第6話「力」


外世町北部にある山。

自然豊かで、日差しが良い日に来れば、ハイキングなどに向いているだろう。

しかし、この中に景観を破壊するように大きな人工物がそびえ立つ。

倉庫のようで、一目だけではその大きさを把握することはできない。

さらには、夜ということもあり、自然の人工物がある不自然さに恐怖を感じる。


十年前に、怪奇現象が起きるとの事で親会社が放棄し廃墟と化した工場だ。

手入れをしなくなった影響か、窓が割れたり壁がはげていたり、落書きが見える。

誰もこの施設を使わなくなったはずなのだが。


「「「「なんで、人がいるんだ?」」」」

茂みに隠れていた四人が口をそろえて驚愕の表情を浮かべながら言い放った。


工場の前には、車やトラックが並び、武装した明らかにガラの悪い男性たちが我が物顔で見回りをしている。


「なぜ?あんなにも人がいるんだ?」

頭をかきながら怒りのふちを真也は口にする。。

「真也君、し、静かに!見つかっちゃうよ!」

橙夏は「何か訳あり...みたいだな...」と男性たちを観察する。


彼らにはキラキラと光る石「心層石」を身につけているのがわかる。

それと同時に四人の目には警備員達の心層の量も見ていた。

どれも、秀でて多くあるわけではなく、身体を細い線が緩やかに流れているのがわかる。


「心層に知識はあるが、あまり修行をしていない所を見ると、傭兵か?」

真也は冷静に分析をしながら口を開く。


傭兵。

心層が発見後、呪い、心層での殺害、法に触れるような事を依頼持ってくる者が出る。

それを受ける暗躍する者たちがいる。

それが傭兵だ。

傭兵になる条件はなく誰でもなれる。

それゆえに彼らの能力には大きな差が生まれるのであった。

しかし、傭兵を斡旋する裏会社も存在しそこには数多くの依頼をこなし心層をうまく扱う者達もいるといわれる。


「傭兵って...それと、今回の朝陽ちゃんと関係があるってこと?」

「そうだな...なんにしても...は...。」

「「「は」」」


優雨以外の三人は嫌な予感がし、恐る恐る優雨を見る。

そこには、大きく口を開け今にも喉奥から生理現象が行われようとしていた。


ま、待って


焦りがいきなり背上がった彼等は急いで口をふさぎにかかる。


「ぶあっくしょん!!!」


しかし、時すでに遅く、盛大な音を鳴らしながらムズかゆみから解放された優雨は幸せそうな顔をしながら前を向く。


先程まで、こちらの存在すら気づかなかった。ヤンキーのような者達の目がこちらの目と合う。

少し、左右を見れば、呆れたといわんばかりの顔並べる面々。


少し息を整える。

すって吐く、すって吐く。

「あー、ごめん。」


「「「捕まえろ!!!」」」

一斉に男達が獲物を見つけた肉食動物のように襲い掛かってくる。


四人もたまらず茂みから出て逃げ出す。


「あそこで、くしゃみをするな!」真也は怒りの矛先を見つかった本人に向けて持ってきた模造刀の柄で叩いた。

「痛て、いていててて、柄で殴るな殴るな。仕方ないだろ!出ちゃったもんなんだから。」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ~二人共~。」

「やめないか!二人共!さっさとこいつらを倒すぞ!」

と橙夏、真也、優雨は足を止め振り返る。

桜咲は二、三メートル離れた場所で振り返り、何かを手に持つ。


優雨は白と黒のマグナム

真也は刀身が紫色の反射する模造刀。

橙夏は赤色の三つの十二センチほどの円柱。

桜咲は自分の型ほどまである木製の杖を

彼等はそれを目前に迫る男たちに向ける。


「言っておくが、自己防衛だからな!後で怒るなよ!」

「そんな、もんで何ができる!やっちまえ!」

「よし!やっちまえ!桜咲!真也!橙夏!」

「「「うん!(ああ!、おう!)」」


最初に優雨が右手のマグナムから放った。

青く光る閃光は走ってくる男の腹部を捉え、男は倒れる。


「死んではねえからな!そこで寝かしてるだけだ!」

倒れた男性を覗けば口を開き気持ち良さそうにいびきをかいて寝ている。

『弾丸創造』(バレット・クリエイト)

