竜宮の乙姫様は引き留めない。

第27話 それぞれの日常(β)

【前書き】

 シンデレラは探さない。WEB版の第2章となります。

 繰り返しますが、WEB版となります。こちらは書籍版ともコミカライズ版とも趣を変えるものとなっております。

 本作のストーリーラインでは、途中から書籍版やコミカライズ版へ移行することは難しいです。また、その逆も然りです。オリジナル版という位置づけのWEB版ではありますが、他と比べて何かが勝っているということもありません。

 それぞれ関連性はあるものの、ほぼ独立したものとなっております。ですので書籍版やコミカライズ版との相違は多々存在します。会話や展開や言動やテーマ、キャラクターのデザイン等も異なる場合があります。登場人物の言動を同一視しないよう、お願いいたします。

 加えて「更新頻度はかなり低い」ため、展開は遅いです。一気読みしたい方にはおすすめできません。さらに誤字脱字がひどい作者です。本人は気をつけているとのことですが一向に改善が見られませんので、こちらも悪しからずご了承ください。

 また、これまでに記した何点かの注意点をご理解いただける方のみお読みいただけますようお願い申し上げます。


 では、大変長い前書きを終えまして、大変長い期間となる予定で大変恐縮ですが、大変な感じがするけれども大変いつも通りな「シンデレラは探さない。第二章(β)」の始まりです。


 βの意味は皆様のご想像にお任せいたします。


―――――――――――――――――――――――――――――


 アタシの名前は『柳 宮子(やなぎ みやこ)』

 姫八学園の一年生。


 知り合いからは「白ギャルっぽいのに、ふつーに焼くよね。紫外線怖くないの?」なんて言われたことがあるけど、別にこだわりがあるわけじゃない。


 気に入ったメイクやコーデを取り入れていったら、結果的にそうなっただけ。

 もしかしたら来月はメガネを掛けているかもしれないし、ロングヘアからショートカットにしているかもしれない。


「ミヤコってなんか、自由だよね」


 友達はそういうけど、アタシの場合のそれは自由なんてものじゃない。


 アタシはただ固執してないだけだ。


 だって、人でも物でもいつかは無くしてしまうでしょ?

 大事にしていたって、勝手にどこかにいくもんでしょ?

 

