第2話おきゃくさま

その頃あたしはお客様が苦手だった。夜、パパのお客様が来るだとか、そんなのでもすぐさま階段を駆け上がって、いないふりをした。階段さえのぼってしまえばもう大丈夫というように。階段の下の、パパとお客様の声、足音。足の裏に伝わる大人の様子。そんなの大嫌いだった。それでも食事の途中にお客様が訪ねてくることがあった。大抵そんなときは、あたしのことも知っている人のことが多くて、あたしも最後にお客様にご挨拶をしなくちゃいけなかった。まるでかくれんぼで見つかったときのような気持ちで、あたしは席を立った。

オレンジ色の玄関の光の中で、あたしがぺこりと頭を下げると、靴を履き終えたお客様はあたしに話題を向ける。

「あら、何年生になるの?まあ、もうそんな年?女の子はいいわねえ、男の子じゃ手に負えなくなったりするし。でもねえ、女の子はあっというまにお嫁に行っちゃうのよお…」

ママはお客様と話を続けている。パパはずっと笑っている。そしてあたしひとりだけが取り残される。

いたたまれなくなって、あたしは黙りこんで、ママがパパにそっくりだという爪をじっと見ている。

あたしの話なのに、あたしの知らない話。それでもいつかあたしにやって来る。今日のお客様みたいに。あたしが望んだわけじゃないのに。あたしは、何ひとつ知らないのに。はだしのつま先が、冷たすぎる廊下で感覚も無くなりそうになりながら、あたしはどうしようもなくひとりで立っている。

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