第2話 嚶鳴
 ̄ ̄ ̄
赤丸い形のなかにアンテナがデザインされた動画配信、またはライブ配信ツールアプリ。携帯から簡単にアクセスしたり、応援が出来るという点で世間に浸透していったアプリである。今では他の開発者も力を入れて同じようなアプリを作り運営をしているが、最初に馴染んだ人はこのシンプルさが良いと胸を掴んでいる。ここの運営が提供するアプリは、配信者へ送るファンサービスの仕方が独特でありファンは直感的に配信者へ愛を返せるのである。しかし、それだけ愛を注げることがらから少しでも良くないと思ったファンは素直に自分の言葉を投げてしまうこともあり、ファンは愚か配信者をも傷つけてしまう事もある。
 ̄ ̄ ̄
桜久良は昔、このアプリを利用をしていた。
あるきっかけで利用は遠ざかっていたが、咲の恋人である
咲が話していた『イケメン』とは、ここでは少し違う。ここでいうイケメンは、『人生を必死に生きようとしている男』の意味である。
『カッコいい』という言葉も違って、『その人として決まっている』と言うことを差す。ということで、新しく入ってきた人はヤジを飛ばしていくのだが、アプリが発表されてないときに手にした湊は『図太く生きたい』ということから、カテゴリーにイケメンと他の人にならって看板にした。それが次第に視聴者に共感を呼び、いつの間にか嫌でも首位を確立していたのである。
まだ人気を得ていなかった湊を知っていた桜久良は独り考えていた。人気を出始めた後の彼の姿を知らないが、過去が複雑そうな雰囲気があったこと。そして何より咲の顔が一段と悪かったこと。恋人になれたと言うのであれば、不安は確かに大きくなってもいいがそれよりも嬉しそうな顔をしていてほしい。
それは親友として桜久良からのささやかな恩返しでもあった。
 ̄ ̄ ̄
震える手が先へ進めない。
秒針を刻む掛け時計だけが、タクタクと鼓動を刻む。なにも怖がる必要がないのに開けてはいけないパンドラの箱を開けるようで、身体が動かない。
やっと動けたのは通知音の音が何だったのか忘れた頃、桜久良は手元を明るくせずに携帯を覗く。
母親によくゲームをしていて注意を受けていたのを思い出す。どうしても眠れなくなった時にゲームを取り出して、布団のなかで遊んでいた。その頃にはいつも母親は洗濯物を干しに部屋に近づくために、桜久良が独り盛り上がっているところで不意に注意された。注意といっても怖いというものではなく、『かわいい子だね~』と布団を取られ「将来は、誰にでも睨み付ける女の子かい?」と指摘を受けていた。きっと母親も同じだったのだろう…眼鏡をしている理由は、と桜久良は巡らせて懐かしんだ。
湊の方はというと、あれから大人びた男性になっていた。黒い服のイメージが多かったのだが、今では清楚な色使いで芸能人みたいだ。
桜久良における男性のイメージは、食事の偏りで栄養不足で細いだけの男性だったり、流行に巻かれて個性が見えない男性だったりとそんな人ばかりだった。湊はそこまではいかなくてもご飯が均等に食べていそうで、自分を自分で貫き始めたのを強く感じられた。
今までの不安が嘘だったように彼の姿をあちこち確認する。なにより驚いたのはファンからの金銭的応援や湊が動く度に映る彼へのプレゼントだ。さすがにここまで人気があればアンチも出てきても不思議はなく、所々嘘の書き込みがある。例えば…
『また、物音がするよ?』
『え、私には聴こえない』
『キコエタ』
『またアナタなの?ホント、他の主のガチ勢ウザい』
ファンが交差する。
「みんな辞めて、なにもこっちは音はしていないよ」
湊が落ち着いて丸め込む。しかし桜久良が読んでいく程に今回ばかりじゃないらしく、心配する声も上がる。
よく考えれば、この湊が咲と同居していた場合、音が出る可能性を考えた。なにせ咲からは状況までは聴いていないからだ。それにしても音はしたのだろうか。それよりも彼女報告をする人なんだろうか。
咲の昼間は彼のせいだったりするのだろうか…
桜久良は衝動に刈られ、バックから取り出したイヤフォンで配信に没頭する。
桜久良が没頭するあまりに音量はいつの間にか大きくなっていた。だからバンと扉のようなものを強く叩く音がしたとき、桜久良は少し飛びはね、心を鷲掴みした。
コメント欄の流れも今回ばかりは止まり、湊も慌てて音のする方を見る。
咲なんだろうか?
でもそれとは別に微かな笑い声が聴こえた。
さすがに怖くなり、携帯を手放そうとしたときには桜久良であったが湊はライブ配信を終了して画面が閉じられていた。残されたコメント欄をみると、そこには確かに他の人も聴いたとされる証言が書かれていた。
時計は2の数字をたむろしていた。
咲がもし同居しているならば、今日の昼の出来事から気持ちが落ち着いてないと感じとろうとした。もしかしたら咲は紐状態な立場であり、彼氏本人がこのライブ配信で収入を得ていることで悩んでいたのかもしれない。
とにかく咲から語れるまでは、自分からは喋れないと考える桜久良だった。
 ̄ ̄ ̄
桜久良は見落としていたが、コメント欄の中に埋もれて『先程、顔みたいの何か映りませんでした?』と書き込まれていた…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます