第7話 雷鳴
20XX年
5月●日、正午過ぎ。
『遅れてごめんなさい、』と手を振りながら待ち合わせ場所である湊の家に着く桜咲良。外で待機をしているように連絡が入っていたのを忠実に守っていた湊は暖かく向かい入れる。
彼のイメージはファンを含め自分が知っているような気が大きいような性格ではなく、どちらかというと控えめで風の影響を受けながらも芯がしっかりしている木の葉のような鮮やか個性が漂よった。不慮な地下鉄の事故以来会うことがなかったものの、どこか懐かしく感じるような親しみやすさで二人の距離が近くなった気がした。それは咲が居ないから起きた現象かもしれないが・・ただ湊はいうと咲とは違った個性に眼を真ん丸とさせて子供のように佇まいで胸に沁み込ませた。
しかし今日は咲も含めた約束事なのに一向に姿を現す気配が感じられない。ふたりは顔を見合わせては雑談をし、互いに携帯や時計を眺めながら外で待機した。天気の雲行きが怪しくなった頃合いには桜久良も限界が来て、電話を発信した。電話の際に髪で隠されていたイヤリングが太陽でキラリと光ったとき、湊は桜久良に強いにらみを利かせた。それと同時に咲に発信していた電話がプツリと途切れた。
・・「じゃあ俺が。」と雫のイメージデザインされたストラップを付けた携帯を取り出しら湊が電話する。しかし電波が届かない、または電源が入っていないと跳ね返されて完全なる連絡手段が途切れた。電話する前にしていた既読スルーのメッセージが悪かったというのだろうか。流れが読めない二人は気持ちが整理できないままに、彼女の住居へと向かった。
よく考えればあれから咲とは仲直りをしていなかった。
思い返せば湊も取り乱さないようにしつつも苛立ちが湧いてしまい、距離を置いた状態であった。
友人と恋人のために向かう二人にも、それを今一度深く思い知らされている・・・。
______
<咲の住居>
辿り着いたころには、静かな雨がアスファルトと戯れていた。
急ぎ足でズボンの裾を濡らしていく二人に未来も過去もない。ただただ一緒に生きてきた同士が心配で、不思議とカギが閉まっていなかったドアを開けて核心部へと向かっていく。戸を開ける前に聴こえていたお笑い番組の声を安否保障として乗り込んだ。締め切られたカーテン、繰り返される家族ネタを披露するお笑いグランプリの二人、ある影の下ある咲の携帯・・湊とお揃いのストラップ付で。そして眼を逸らさなくても一目散に飛び込んだ咲の亡き骸。推定をしなくても手遅れだと二人の目に焼き付いた。
海のさざ波にさらわれるように、桜咲良の城は崩れ落ちた。膝をついて両手を強く握りしめ儚さを吐き出した。
人間はこの吐き出す心理影響を『
冷たい雫、床に叩きつけられた涙、雷が落ちたような悲痛な感情や叫び、苦しみ…まるで雷だということからその名が付いた。悲鳴と違ったこの心境は、時には自分を巻き込んでしまうことでも名が高い。
湊はそっと桜久良を抱きかかえて助手席へ乗せて、濡れる雨の中、車体の前で警察へと連絡をするのであった―—―
―—――—
そんな事はよそに、
・・・後部座席が見えるミラーには、うっすら頬笑む女性が映る。
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