第2話 「新しい友達」
探偵事務所前。
朝陽と呼ばれる少女は立ち止まる。
町から、車で走り初めて地に足がついた。
初めて来る町、初めて嗅ぐ田舎の匂い、初めて感じるのどかさ。
初めての事だらけだ。
しかし、少女は負の感情しかなかった。
緊張はするが、わくわくはなく。
不安はあれ、楽しみではない。
こんな、心層なんかに関わりなんてなかったら、こんな感情はわかないのだろうか。
そう思うと自然にため息が出てしまう。
ふと、顔を見上げ、耳を傾ければ、のどかな鳥のさえずりと共に声が聞こえる。
探偵事務所の中からだろうか、騒がしい声が聞こえる。
かわいいとか、新しい仲間とか。
「あ、あはは、どうやら盛り上がっているみたいだね。」
彼は
180㎝届かないほどの背丈に、若干細い手足。
目にかかるほどの黒髪に茶色い目。
鼠色の羽織を着ている男性。
優しく話しける彼は骨董屋を営むと同時に探偵事務所のお金周りの管理をしてくれている。
良い人であるのはわかるが、その風貌のせいか、怪しい人物にも見えてしまう。
彼に誘われながら事務所へ入る。
ガチャ。
ドアが開き、その先にあったのは、絵に描いたような事務所風景。
そこには、四人の自分よりか年齢が上であろう少年少女がいた。
だるそうに椅子に座る人、動機が荒い人、後ろの髪をまとめてる人、背が自分とほとんど変わらない人。
何とも不思議な人たち。
「こんにちは、席へどうぞ。」
桜咲が席に誘導しオレンジジュースを置く。
「え~っと、俺が雨宮探偵事務所の所長雨宮優雨だ。白垣朝陽だな?」
朝陽は声を出さず首を縦に振る。
「じゃあ、これから...」
次の言葉を言われる瞬間、彼女は覚悟をした。
心層は未だに、解明されておらず、祟りや呪い。
目に見えないかつ場合によっては死に至ることも噂されている。
それに関することをするのだ、きっとろくな事にはならない。
ああ、きっと私は...。
「町の案内をする。」
「......へ?」
思わず、今まで閉じていた口を開いてしまった。
「外世町の案内をする。この町に住むんだ、学校だって行くし、知っといた方がいいだろう?さあ、行くぞ。隼人は留守番頼んだ。」
と困惑する朝陽を連れ、外へ駆り出す。
いきなり外へ出され、道を歩いている。
どういうつもりなんだろう?
朝陽の横に桜咲が並び声をかける。
「朝陽ちゃん、いきなりでビックリしてるよね?ごめんね。多分、優雨君なりの歓迎だと思うの。」
「...歓迎?」
「うん、だから付き合ってくれると嬉しいな。あ、私、高羽桜咲。あそこで、優雨君に注意してるのが、杉石真也君。あ、あと、あそこで鼻血を出してるのが山城橙夏さん。」
こちらと目を合わせるとニコッと満面の笑みを浮かぶ。
「あの人は怖いかも。」
「あ、あはは、いい人ではあるんだよ?」
「そうなの?」
「うん。それに皆、朝陽ちゃんとお友達になりたいと思ってる。」
(お友達...。)
先頭を歩く、藍色髪の少年を見る。
(あなたもそう思ってるのかな?)
