第2話おきゃくさま
その頃あたしはお客様が苦手だった。夜、パパのお客様が来るだとか、そんなのでもすぐさま階段を駆け上がって、いないふりをした。階段さえのぼってしまえばもう大丈夫というように。階段の下の、パパとお客様の声、足音。足の裏に伝わる大人の様子。そんなの大嫌いだった。それでも食事の途中にお客様が訪ねてくることがあった。大抵そんなときは、あたしのことも知っている人のことが多くて、あたしも最後にお客様にご挨拶をしなくちゃいけなかった。まるでかくれんぼで見つかったときのような気持ちで、あたしは席を立った。
オレンジ色の玄関の光の中で、あたしがぺこりと頭を下げると、靴を履き終えたお客様はあたしに話題を向ける。
「あら、何年生になるの?まあ、もうそんな年?女の子はいいわねえ、男の子じゃ手に負えなくなったりするし。でもねえ、女の子はあっというまにお嫁に行っちゃうのよお…」
ママはお客様と話を続けている。パパはずっと笑っている。そしてあたしひとりだけが取り残される。
いたたまれなくなって、あたしは黙りこんで、ママがパパにそっくりだという爪をじっと見ている。
あたしの話なのに、あたしの知らない話。それでもいつかあたしにやって来る。今日のお客様みたいに。あたしが望んだわけじゃないのに。あたしは、何ひとつ知らないのに。はだしのつま先が、冷たすぎる廊下で感覚も無くなりそうになりながら、あたしはどうしようもなくひとりで立っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます