表された村人Bと村人Cの見た目の姿は、全く同じなのだ。

私は最初、容量を削減するため、外見だけ使い回しているのかと思っていた。

だが、彼らとの会話を思い出して、ひとつ気付いたことがあったのだ。


むらびとC『それとも おれが むらびとBである

      しょうこ でも あんのか?』

むらびとA『あなた おぼえて いますか? わたしが あなたに どんな

      チートモードが つかえるのか たずねたときに

      なんて こたえたか』

むらびとC『さぁ おぼえて ねーな』

むらびとA『なら おしえてあげますよ。

      あなたは こう こたえたんですよ。

      みんなと いっしょだよ はやあるきがつかえる と』

むらびとC『それが なんだって いうんだよ』

むらびとA『どこで みんなが つかえる チートモードを

      しったんですか?』

むらびとC『え…』


村人Cが明らかに言葉に詰まる。


むらびとC『まえに きいたことが あったんだよ…』

むらびとA『おかしい ですね チートモードについて むらびとたちが

      はなしを したのは きょうが はじめての はずですが』

むらびとC『む むらびとBに きいたんだよ』

むらびとA『くるしいですね

      わたしからきくまで じけんのことも しらなかった

      ていだったのに どんな ぶんみゃくで チートモードの

      はなしだけ きくんでしょうか。

      ただ じょしを ひとつ かえれば そのしょうげんも

      しんじつになる。

      そう むらびとBに ではなく

      むらびとBが きいたんですよね』

むらびとC『く… だが だが おれが むらびとBだとして

      だから どうなるんだって いうんだ』


もう完全に典型的な「追い詰められている言い逃れだけを考える犯人」だ。

だが、私は一切の同情はしない。

一気に畳み掛ける。


むらびとA『あなたが むらびとBと どういつじんぶつ だったとしたら

      あきらかに ひとつ かくしていることが ありますよね?』

むらびとC『なにも ねーよ!』

むらびとA『わたしたちの てつのおきて。

      ゆうしゃが ちかくにきたら ていいちにつく。

      さて ゆうしゃが むらびとBの へやにはいり

      そこに むらびとBがいる。

      そして そのあと つづけて むらびとCの へやに

      ゆうしゃが ちょくせつ むかったとします。

      すると むらびとBは ゆうしゃを おいこすことが

      できないから むらびとCの へやは むじんに なって

      しまいますね。

      これは こまりますね。

      ユーザーに バグだと おもわれかねない』

むらびとC『…』

むらびとA『あなた まだ チートモードを かくしてますね』

むらびとC『…』

むらびとA『むらびとBのへやと ここ むらびとCのへやは

      マップIDが おなじですよね?』

むらびとC『…』

むらびとA『おなじマップに そんざいする ばしょには じゆうに

      いききができる そう たとえば かべぬけ のような

      チートモードが つかえるのでは ないでしょうか』

むらびとC『…』

むらびとA『そんな チートモードが つかえるんだったら こんかいの

      はんこうは かんたんですよね。

      だって そとに でるまでもなく おなじマップにある

      やどやに しんにゅう できるのですから!

      そうなれば わたしのめなんか きにするひつようもない。

      ただ よるのあいだに かべをぬけてしのびこみ

      はんこうにおよぶだけでいい』

むらびとC『…ち』

むらびとA『その したうちは はいぼくの そして こうていの

      したうちと にんしきして よいでしょうか』

むらびとC『あぁ そうだよ おれが おれが ころしたんだよ!』


ついに村人Cは自分の罪を認めた。


むらびとC『あいつが わるいんだよ!

      このむらを はってんさせたいと いってたくせに

      がいぶの まちやむらに しりあいが たくさんいる

      おれにたいして おまえは このむらの しょうがいだ

      なんて ぬかしやがって!』

むらびとA『やどやが ほんとうに そう いっていたんですか?』

むらびとC『あぁ そうだよ

      めんとむかって おまえは このむらの しょうがいだってな』


私はその話が最初信用できなかった。

宿屋の夢は道具屋からも聞いている。

そんな宿屋からしたら、村人C(村人B)は夢を叶えるための同士だ。

それなのに、そんな村人C(村人B)に対してそんな暴言を吐くだろうか。


だけど、少し考えればその誤解も解けた。

そしてこれが本当だとしたら、何と報われない話なのだろう。

きっと宿屋は村人C(村人B)に対して暴言を吐いたつもりは

なかったのだろう。


そう、彼はきっとこう言っていたのだ。

「お前はこの村の渉外だ」と。

それを、村人C(村人B)が「障害」だと勘違いした。

このゲームのテキストが仮名表記だけであることが生んだ悲劇。

それが、今回の事件の真相だったのだ。


タッタッタッタ、と。

マップ移動の音が聞こえた。

振り返ると、そこには道具屋が立っていた。

その手に、新品の銅の剣を携えて……。


どうぐや『あなただったのね』

むらびとC『ちょ ちょっと まて ごかいだ』

どうぐや『なにが ごかいよ! ころしてあげるわ!』


突然のことすぎて私の体は硬直していた。

体どころか思考も固まってしまっていた。

私が冷静に物事を見れるようになっていたときには、もう時既に遅かった。

道具屋が持っていた銅の剣は、村人Cの胸を貫いていた。


むらびとC『あ あぐ ぐああああああああ』

どうぐや『い いやあああああああああ』


村人Cの断末魔と、冷静を取り戻した道具屋の悲鳴が響き渡る。

そして、道具屋は逃げ出すように屋外へと走って行った。

私はしばらく茫然としていた。

ようやく体が動かせるようになった私は、道具屋を追って外へ走り出した。


■マップ village02_01


外に出たが、道具屋の姿は見えなかった。

しかし、行き先は決まっている。

道具屋の店だ。

私は一目散に道具屋を目指す。


■マップ village02_02


遅かった。

それが、この惨状を見た私の率直な感想だった。


道具屋は、自らの手で銅の剣を胸に突き刺し死んでいた。

罪の重さに耐えられなくなったのか。


■マップ village02_01


私は再び外に出る。

確認しなければならないことがあった。

それは、村人Bの存在だ。


村人Cが死んでしまった今、村人Bは存在ごと

なくなってしまったことになる。

村人Bの家は、もぬけの殻になってしまっているのだろうか。

私は、村人Bの部屋に走った。


■マップ village02_02


辻褄を合わせるように

村人Bの部屋には骸骨のような死体のオブジェクトが置かれていた。

もちろん返事はない。

ただの屍のようだ。


そして、こんなときに限って、本当にこんなときに限って、

勇者が近くにやってきたという情報が頭の中に送り込まれた。


村がこんな惨劇になっているのに、勇者はやってくる。

私は頭の整理が出来ないまま、急いで定位置まで走る。


■マップ village02_01


勇者はもうすぐそこまで来ていた。

私は早歩きを駆使しつつ、定位置まで戻り、息を整える。

とりあえず、これで大丈夫。


私はランダムにうろうろと歩き始める。

勇者が目の前までやってくる。そして、私に話しかけた。


私は、答える。


むらびとA『ここは したいの あふれる むらです』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

NPC殺人事件 霧山夏樹 @kiriyama_natsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