第5話 「暗い夜の始まり2」

走った。

何かから逃げるように。

階段を飛び下り、地を踏みしめがむしゃらに風を切る。


あの神社に映った朝陽は

あの鏡に映った私は...。


事実で。

違う。


目に焼き移り

忘れたい。


確実に彼女だった

あれ、私じゃない。


彼女の周りにまとわりつく。

やめて!。


黒い尾を引いた黒い塊は朝陽の背中に繋がり浸食しているようにも見える、その姿はバケモノと形容してもいい、恐ろしく、醜く、背筋が凍った。

............。


走っていた足が絡まり地面に身体を叩きつける。

擦りむいたのか足、手からジワリと痛みが走りおさえる。

目頭が熱くなり頬を伝わり、ぽたぽたと夕陽に反射する涙が落ちていく。


結局、言うとりだった

私は

あれじゃあ

バケモノだ

......。

何で?

私が何をしたの?

こんなことだったら...


「ねえ、お嬢さん?」

ゆっくり、声の聞こえる方へ顔を上げる。

「へ?」

誰かが、私に声をかける...

彼は、ゆっくりこちらに手を向ける。

「あなたは...。」



日はすっかり落ちた事務所。

「何?朝陽が行方不明!?」

机を殴る鈍い音と真也の声がこだまする。

驚いた用にビクッと反応する晴と亜美、それ以上に何かまずい事をしたように心配そうにうつむく。

「真也君!二人がビックリしてる。」

「あ、ああ、ごめん二人共。」

「...それで、晴と亜美。最後に見たのは神社の倉だっけ?」

「うん、それで晴が朝陽ちゃんに話しかけてたの。」

「それで、どんな話をしていたんだ?」

「髪の事とか話したら朝陽、じっと同じ所を見てて...。」

「同じ場所?」

「うん、鏡が置いてあった。」

「鏡...。」

(もしかして...朝陽は自分を見たのか?)

最初に会った時、事務所の皆が感じていた。

いや、見えていたに近い。

朝陽、彼女から渦巻く、黒い心層を。

圧倒的な存在感。

いるだけで、押しつぶしてしまうような量。

もし殺意など向けられるようだったら

報告書など、見なくてもわかる。

これは、「危険」だ。

その彼女が力を抑えきれなくなったら。

背筋が冷たくなる。


「ねえ?」

晴の一言で皆が恐ろしい考えが止まる。

「やっぱり、俺のせいかな?」

「俺が、あんなこと聞かなかったら...。」

「朝陽が何で出て行ったのかはわからない。もしかしたら、晴のせいなのかもしれない。」

「........。」

「だから、一緒に謝ろう。」

「へ?」

「俺も、朝陽を守るって言ったのにこれだ。」

「俺は朝陽に謝りたい。晴はどうだ?」

「.........俺も...俺も謝りたい!」

「よし、だったら俺たちは、朝陽を探してくる。晴たちは家で待っていてくれ。」

「うん!(はい!)」

二人は顔を上げ自分たちの家へ帰る。

優雨、彼らが朝陽を見つけてくれると信じて。


「じゃあ、探そう、何より朝陽が心配だ。」

「そうだな、探すとしよう。」

「うん、探そう!」


外へ探しに出る皆。

優雨も出るために、準備する。

リボルバー、携帯、財布

「隼人、少しいいか?」

「どうしたの?優雨。」

「朝陽にあげたブレスレットに心層石が入ってる。どうにか、それで探せないか?」

「ああ、わかったよ。」

「ありがとう。じゃあ、行ってくる。」

と言うと彼は足早に事務所から出て行った。


「よし、じゃあ探しますか。」

隼人は、ソファーに座り水晶玉を机に置く。


集中しろよ...隼人...。

僕が一番...うまくこの子たちをうまく扱える...。


彼は手をかざすと、水晶は淡く光りだし、中からはいくつかの光と上空から見た外世町が見られる。

これこそ彼が扱う心層の力。

付喪神つくもがみの借り手」だ。

彼は、心層こそは集中するできる空間でなければこれができないが、道具に自分の心層を注ぐことで、その道具を一番効率よく扱うことができる。


どこだ?

彼の目には、青い優雨の心層に紫の真也、黄色の桜咲、橙の橙夏、そしてちらほらと妖怪の姿は見えるが彼女の姿は見えない。


もっと広い範囲を...

上空へ引くと広く、町が見える。

どこだ?

どこにいる?


彼も、心層を操作するのに集中を使う。

少しでも、気をゆるせば水晶に注がれる心層は止まり、また一から探すこととなる。

見つからないむずがゆさと、目頭が熱くなる様な感覚が襲う。

家、山、田んぼ、学校

あらゆる、場所を細かく見る。

どんなものでもいい、どんな情報でもいい頼み見つかってくれ。

内心で祈りながらも探す。

ふと、山道を走る車に目が行く。


こんな時間に?

そんな疑問でつい車を追いかけると、町の周りの森や山々の中にある廃工場跡に、ひときわ黒い靄に近い心層を見つける。


いた!


そう確信すると彼は急いで携帯を取り「見つけた!北の廃工場跡!そこにいる!」

電話を受け取った四人は急いで走り出す。

どうか、無事あってほしい焦りと祈りが交差しながら彼らは朝陽の元へ走る。

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