第3話猫に突然のおきゃくさま
冬の寒さが一段と厳しくなって、マフラーも手袋も役にたたなくなりそうになった頃、あたしはいつもより遅い時間に家路に着いた。再来週の学年発表会の歌の練習が始まったのだ。
「あのちーへいせんー、かーがーやくのーはー」
生徒の自主性とかで、曲目はあたしたちが決めることができた。ラピュタの歌。みんな知っているし、歌いやすいというのが選ばれた理由だった。先生たちも、あまり難しくないほうがいいと言っていたし好都合だったのかもしれない。あたしは耳に馴染んだその歌を何回も歌いながら重たいランドセルを背負って機械の山を登った。もうその頃は夜に差し掛かっていた。
そこで、あたしはあの白と黒の子に再開した。なつかしい、ぶち模様、すんなりした尻尾。
でも、あたしが知っていた様子ではなかったのだ。
あたしの目を惹いたのは、そばにいた子猫たちだった。白や、黒や、茶色の毛並み。ぶち模様のある子猫もいた。まとわりついて、白黒ぶちのまわりでにゃーにゃー鳴いている。
たぶんこの子の子供たちなんだろう。
ショックだった。そんな自由な姿で生まれてきたのに。
こんなに子供なんか抱えて。
「おまえ、せっかく身軽だったのに。どこだって行けたのに。なんだって出来たのに。」 あたしはとっさに知ってしまった。
この子はお客様を受け入れたのだ。
もしかしたら、あたしと出会ったときにはもうお客様は来ていたのかもしれない。
「お客様、来ちゃったの?」
あたしがたずねても、猫たちは何も答えてくれない。
「おまえたちは、違うと思ってたのに。ずっと遠くへ行けると思ってたのに。」
学校やお嫁さんや、はだしの冷たさやひとりぼっちよりもずっとずっと遠くに。
大きくなったら、あたしはなんにも持たないで、ただただ自分の足で遠くへ行けるのだと信じていたのに。
そうではなかった。
大きくなったら、どこへも行けなくなるのだ。
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