第4話 悲鳴
『助けて』
そんな声が、色んな人から沸き上がった。本人の呟きよりも、周囲の言葉で大事な言葉をさらっていった。
腕の傷で留められなかった一人の彼女は、どこからか用意した紐で首を括り、視聴者がいる前で自殺をした。
意識が彼女から手放された携帯に、熱心に応援していた配信者の湊が映る。
内容と釣り合わない笑顔でこちらを見詰めている……
 ̄ ̄ ̄
悲鳴と共に目を覚ます咲。
誰かから送られてきたのかわからないあの写真の詳細を観たようで冷や汗が止まらない。湊の視聴者にも他人にも恋人と名乗り出ていない私がなぜこんなものを突然送られてくるのか解らない咲であった。過去を少し知っていた咲であっても、写真はかなり身体的影響を及ぼしている。
湊のベットで悲鳴をあげて起きたつもりだったが彼は静かに寝ている。
床に置き棄てた服をかき集めては自分だけ服を着て、カーテンを廻り空をみた。
「彼に起きている出来事は、きっとまぐれよね……」
と、桜久良に打ち明けようとしていた事を胸にしまいこんだ。
咲は湊を愛していることにより、守っていけると信じた。一緒に居ることでライブ配信をしないようにしたり、彼の身に起きてること不可解なことを解決しようとしたり。なにより非科学的なものは、ファンの妄想であり、恋人を作らせないためであり、神格化させるためである。
湊が咲にかけた言葉を守っていくため、咲は決心してやって来た。
泣いていても仕方がない、そう思い湊の家を訪ねたのである。たとえ真夜中ね決心を付けてやって来ても……
この世にはこの世で語るべきだと。
捻りが足りなかったのか…、蛇口の水がポタッと滴り落ちた。
 ̄ ̄ ̄
2週間後
夕方
「うっそー!えぇ、いいなぁ。私もいきたい。」
「ねえ~、いいっしょ。今度行こう?」
「良いねぇ。」
「でも、湊君に悪くない?だって仕事なんでしょ?」
「んー、でも湊も湊で新人会だって言ってたし……」
「えっ、仕事じゃなかったの?てっきり仕事だと思ってたから、私、いつでもいいから予定合わせていこうと思ってたんだけど。
だったら、ご飯に行けそうじゃない?」
「あちゃー、そうだったよね。
そうなのさ、湊さ、仕事じゃなくて新人会なんだって。最初は反対してたんだけど、新人歓迎しないのも先輩としては立場が悪いじゃない?
ほら、私達の時も居たじゃない?だからね、我慢するよ。」
「咲はぞっこんだね~。
じゃあ、行こう!時間とかはさ、また連絡し合おう!」
桜久良は咲の嬉しそうな声を聴き、安堵した。
彼氏の報告以来少しご無沙汰だった桜久良は、ネットで人気のお店を探し咲わ元気付けようと考えてた。電話をしてみると案外元気だった姿に肩の荷が降りて、ご飯の日を楽しみにするのであった。
またその日以来配信が停まってる湊の事も気になってはいたが、彼女として咲を迎え入れたのだろうと一安心している桜久良でもあった。
 ̄ ̄ ̄
桜久良と咲のご飯 当日
21時過ぎ
桜久良は待ち合わせをしていた繁華街で腕時計をしながら、行ったり来たりを繰り返した。
20時の待ち合わせをしていた二人だが一時間待っても咲は姿を現さないでいた。とうとう待ちくたびれそうになった桜久良は携帯を取り出して、咲へと繋げた。
電話をする必要もなかった。咲はすぐに電話に出てくれて、息を切らしながら「目の前にいるよ」と伝えて桜久良の肩を背後から叩いた。咲が目の前に居ると伝えたからてっきり自分の目の前のどこかにいると思ってたが、背後からやって来て驚いた。驚くならそれだけで良かったものの、彼女は今まであった髪の毛をバッサリと切り、左目には眼帯をしてやって来た。一瞬恐怖を感じてしまった桜久良は生唾をのんで、少し間をあけて「遅かったじゃん!」と気持ちを切り替えた。咲の明るさが無いように思えたからだ。
お店に入ってすぐ、咲は周囲を気になり出した。落ち着きが無いことが目に見えていたため、桜久良は素直に咲の左目の話や髪の毛についてと遅れてた理由について訊ねた。注文した料理が時間が掛かるものか、大事な話で区切られることも事も嫌でなかなか話を切り出せずに咲である。
用意された水だけが減っていく咲の姿を観て桜久良は申し訳なく思い、話題を変えようと考えた。
