エピローグ

 僕達はG19アスカサに帰った。いや、正確には「帰っていた」が正しいのかもしれない。『シボガ』で淡々と言っていた謎の声は、結局何だったんだろう。


 成人の儀から生還した僕達は、ふたつの偉大なものを授けられた。


 双子の赤ん坊と、首飾り。大人達が言ってくれたことには、前者がジョー由来で、後者が僕由来。首飾りは筒状になっていて、中には乾燥させた耳が入っている。なんの耳だって? 決まってるだろう。蹂躙者レイパー嬰児えいじだ。


 人類を脅かす脅威を斃したことの象徴として、蹂躙者レイパーの耳は宝石のように価値がある。昔、G19アスカサに住んでる熟練の戦士の家行った時とか興奮したな。強い戦士って、蹂躙者レイパーの耳を紐で繋いで首飾りみたいにしてることが多いんだけど、いつか僕も同じようになりたいって憧れたもんだ。


 特に、嬰児の耳ってのは最上級の高級品で、コミュニティ同士の交易なんかでもめったにお目にかかることは無い。もし売るってことになったら、ほんとに目玉が飛び出るほどの額になる。


 だから、蹂躙者レイパーの嬰児の耳は、とても特別なことに使われる。成人の儀を乗り越えた若者に、一人前の戦士の仲間入りを果たした証として授けられるんだ。そして、その証の元を産み出したとして、僕もコミュニティでそれなりの評価を受けるのだろう。


 この文化には感謝している。もしそれが無かったら……必死こいて戦って、辛くて大変で痛い思いまでして成人の儀を乗り越えて、その後にこれまたしんどい思いをして子供を産んだってのに、「産まれてきたのが化け物でした」となろうものなら『辛い』なんて言葉ではあまりにも薄っぺらすぎるほどの――大変な思いをするんだから。


 それに、万が一、戦士の証が不足するようなことになったとしても、それはそれで悪いことじゃないと思う。なぜなら、代わりに――成人の儀がちゃんと成功していればの話なんだけど――G19アスカサの人口が増えていることを意味するのだから。


 首飾りをぶら下げた途端、僕達を取り巻く空気が変わったような気がした。首飾りが重く感じるのは、金具とかのせいじゃない。僕達は戦士となった。このコミュニティを次の――そのまた次の時代にも残せるよう、ずっと守り抜かなければならない。そんな責任の重さだ。でもきっと、その重みに慣れるようになると思う。


 僕とジョーが抱えている赤ん坊もまた、いずれ僕達と同じように成人の儀に挑むのだろう。彼等は未来だ。彼等が大きくなるまで、僕達は守り、育てていかなければならない。これも成人の儀を成し遂げた僕達の責務だ。大変なんだろうけど、僕とジョーはあの成人の儀を乗り越えたんだ。きっとなんとかなるだろう。


 僕達は、成人の儀を達成した。


 一人前の戦士として、双子の赤ん坊の教官として、僕達はこれからもG19アスカサを守る存在として生きていく。


 僕達は、大人になったんだ。 

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RAPE FREAKER ~シボガ伝説~ バチカ @shengrung

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