この非科学的な弾は優雨の心層を弾丸に変えて発射する。

ただの弾だけでなく、彼の想像する弾であれば作製から装填までしてくれる。

しかし

「おえ、めっちゃ心層吸われるなぁ。」

その場に座り休憩をする優雨。

この能力の想像する弾は、効果が心層を消費する。


「く、こいつら、心層探偵だ!あれを使え!」

武器を構える、男たち。

先には様々な色の心層が灯り優雨に二人の男が振るう。


ガキンィイン


避ける動作をしなかった彼に確実に当たった。

鈍い音と共に目に映ったのは、炎のように覆う刀で受け止める少年と三つの円柱が心層によって繋がり長い棒になった物で受け止める女性。


「「よ、避けろよ!!!」」

「サンキューな二人共!」


桜咲が地面を杖で叩く。

「『造植』!」

彼女がそう告げると、黄色い輝きは地面に巡り五、六メートルの間隔を根を張るように広がった。

メキメキとコンクリートを破壊し人ほどの太さの根っこが現れる。

「うわぁあああ!今度はなんだ!根っこかぁ!?」

驚き戸惑う男性達に容赦なく根っこは掴む。

「うわぁあああ、こ、殺される...あれ?」。

根は男たちを捕まえはするがそれ以上の危害は加えない。

「さ、流石に捕まえる以上の事はしませんよ!大人しくしてください!」


彼女の能力は自分の心層を飛ばせる範囲に植物を出し、操ること。

しかし、その量や操る集中も必要な為、ある程度の距離と量しか出せない上に操るのに精一杯で動けない


「操ってる、あの小学生みたいなガキを取っ捕まえろ!!」

「誰が小学生ですか!ってこっち来てる~~~。」

根を変えくぐり迫ってくる男たち。

必死さと


「桜咲、任せてくれ。」

と前に出て紫色の刀を構える真也。

その瞳は集中しきり、いつもの表情からしわが消えていく。

足を一歩出すかと思いきや、一瞬で男たちの前に出る。

「え、ちょっと、待っ。」

振り動かされる刀は紫色の線となり男たちの腹部、頭を捉える。

真也が男たちの後ろに立っている時には男たちは倒れ気絶をしている。


息を整え「峰内だ」と言う彼は、その場で大きなため息をつく。


『杉石流剣術・斬の型』

心層を使った杉石家が編み出した剣術。

これの伝承者は過酷で厳しい修業が待っている。

しかし

「また、角度を間違えていた...どうせ俺など...。」真也はその場でふさぎこみ地面をいじる。

修業が厳しすぎたのか、性格か真也は自分にも厳しかった。

「し、真也君!でもちゃんと倒してるからね!頑張って!」

「そ、そうか、そうだな...桜咲を守らねばならないしな。」

また、構え直し男たちと対峙する。



「はあ、はあ。ここまでくれば...。」

何とか、距離を取った者たちは先に戦っている仲間を見る。

二十人はいる仲間をあれだけの学生たちにやられていると思うと、恐怖でかたずをのんだ。


「うぉおおおお!!」


あの激戦の中から一際目立つような声で走ってくる女性がいる。


オレンジの心層が三つの円柱を包むそれは、心層は槍のように長く先端には鋭い刃に見え、円柱の部分は持ち手のように見える。

そんなものを振り回し、突っ込んでくる女性、橙夏がいた。

ただ闇くのに振り回すのではなく、相手の攻撃を受け流し、その大きな者で叩き気絶させる。

武術の心得と加減を知らなければならない行為を目の当たりにした彼らにはあの女性が一騎当千の武人に見えてきた。


「うわぁぁぁ、こっち来るなぁああ!」

彼等は嵐のように暴れまくる橙夏に巻き込まれ宙を舞い地面に叩きつけられる。


「朝陽ちゃんは、朝陽ちゃんはどこだ!」

この中の誰よりも目立ち、この中の誰よりも功績を上げる女性は、必死に自分の子供を探すように叫んだ。


『千の武具』

彼女の能力は心層石で作られた円柱を持ち手として様々な武器を心層によって作り出すものだった。

武器の大きさは本人の心層の量に比例する。


「やべぇ、やべぇよ...。」

日の子を散らすように逃げる男たち。

その大半は工場へ一目散に入っていく。


「やっぱり、この中か。」

優雨が睨むように施設を見る。


待っていてくれよ朝陽...今行く。


少年少女たちは走り出し敵の本体へ入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る