『嬉しいっ、そうなの、髪の毛を切ったの。』
お店のカップルがこちらの事情も知らずに、咲にも聴こえる大きさで一声をあげた。
堪忍袋にさわったと思った桜久良は被せるようにして、『ご飯が目の前に出てくることを幸せだね』と伝えようとした。が、それに構わなかったのか咲はにっこり微笑んで「そう、髪の毛を切ったんだ」と告白した。
咲はいつもと変わらない様子を面影として見せつつ、今日の話をちらっと喋りだした。
要するに咲は出掛ける数時間前に美容室に居たことがわかった。だがそれはお洒落のためではなく、今日の朝方に起きた洗濯機が咲の髪の毛らしきもので排水溝が詰まり水溜まりを起こしていたのが理由であった。この咲らしきというものは、実は髪の毛を切る前の咲の長さよりも黒くてさらに長い髪の毛が詰まっていて洗濯機から水が溢れ出たのである。
湊は咲のものだろうと責め立てており、咲は反論をせずにそのまま美容室に行ったのである。洗濯機でのそんな事態は珍しいと美容師の人も慰めてくれたりはしたが、彼女の意向に沿ってボーイッシュの髪型に咲はした。
それだけで怒るのはおかしいと桜久良 は湊に怒るのだが実はそれだけではなく、咲は湊の回りで水のトラブルが頻繁に起きてることで責め立てられてると発言した。キッチン回りの蛇口や洗面台の詰まり、シャワーの捻り忘れ…咲が気付き直すならまだしもその時に限って湊が見つけ一人で怒っているのだという。たとえ咲がいじっていなくても………
左目はそんな咲に腹をたてて湊が暴力を振った…のではなく、そんなストレスで咲は注意に目がいかず突っかり転んでしまい左目を少し負傷をしてしまったのであった。
暴力を振るわれていないとだけでも安心した桜久良だったが、同姓生活の話も聴いてはいたが不可解な出来事があることから一度離れることを提案した。
逆にそれに対して不安がる咲だったが、食事で落ち着いたのか冷静に考えて小さく頷ずいた。
 ̄ ̄ ̄
食事を済ませた二人は、お互いに別れる駅方面まで歩いていた。どこの会社も歓迎会なのか、街に盛り上げをみせて人で溢れる。
世界競技に向けてなのか観光へ来ている海外の人たちもいて、駅ホームはさらに増して混雑をしていた。海外の人達の中でも携帯で地図をみながら、俯きながら進む。もちろんその中にも歩き携帯をしている人が居て、桜久良と咲は目を合わせながら「危険だよね」と言葉を交わした。
そう、確かにそれは危険だった……
駅のホームで電車が来るメロディーが流れ始める。
桜久良と咲は食べた料理を思い出しなが楽しんだ余韻を語る。
そんな事をよそに一人の女性が携帯を見詰めながら、ホームへと前進していく。
「〇〇駅行き、まもなく到着致します。白線より下がってお待ちください」
咲は桜久良に理想の彼の姿を描きながら、生活について満足していると打ち明ける。桜久良もまた不安だった部分は気のせいだったと思い、咲の話をお腹を抱えながら受け止めていた。
「……おい、誰か飛び込んだぞ!!!」
それは一瞬だった。
鈍い音と共に、その場にいた人達の悲鳴が上がった。血のでないような勢いだったのだろうか、歩き携帯をしていた女性がホーム落ちるのと同時に車体にぶつかり駅構内に飛ばされた。
悲鳴と共に事故に気づいた二人は目を疑った。目を丸くするならまだしも、目のやり場に困った咲は思わず下に瞳をずらし声をあげた。
桜久良もまた目を強く閉じ、耳を両手で固く閉じてしゃがみこんだ……なにか脚にあたった?そんな違和感に自然と瞳をあけ、思わず顔を歪ませた。
そこにはホームに落ちてしまった彼女が手に持っていただろう携帯だった。そしてその画面には咲の彼氏、湊が笑うライブ配信中であった…
「どうして……?」
そう咲は呟いたあと、失神を起こして倒れこんだ。
 ̄ ̄ ̄
『やっぱり声が聴こえるって!』
『また、アンチか。どっかに消えろ!』
『え、アタシ聴こえてたけど、、』
『ナニナニ?』
『ねえ、多分だけど……
湊のファンらしき人が、
今、死んだんだけど………』
……桜久良は必死に咲をゆする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます