第1話 被害者
「王女を……ですか」
「ああ。もうすぐ見える」
MSCO最後の春と共に、なんとも信じがたい課題もやってきた。
兵器の源が資源から、人間の精神力になってからだいぶ経つ。国防を担う王族が作る、精神力のオーラによって守られているこの星の歴史で、現王女は群を抜く精神力を持っているらしい。
そして自慢ではないが、王立MSCO戦闘科において、俺は入学時から首席を維持している。
その俺が、世話係。
「安心しろ。被害者は
「被害者って」
「武器科の瀬戸、強化科の村雨も巻き込まれている。卒業するのに焦らなくていい、院長の心優しき人選だ」
「瀬戸
「司令塔は君だな、水柴
「納得いきません、教官。どう考えたって、俺が一番被害者ですよ」
「まあ、一年間頑張り給え。一時間後、院長室で対面だ」
教官はそう言うが、王女はまだしも、奇人である瀬戸と村雨をどう扱えばいいんだ――
◇◆◇
「戦闘科、遅いよ」
集合五分前に院長室に到着すると、待ち構えていたのは、部屋の主でも王女でもなかった。精神力を、戦闘時に武器や防御能力の向上に注ぎこむ、力のエキスパート。武器科の首席・瀬戸万美夏だった。
戦闘科と武器科は、専攻の質上タッグを組むことが多く、瀬戸とは何度も同じ合同実習をさせられている。
瀬戸は背が高く、ボブカットでスタイル、成績も良いから、自他ともに認める学院のアイドルだ。俺の好みではないが、顔を合わせる機会が多いため、他の男子から何度か脅迫めいたことをされている。喧嘩は売られなくても買う主義だから、難癖付けてきた戦闘科男子を、病院送りにしたのも記憶に新しい。
「うっせ。瀬戸が早いんだろ。武器科は暇でいいな」
「一年の時に必要な単位は全部取ったの! あとは実習と出席日数のみ! 要領の悪い誰かさんとは違うの」
うるさい女だ……
「それより強化科と王女はまだなの」
「院長もまだだな」
「空気が澱むんだけど。シノ、早く来ないかな」
「なんだ。瀬戸と村雨はそういう関係だったか」
「バカじゃないの。八つ当たり相手に決まってるじゃん。たまに、カラオケ奢らせてやってる」
かわいそうすぎるぞ、村雨……
「やあ、おくれたね。強化科以外の首席たち」
院長・長良
「この度は、急にすまんね。国王直々の指示だから断れないんだ。水柴君、瀬戸君、あと、まだ来ない村雨君。王女と、一年間、研鑽しあってくれたまえ」
「要は王女のお守りじゃないですか。首席は首席で、暇じゃないんですが」
「大丈夫。卒業試験は、この一年間のレポートで手を打つよ。出席日数は目を瞑ろう。瀬戸君。さあ、入ってください王女」
院長の後ろから、綺麗な金色のロングヘア―が揺れる。碧眼は澄んで美しく、パッとした華やかさの瀬戸と違って、清楚で気品あふれる美女だ。
「申し訳ありません。一人欠けていますが、彼らが選ばれし者達です」
「いえ……」
「男子が戦闘科の水柴行春、女子が武器科の瀬戸万美夏です」
王家の肖像は禁止されている。初めて見た王族は、やはり俺たち一般庶民とは別種の人間のようだ。
「この度はご多忙のところ、ありがとうございます。地球国王
王女と首席たちの最後の一年間 MSCO―王立精神力戦闘士官学院― 紬木楓奏 @kotoha_KNBF
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