第7話「敵の分岐点」

廃工場の通路を走る四人。

最初こそは足元にガラスや廃材があるのではないかと、警戒しながら足を進めたがこの通路はむしろごみ一つ落ちていない程、綺麗に掃除され、壁掛けの明かりが置かれ、廃墟とはまた違った謎の研究所にいるような異様な緊張感と先にある物の警戒心が歩を進めていくにつれて上がっていった。


進めば進むほど、緊張感と早く朝陽の元へつき、彼女の身の安全を確認したい焦りと苛立ちが地面を蹴る瞬間に入る力の大きさが物語っていく。


クソ!長すぎだ!この道。

こんな文句が言いたくなるようなくらい進んだ時だった。

前に、右に、左にと

三つに分かれた道が進もうとする者に「どこへ行く?」と質問を投げかける。

回答者である優雨達は目に集中し、心層を貯める。

どれかの道の先には朝陽がいる。

ならば彼女の心層をたどればいい。

しかし、この行為が先に待つ者達に「浅はか。」と言われたような結果を呼ぶことになる。


最初に見た正面にあのドス黒く渦巻く心層を見つける。

優雨は「見つけたと!」声を上げようとした瞬間、その表情からは安堵は消え衝撃と焦りの色がにじみだし始める。


正面、右に、左、どこを見てもあのどす黒い心層が目に映るのだ。

優雨だけでなく、ほかの三人にも焦りが見え、額から汗がしたたり落ちる。


なぜ?どうなっている?朝陽はどこだ、それ以上に。

この先には「何が」いるんだ?


四人は焦り、困惑が頭を駆け巡り、いつしか恐怖に変わっていく。

空気を吸うのもお腹に氷でも入れられるような緊張感と静寂。


しかし、これを切り裂いたのは優雨だった。

立ち止まり息を整え「どっちへ行く?」と息継ぎ交じりに優雨が質問を投げかける。


心層石という心層を増幅させるものもなしに、心層を使うことができるのは、まず人間では有り得ないことだった。

太古昔から、心層を操るために様々な人間がその方法を錬金術、魔術、気孔術など名前を変えて研究した。

その研究の末が心層石だった。


さらに心層を操る際、皆等しく何らかの想像をする。

優雨だったら、「弾」

真也だったら「刃」のように。

心層は人の心を形になる。

しかし、人の想像は不確かなもので、その想像が複雑かつ現実に離れていくほど、その消費量もそれを想像する頭も足りなくなるのだ。

彼女、ひいてはほかの二つはそれ以上の事ができる可能性があった。


しかし、その恐怖以上に彼は朝陽を助けたいのだ。

彼女は泣いていた。

優雨にとってあの町に住む仲間にそんな顔はしてほしくない。


「ふむ...この道のどれかだろうが...。」と橙夏は三つの道を見比べたように見渡し決心がついたのか戦場に赴く勇敢な戦士のような瞳で三人を見つめる。

「ここからは三つに別れよう。私は一人でもいいが、この場合三人の内、誰かが一人になってしまう。」

「じゃあ、俺が一人になる。」わかっていたように手を勢いよく挙げる優雨。

それを「待て!」と言わんばかりの顔で口を開こうとする真也を黙らせるようにさらに優雨が喋り続けた。

「まず、遠距離ができない真也に近づかれると戦いにくくなる桜咲。この二人は組んだ方がいいだろ?それに俺はある程度の距離で戦える。それに...。」

「朝陽をこれ以上待たせたくない、朝陽が心配だ。」

いつもは眠そうなで無気力、怠け者の優雨が瞳に焦りと確かに感じる本気度に真也は口をはさむ事は出来なかった。


「...わかった、だがお前も気をつけろよ。」

「ああ、わかってる。心配されて優しくしてくれるのはいいが、痛いのは嫌だからな。」

優雨は真也の忠告をいつもの少し口角を上げ、理解しているんだがしていないのかわからない、いつも通りの笑顔で返した。

「うむ、皆、無理だけはしないように。」

「うん、もし怪我したらすぐに逃げてね!私も何かあったら向かって治すからね!」

と彼女は杖を少し光らせながら両手で心配な気持ちを抑えるように杖を握りしめた。

「じゃあ、また後で。」

優雨がその言葉を口にした瞬間、橙夏は右に、真也、桜咲は左へ、そして優雨は真っ直ぐへ、それぞれの、焦り、怒り、覚悟、不安を胸に進むために足を前へ進めた。

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