悲鳴

奥野鷹弘

第1話 共鳴

202#年、春。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「えーっ、なにそれ!!?」


春休みで有意義に時間を使ってい生らしき若者たちが発言者へと注意を向ける。


「やっ、やめてよっ。

 ここ居酒屋じゃないんだから、そんなに大きな声出さないでよ。」

「…いや、だって。」

大声を出してしまった桜久良さくらは、大学時代のときバイト先で親友までになったさきに怒られて頬を膨らませる。


『迷惑だな。』という顔をちらつかしながらも、若者たちは大きな声で語り直す。


桜久良と咲は同い年で、今年で7年目になる親友。

ふたりはそれぞれの大学を学んでいるなか、バイト先で出逢った。桜久良の方が3ヶ月先輩であるが、咲の出来の速さからいつも職場から比較にされていた。桜久良の成長過程は咲の出来上がりから観て予測が出来るとして、コンビ名として『開花予想図』と名付けられた。はじめはギクシャクした二人だったが、次第にその命名のお陰でお互いの弱点を補えるようになり、違う道を進んだ今でも連絡を取り合い仲良くしている。


今日はそんななかでも咲が報告したいことがあるということで、桜久良はファーストフード店で合流することで合意をした。咲はうすうすと解っていながらも、簡単な報告から始めたくファーストフード店を選んだ。しかし、あまりの声の大きさに、やはり居酒屋に変えて貰うんだったと少し後悔をした。


桜久良は悔しかったのか、手本にしたいのか、咲にもう一度恋人についてどんな人が聞き返す。

躊躇いない咲は普通に答えようとする。


「名前は、稲垣 いながき かなで

湊だよ、いつか紹介したと思うけどさ。あの動画配信サイトのイケメン。

出逢いからは、もう2年より前になるんじゃない?

んで、正式的な恋人として今回告白されたんだ。悩んだけど私、昨日ちゃんと返事したから桜久良に伝えようと思って。」

「えーっ、なにそれ!!

ついでに祝えたじゃん!」

「今日、それとは別に居酒屋にすれば良かった気がする・・」

「いやいやいや、呑んでたら、私もっとうるさいよ?」

「知ってる、」


桜久良は自分事のように咲の事を祝う。咲は相手を想うように桜久良へ恋愛アドバイスをする。ふたりの空気は楽しい空気と共鳴しようとしていた。咲が携帯を見て硬直するまでは…


紙コップに入ったミルクティーを勢いよく呑み、ホッとしようとする桜久良。

窓ガラスに背を向けてる咲は、今回一番長いと思われるポテトが折れていることに残念がって口にこもらせる。と共に、ある思いが我慢できなくなる。桜久良の様子を伺うが、まだ本題へと持ち込めるような様子ではないため、咲は桜久良の飲み物のストローが空気を吸い込んだ雑音のタイミングで立ち上がろうとタイミングを待つ。


桜久良の勢いが悪いのか、咲の背後を走るガラス越しの車が何台も通り過ぎる。国道沿いだから仕方がないが、通りすぎていく車の数だけ咲を追い立てる。

信号のタイミングだったのだろうか。桜久良の飲んでいたお茶が底をついて、空気を吸い込んだストローが鈍い音をハッキリと耳に届けた。

「ごめん、桜久良。私、ちょっとお手洗いしてくる!」

咲は我慢できなかった子供のように立ち上がる。

「いや、ちょっと!

 私から何か聴かれるのが怖くて逃げようとしてるんでしょ?」

的は外れているが見透かして心配をしてくれる姿に居たたまれなく、そのままお手洗いをしようとする咲。

「いいから、早く行ってきなよ。

 でも、さらに深く聴くことになること覚悟しなさーいっ」

桜久良は関西のおばちゃんのような素振りで、指示を仰ぐ。

「…あっ、悪いけど携帯ちょっと置いてくね、いい?」

咲らしくない行動だった。桜久良は何かにまた引っ掛かった。そして咲はそのまま胸ポケットから携帯を出したところで次は固まった。誰かに不幸が起きてしまったかのような、報告を受けたくなかったような顔つき。

桜久良は考えた。そして、咲へ「ここから出ない?」と提案し、お店を出ることにして声にしてくれることを期待した。だけどもお店を出た後も寄り道したお店でも咲は眼を泳がしたまま、会話のキャッチボールが上手くいかず、そのまま交通機関で見送りをした。


桜久良もまた、咲に伝えたいことがあの席で出来、落ち着かせるためにお茶を一気飲みしていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

この日の夜中、桜久良の携帯通知が鳴った。なんとも可愛らしいオルゴール通知音がタタンと鳴る。


久々にそのままベッドにダイブしていた桜久良。真っ暗の部屋の中で携帯だけが光る。いつもより重たい身体を引きづりながら、携帯画面を見つめる。


その通知は咲からの連絡ではなく、昔ファンであった『稲垣 湊』のライブ配信開始の知らせ。

桜久良は咲と別れた後、距離を離していた動画配信の通知を解除していたのだ。思ったよりも早く通知が届いてしまい戸惑いを隠せない桜久良である・・

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