第4話「暗い夜の始まり」

風が流れ、鳥がさえずる、山に囲まれた草原。

ここでの修業開始から一時間が経とうとしていた。

最初こそ、しわくちゃに険しそうな顔をしていた朝陽だったが次第に、その顔は緩み、寝ているのではないか勘違いしてしまうような程、落ち着いた。


真っ暗な世界、外と心臓の音が聞こえる。

鼓動の音が次第に大きくなっていく。

ついには、それしか聞こえなくなった時、「何か」を感じる。

熱を帯びたそれは、身体中を水の流れのように巡る。

所々から、あふれるように身体から出ている。


戻ってきて...。

ゆっくり水は体に戻って行く。


流れを早く...

身体中の水は早くなる。

力が湧き、体の底から熱くなるようだった。


流れを遅く...

今度はゆっくりになり、身体がさらにリラックスする。


(凄い...本当に言うとうりになってくれる。)


(よし...これくらいでいいか...)

「目を開けても大丈夫だぞ。」

優雨にそう言われると、ゆっくり目を開ける。


彼女の目からは、いつもの優雨の姿に藍色の煙にも似たものが漂っているのが映った。

「優雨、それって...」

「ああ、見えたか。それが...心層だ。」

「これが...」

「ああ、周りを見てみろ。」

「うん。」

ぐるっと周りを見ると、先程までの木々たちの近くや空などに図鑑やテレビでは見たことのないような、生物たちが見える。

色が派手な鳥、二足歩行の一つ目の生き物。

最初こそはビックリし、優の後ろに隠れるが襲ってこないことがわかると観察する。


(やはりだと、思ったがここまでとわな。)

通常、心層を感じて、操作する事は、数年単位で修業しなければ得とくは難しいとなっていた。

その為に、修行僧なり、神社で修業などをするのだった。

それを経て、心層石から増幅される力を操作し武器に転用するのであった。

(なんにしたって、前の学校で無意識に心層を操ったんだろうな。才能なのか、朝陽自身が何かあるのか...それにしても...。)


「......、よし、朝陽修業はこれぐらいにして、お昼にでもするか。」

「うん。」

「お?帰るの?」

「ああ、そうするよ。」

「了解~じゃあまたね~」

「うん。バイバイ。」

ニコ~っと笑顔で手を振るう叶に返すように朝日は手をふった。


お昼は、隼人の作ってくれた、手作りお弁当を神社の石階段で食べた。

ハンバーグに卵焼き、ブロッコリーにご飯。

なんてこともないが、一つ一つ手作りのようで、安心できる味がした。

食事を終え、さてこれからどうしよう...そう思った時。

階段を上がってくる、少年少女の姿が見えた。


「お、あれは。」

と同時に少年は「あ、優雨のにいちゃーん!」と手を振りながら近づいてくる。

「ああ、晴と亜美じゃないか。」

「にいちゃん、そいつ誰だ?」

こそっと優雨の後ろに隠れる。

「ああ、昨日この町に来た朝陽だ。仲良くしてやってくれ。」

「おう、よろしくな朝陽!俺は大島晴おおしまはる。」

「え、ええっと...」

ぐいぐいっと、距離感の近い晴を少女が頭に綺麗に振り下ろされたチョップをかます。

「痛!なにすんだよ!」

「朝陽ちゃん、怖がってんでしょ!」

まったくと言わんばかりにため息をつく。

ゆっくり近づき、ニコッと笑顔を向けると口を開いた。

「ごめんね、あいつ距離感近いから。私は大島亜美おおしまあみ。あいつとは双子の妹なの。」

「その大丈夫、白垣朝陽です。よろしく。」

二人の心層は身体中に流れが見えた。

優雨にも見えていたが、量が多いのかここまで見えなかった。

(二人の心層は量が少ない?いや、優雨が多いいだけなのかな?)

朝陽の考えを切るように晴が元気な声を上げる。

「そうだ、朝陽も優雨にいちゃんも一緒に遊ぼうぜ!」

「そうだな、そうするか。朝陽もいいか?」

「へ?うん、いいよ。」

「じゃあ、何しようかな~」

「う~ん、かくれんぼとかどうかしら?」

「お!それいいな!じゃあ、かくれんぼで!」

「じゃあ、最初は俺が鬼をしよう。」

「お、いいのか!優雨にいちゃん!」

「ああ。」

(正直、俺が隠れる側だと身長的に無理そうだ。)

「ほら、三十秒数えるから隠れろ。」

「おう!行くぞ朝陽!」

と朝陽の手を引っ張り走る。

「あ、ちょっと待って。」

「コラ!危ないでしょう!」

「さて、数えるか。一...二...三。」


神社の境内、ここから隠れる場所を探す。

普段じゃ味わえないスリルが朝陽の心拍数を上がる。


「じゃあ、どこに隠れる?」

ひそひそと小声で晴は話す。

「う~ん、あそこは?」

と蔵を指さす。

「え?いいの?」

「ええ、桜咲さんがいいって。」

「あ、ここが家だったね。」

「そうそう。さあ、行こう。」

「うん。」


ガラガラっと音を鳴らしながら中に入る。

唯一の窓から入る光が中を照らす。

埃が舞、光を反射する。

今まで来た事ない事が更に冒険心をくすぐる。

どこか、隠れる場所がないか探す。

下をのぞいた時、ちょうど入れそうなスペースを見つける。


「あ、ここどう?」

「よし!朝陽はそこに隠れろ!」

「俺は、ここ!」

と晴、亜美は隠れる。

.........

.........


しばらくの静寂の時間。

これを壊したのは晴だった。

「朝陽の髪って元から白いの?」

「そうだよ。」

「へぇ~海外の人なの?」

「ううん、違う。」

「なんかすげぇ~。」

「.........。」

「ん?どうした?朝陽?」

「.........。」

「朝陽ちゃん。」

二人は覗き込むように朝陽の伺う。

彼女の顔は、真っ青に汗をたらしながら、前を見ていた。

前には、鏡があり、二人には何もない三人が映る。

朝陽はとっさに立ち上がり、ドアを勢いよく開ける。

「「朝陽(ちゃん)!」」


見た見てしまった。

あれは

私は何だ?

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