町へでかけた。
杉石家は大きかった。
瓦屋根に、年季の入った引き戸。
和に重きを置いた平屋には、道場がつながっており、中は広く竹刀や胴着が収納されていた。
雑貨屋で休む、おじいちゃんやおばあちゃんが、おせんべいや飴を容赦なく手渡してくれる。
「かわいいらしい、お嬢さんや、これいるかね?」
「こらこら、おじいちゃん。朝陽が困ってるだろ。」
「そう言うな、わしらから見れば可愛くてな~。」
「全く...。」
おじいちゃん達と話す、あの人達は楽しそうで、私も何だか胸の内が温かくなるようだった。。
...そういえば、こうやって、地域の人たちに触れたのはいつだろう。
家並みを過ぎれば、広大な畑が目に映る。
風がやさしく頭をなでてくれるそんな、優しさを感じながら、あの人は町を説明してくれる。
自分たちが行く学校。
木製づくりで、一階建てで赤い屋根の建物。
生徒は少なく、一つのクラスで授業をするみたいだ。
先生も一人で金髪の先生みたい。
授業の時間、行事、お昼ご飯、なんて事もないのに、彼は楽しそうに話す。
それを見ているだけで、学校が楽しそうに見えた。
...そういえば、学校が気になったのはいつぶりだろうか。
「じゃあ、次へ行こう。」
そう言って彼はまた私の手を優しく引っ張るのだ。
日が落ちかけている町。
薄暗い階段を登る。
次が一番この町でのおすすめらしい。
「もう、少し...お、着いた。」
最後の一段を登り切った瞬間、オレンジ色の光が一瞬、視界をゆがませる。
目が慣れ始めた時には、その光景が広がる。
日が沈みかけた太陽で装飾された、美しい橙色の山々。
山からくる風は優しく頬を撫で、歓迎をしてくれているようだった。
「ここだ、よくここで、風にあたりに行くんだ。」
「うん、いい所。」
「だろ?ここで寝るのが好きなんだ。」
「寝ること好きなの?」
「うん?ああ、何だかこの町を感じられるからな。」
「そう。」
いつの間にか、この人との距離が縮まった。
そんな気がした、この人なら...。
「どうやら、仲良くできそうだね。」
「そうだな、一時はどうしたことやらと思ったが。」
「大丈夫だよ、優雨君は、お友達作るの、上手だから。」
「そうだ...私も、仲良くなりたい...。」
「橙夏はもう少し自重しなければ、難しいだろうな。」
「な!そうか...。」
優雨と朝陽を見ながら、三人は談笑を楽しむ。
一同が、事務所に帰った時にはすでに、日が落ち、月がその姿を見せていた。
隼人が事務所でお茶をすすりながら、待っていた。
「あ、おかえり、ちょうどよかった、はい。」
と彼は優雨に物を手渡す。
「例の物。」
「ああ、ありがとう。朝陽、ちょっといいか?」
「何?」
呼ばれたのに、反応し優雨にちょこちょこっと近づく。
「これ。」
「?」
優雨の手にあるものを見せる。
クリーム色の鉱石が埋め込まれた、ペンダントがそこにはあった。
「これは?」
「この町に来た記念とお守りだ。」
「お守り?」
「ああ、お守り、これをつけてたら、朝陽に何かあったら絶対に助けに行くってお守り。それと。」
「それと?」
「友達の証だ。」
友達...。
そんなものはなかった。
前の町では髪が白いと不気味がられた。
心層を持つ証だって。
学校ではバケモノだって。
近寄るなって!
殺されるぞ!
そんな、言葉が私をずっと、ずっとずっとずっとずっと
ずっと..................。
初めて言われた。
友達って...。
可愛いねって...。
触れ合ってくれたのが...。
それが...それが...。
いつの間にか涙を流していた。
これは、うれしいのか、悲しいのかわからない。
感情がぐちゃぐちゃになって今は涙を流し続けた。
でもでも、今は言いたい事があった。
「あ、ありが..とう。」
やっと言えた。
「おう、どういたしまして。」
泣き続けた。
明日頑張りたいから。
泣き続けた。
泣いてもいい。
そんなことを言われた気がするから。
泣き続けた。
友達でいたいから。
完全に静まり返った時間。
朝陽は泣きつかれたのか寝てしまった。
他のメンバーも各々の家に帰った。
今事務所にいるのは、寝室で寝ている朝陽と。
事務机で資料を見つめる優雨だった。
記録---------------
名前:白垣朝陽。
事件内容:心層の力を増大する石「心層石」なしでの、心層の行使が確認。
学校でのいじめ耐え切れず力を行使したものと考えられる。
なお、彼女はその記憶を忘れている模様。
今事件の着目点は、通常、人は一人では心層石なしでは心層を行使する事は不可能。
しかし、今回彼女は行使する事ができた。
これは極めて異例で、危険性が高い。
保護される探偵事務所は注意されたし。
資料提供:心層研究家「大谷 正幸」
ため息をつきながら、彼は今日を思い出す。
白垣朝陽。
彼女の身体から流れる心層を、彼女に会って初めて見れた。
凍てつくほどに寒いような負の感情。
彼女は、その姿からいじめられた。
その感情は次第に膨れ上がり、爆発する。
そうなれば、もう止める人間はいない。
それを止めるのが、心層探偵。
止めるだけでいいのだろうか?排除するだけでいいのだろうか?
「そんな訳ないだろ。」
心層探偵、雨宮優雨は信じる。
彼女がその大きな力と向き合う事を。
もし、彼女がまた爆発してしまうのならば?
「その時は、助けるさ。だってあんなに泣いて、友達になったんだ。きっと助ける。」
少し、恥ずかしくなったのか頭をわしゃわしゃっと手でかくと、彼も寝床につく。
明日も騒がしくなりそうだ。
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