 友達と言っているけど、明日には引っ越して、一年後にはチャットアプリのIDだって違うかも。


 彼氏なんて作っても結婚するわけじゃないし、結婚したとしてもずっと一緒なわけでもない。


 そうでしょ、お母さん。


 アタシの母親は、

 アタシが2才のころ、

 アタシを置いて出ていったきり――戻ってこない。


   ◇


 ◯next stage

 ◯start

 ◯Princess of Ryugu


   ◇


 レイの肌の温もりを感じた梅雨の時期。

 7月に入ると、曇天のかわりにやってきたのは容赦のない直射日光だった。


 朝の通学路。

 レイからの提案があり、二人で登校することにしていた。


 朝だというのにすでに日差しは強い。

 去年の冷夏が嘘みたいだ。

 今年は例年より梅雨明けも早いらしく、テレビでは盛んに『異常気象の恒常化』という、異常なのかそうでないのか分からない説明をしていた。


「陣くん、暑いわ」

「俺もだ」


 子供の頃はもう少し暑さに耐性があった気もするけど……、弱くなってしまったんだろうか。

 でも、強くなったことだってあるよな。たとえばそれは自分の――いや、そういう話は別にいいか。

 今考えることじゃない。なぜか既視感を覚えつつも、俺は妹の舞の笑顔を思い浮かべた。

 舞は朝っぱらから『わー! 暑い! 夏だもんね! あれ? 夏だから暑くなるの? んん? 暑いから夏なの?』と、若干ムズカシイことを言っていた。

 その辺の対応は父親に任せているので、まあいいんだけど。


 礼の落ち着いた声が耳に届く。


「お父様、退院できて良かったわね」

「ああ。本当にありがとな。レイが傍に居てくれて助かったよ」


 レイに問い詰められた、あの日から。

 胸のうちを明かした、その日から。

 俺たちは互いに隠しごとなく、助け合って過ごしていた。

 父の容体も悪化することなく無事に退院。

 それどころか保険差益というやつで、臨時収入まで得たらしく、壊れていた我が家のエアコンが新しくなった。

 喜んでいた父親には釘をさしておいたけども。


「べ、別にわたしは何もしてないわ!」


 レイの焦る様子は、以前より大げさに見える。


「たくさん、してくれてるよ」

「そ、そうかしら?」

「ご飯食べてくれてるだろ」

「え? まあ」

「舞と遊んでくれてるし」

「そうね……?」

「父さんの話相手もしてくれるしさ」

「あの、わたし、遊んでいるだけのような気が……」


 ずーん、と落ち込んだように見えるレイの表情。

 無表情に近い――が、若干ではあるが変化も見える。


「そんなことないさ。レイだって、色々と変わってるよ」


 言いつつ思う。

 では、君は?――君というのはもちろん俺のこと。

 今日はなんだかおかしい。

 どうにも思考に雑念が入る。


 俺は頭を降って、目の前の会話に集中した。

 レイが無表情ながら、深刻そうに考えている姿は、側から見るぶんには大変面白い。

 だからいつも調子に乗ってしまう気もするのだが、それはあくまで自動的で、いじわるをしたくて口にしているわけじゃない。


「そうかしら……」

「いつも見てる俺が証明するよ」

「そ、そう?」

「ああ。レイは変わらず、レイだ。かわいくて、頑張り屋で、優しい心の持ち主だよ」

「……、……っ」


 会話が一瞬、止まる。

 レイの日傘が柄を軸にして、ゆるやかに一回転した。


「……す、すごい、暑いわ」

「おう。俺もだ」

「あなたのは、違いますっ」

「いや嘘ではないんだが……」

「冗談にもならないっ」

「はぁ?」

「陣くんなんか、しらないっ」

「なんなんだよ……」


 一日に何度か、レイはよくわからないことを言う。

 困ったものだ。

 回りからすごい見られているが……、レイが気にならないなら良いか。


 ちなみに、横を歩くレイの日焼け対策は完璧だ。

 装備は上から『黒い日傘、肘までの黒い長い手袋、足には黒いニーハイソックス』。

 さらに顔には日焼け止めが塗ってある。

 外に出ていく前のレイを観察していると、なんというか、戦士が装備を整えているように見えなくもない。


 もう少し軽い装備で一緒に歩いているイメージもあったけど……いつのことだろうか。よく覚えていない。

 少なくとも今の彼女は重戦士である。


 レイが睨んできた。


「陣くんから悪意を感じるわ」

「いや、女の子って色々と大変なんだなって思ってさ」

「男の子であっても紫外線は避けるべきよ? 夏日の外の体育を中止にしないのは頭がおかしいと思うの」

「確かにそうかもな」


 ニュースでも暑さ対策は見るよな。

 舞にもちゃんと対策してやるか。


「第一、陣くんが言ったんでしょう?」

「ん? なんだっけ」

「だ、だから、ほら、肌のことよ……」

「日焼け止めの話?」

「その話の、だから、つまり」

「PAだかなんだかの強さで性能が変わるっていう」

「違うわよ!『レイは色が白くてキレイだ』って言ったでしょ! だから焼かないように頑張ってるの!」

「ああ……言ったけど」


 俺は周囲を見た。


「レイ。声が大きくないか」


 回りを歩く姫八学園の生徒がこちらを見ている。

 そりゃいきなり大声あげれば、そうなるだろう。


「あ……、う……、」


 レイは固まった。

 顔はゆっくり前に向き直り、しかしその視線は目まぐるしく左右に動いていた。

 それから数歩進むと、ピタリと止まって言う。

 

「わたし、学校休みます。さよなら」

「待て待て待て!」


 はぁ。

 毎朝、こんな感じに騒がしい。

 一緒に登校し始めてから、ただでさえ忙しい朝の時間帯に、レイを学校内に連れていく仕事が増えた感じだ。


「ま、楽しいから良いけどな」

「……悪意を感じるわ」

「はいはい」

「すごい、悪意を、感じるわ……!」

「はいはい」

「ものすごい――」


 レイは、俺に腕を捕まれてズルズルと引っ張られていく。

 

 変わらないようでいて、しかし確かに何かが変化した俺の日常は、今日もそうして始まった。


 ああ、うん、そうだ。

 これが俺の日常。

 それ以上でも以下でもない。

 雑念は消えて――ふと、大海原を泳ぐ海亀のイメージが頭を過ぎたが……、それは刹那にどこかへと消えた。


   ◇


●2章(β)


→Start

 Continue

 Re Start

 End


●Is this the right way?


   ◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る